171 / 175
エピローグ
9
しおりを挟む
「夢穂ーっ、全然反応ないから勝手に裏口から入ってきちゃっ――」
直線の廊下の奥から、能天気な声とともにやって来たのは二人の少女だった。
相変わらずふりふりのワンピースを着た美菜は、振っていた手を顔の横で固定させたまま動きを止めた。
その後方にいるボーイッシュな服装の沙子は、真顔で棒立ちしている。
時が止まるとはこういうことだ。
いや、止まってくれたらいいのにな。
冷や汗をかいた夢穂は、そんなことを考えながら、遠巻きの沙子と美菜を見ていた。
「……ほら、そろそろハロウィンだから」
あくまで仮装で通そうという、引き出しの少ない自分を恨む。
しかし夢穂のそんな言葉など、美菜の耳には入っていなかった。
美菜の片手にぶら下がっていた白い箱が廊下に落ちる。
お土産のケーキに雪崩が起きたところで、美菜はゆっくりと両手を組み合わせた。
「す、素敵……」
ほう、とため息混じりに囁く美菜の垂れ目は、きらきらと輝く濃いピンク色と化していた。
そして一心不乱に獄樹の元に駆け寄ると、その顔を間近で見上げた。
「超絶イケメンのお兄さんっ、趣味はサーフィンですか、すごく綺麗に焼かれてますねっ、カラコンの趣味も最高ですし、あっ、あたしは美菜っていいます、胸焼け必至のパティシエを目指してまして、毎日あまあまラブラブのとろけるスウィーツを提供させていただきますっ、スリーサイズは」
美菜の怒涛のアピールに、獄樹は絶えず後ずさりをしたのち、身体を反転させ逃げ出した。
色黒でもわかるほど血の気が引き焦る獄樹は、化け物にでも遭遇したかのようだった。
直線の廊下の奥から、能天気な声とともにやって来たのは二人の少女だった。
相変わらずふりふりのワンピースを着た美菜は、振っていた手を顔の横で固定させたまま動きを止めた。
その後方にいるボーイッシュな服装の沙子は、真顔で棒立ちしている。
時が止まるとはこういうことだ。
いや、止まってくれたらいいのにな。
冷や汗をかいた夢穂は、そんなことを考えながら、遠巻きの沙子と美菜を見ていた。
「……ほら、そろそろハロウィンだから」
あくまで仮装で通そうという、引き出しの少ない自分を恨む。
しかし夢穂のそんな言葉など、美菜の耳には入っていなかった。
美菜の片手にぶら下がっていた白い箱が廊下に落ちる。
お土産のケーキに雪崩が起きたところで、美菜はゆっくりと両手を組み合わせた。
「す、素敵……」
ほう、とため息混じりに囁く美菜の垂れ目は、きらきらと輝く濃いピンク色と化していた。
そして一心不乱に獄樹の元に駆け寄ると、その顔を間近で見上げた。
「超絶イケメンのお兄さんっ、趣味はサーフィンですか、すごく綺麗に焼かれてますねっ、カラコンの趣味も最高ですし、あっ、あたしは美菜っていいます、胸焼け必至のパティシエを目指してまして、毎日あまあまラブラブのとろけるスウィーツを提供させていただきますっ、スリーサイズは」
美菜の怒涛のアピールに、獄樹は絶えず後ずさりをしたのち、身体を反転させ逃げ出した。
色黒でもわかるほど血の気が引き焦る獄樹は、化け物にでも遭遇したかのようだった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる