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出会いの夜
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浴室を出て、黒のバスマットに足を乗せ、白のバスタオルを身体に巻く。
この家の生活用品は無地ばかりだ。インテリアと呼べるものはなく、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景。
こだわりがあるわけじゃない。柄を見ると迷ってしまう。だから結局いつも、模様がないものを選んでしまうだけ。
濡れた長髪をヘアタオルでまとめていると、洗面台に置いたスマートフォンが振動した。
硬い素材の上なので存外激しい音が鳴る。
洋服のポケットにちょうど収まるサイズの最新機種を手にすると、液晶画面に表示された名前を見て色めき立つ。
久しぶりだ。私から電話をしてもいつも出てくれないから。
指先で受話器のマークを押すと、急いで縦長の機器を耳に当てた。
「あっ、もしもし、お母さんっ?」
不思議な世界で得た高揚感をそのままに、弾んだ声で話しかける。
聞いてほしいことがあった。この機会を逃すと今度はいつになるかわからない。だから自然と口が速まった。
「私ね、この前課長に昇進したのよ、女性では異例のスピードで職場のみんなが驚いてたわ、またスキルアップの試験も受ける予定だから、これからもどんどん出世して――」
「お金」
浮き足立った私の言葉はたった三文字に遮断された。
調子に乗るなと言われたような気がした。
この家の生活用品は無地ばかりだ。インテリアと呼べるものはなく、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景。
こだわりがあるわけじゃない。柄を見ると迷ってしまう。だから結局いつも、模様がないものを選んでしまうだけ。
濡れた長髪をヘアタオルでまとめていると、洗面台に置いたスマートフォンが振動した。
硬い素材の上なので存外激しい音が鳴る。
洋服のポケットにちょうど収まるサイズの最新機種を手にすると、液晶画面に表示された名前を見て色めき立つ。
久しぶりだ。私から電話をしてもいつも出てくれないから。
指先で受話器のマークを押すと、急いで縦長の機器を耳に当てた。
「あっ、もしもし、お母さんっ?」
不思議な世界で得た高揚感をそのままに、弾んだ声で話しかける。
聞いてほしいことがあった。この機会を逃すと今度はいつになるかわからない。だから自然と口が速まった。
「私ね、この前課長に昇進したのよ、女性では異例のスピードで職場のみんなが驚いてたわ、またスキルアップの試験も受ける予定だから、これからもどんどん出世して――」
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