眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

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輪が広がるのは嬉しいことです。

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 その後、小人爺が何かいいことを思いついた時のような顔をすると、カッパ童の前に歩み出た。
 皺の多い痩せた両腕を空にかざし、指揮を振るように柔和に動かす。
 すると、何もない空中に焦茶色の木の板が現れた。
 さまざまな形をした木材はみるみるうちに数を増し、音もなく浮遊しながら地面に向け移動する。そして縦横斜めに重なり合わさると、あっという間に四角い小屋が出来上がった。
 嘘のように滑らかで見事な技に、夢穂は茫然とした後拍手を送った。

「す、すごい、どうなってるの」
「小人爺は木を組み立てるのが得意なあやかしでございますので、こちらを夢穂殿に差し上げたいと」
「ええっ、本当に? いいの!?」

 カウンターのような長い机に屋根がついたその姿は、夜店の屋台のようだ。
 これがあれば往来しているあやかしの目を引くだろう。実際すでに何人かの視線を感じている。
 嬉しくなった夢穂は、小人爺とカッパ童の手を順番に握るとぶんぶん振った。

「ありがとう、小人爺、カッパ童、やる気が出てきたわ」

 夢穂の背後に大人しく待機していた影雪は、照れる小人爺とカッパ童を羨ましそうに眺めていた。

「なんだ、胸の辺りがもやっとしたぞ」

 未だ腕に山盛りの薬草を携えたままの影雪は、初めての感情に首を傾げていた。
 そんな影雪の変化も知らず、夢穂は薬草を屋台の机に載せると、ちらほら足を止める往来客の一人に声をかけた。

「あの、そこの綺麗なお姉さん」

 時代遅れのナンパのような客引きになってしまったが、呼ばれたあやかしはすぐに気づき、夢穂に近づいてきた。
 派手に盛られた黒髪に豪華なかんざし、雅な着物と前に垂らされた帯はまさに花魁だ。
 その顔には目と鼻が見当たらず、代わりに裂けたように大きな口が妙に目立っていた。

「あんた、人間だろう? あちきが怖くないのかい?」
「ちっとも、すごく綺麗だから声をかけたの」
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