眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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眠りは世界を救う、のでしょうか?

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 しかし話題となっている当人の影雪は、いつの間にかイスに腰かけ、前のテーブルに置いた右手で頬杖をついていた。
 
「夢穂殿もどうぞ、お疲れでしたらあちらでお休みになられてください」
「あ、あそこはお客さんが待つ席だったの?」
「ええ、少々時間がかかりますので」

 そう言ってカッパ童はぽつんと置かれた丸イスに座ると、両手を前に出した。
 すると何もなかった空間に、優しい光が現れる。その中には、透明で薄っぺらい紙のようなものが浮遊していた。
 水かきのついた手が、それを引き寄せるように伸びては縮みを繰り返す。
 その姿は糸を紡いでいるようで、はたを織っているようにも見えた。
 次第に紙のような物質は、しっかりとした布の生地へと変化し、それと同時に色がつき、がらまで施されてゆく。

「す、すごい……」

 幻想的な光景に釘付けになっていた夢穂が、思わず声を漏らした。
 それを耳にしたカッパ童は、一瞬不思議そうに夢穂を見た。

「いえいえ、私どもの術は大したことはございませんよ」
「そんなことないわ、すごいわよ、何もないところからこんなに立派な着物が……人間には絶対できないわ」

 カッパ童はぽっと顔を赤くした。

「そこまで褒められることがございませんので、なんとお返ししてよいやら」
「他のあやかしたちもこんなことができるの?」
「野菜を育てるのや肉を獲るのが得意なあやかしもいれば、私のようにゼロから物質を作り出す者もおります、家や刀など……」

 あやかしによって能力が違うらしい。 
 それは人間ができることに個人差があることに似ていた。
 見た目は異なっても、人とあやかしには通じるものがあると夢穂は感じた。

「本当に、そんなによさそうなものを私がもらっていいのかな? 何も返せるものがないのに」
「お礼なら影雪様にお伝えください」

 手を動かしたままにこやかに促され、夢穂の頭に疑問が浮かんだ。
 ――影雪は、何の能力と引き換えに生活をしているのだろう?
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