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奇妙な仲間たち

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「なんだか、若い頃を思い出すなぁ」

 戸惑う私をよそに、部長は両手を合わせ「ごちそうさまでした」と言うと、徐に立ち上がった。
 
「そろそろおいとまするよ、つい時間を忘れて居座ってしまうからね」

 時間、というワードに、左手が勝手に持ち上がる。
 常日頃時計を気にしている私の癖だ。
 そこで初めて異変を知る。
 丸い文字盤の中、短針と長針が左右別方向にぐるぐる回り続けていたのだ。
 
「知らなかったのかい、ここでは時間を確かめるものがないんだ。デジタルだと電源も入らないよ」

 唖然とする私に、この店について先輩の部長が当然のように述べた。
 試しにタイトスカートのポケットに入れたスマートフォンを取り出して見たが、画面は真っ暗でどのボタンも反応しなかった。
 新事実に驚きはしたものの、妙に納得してしまう部分もあった。
 今まで時計を見ようともしなかった。
 時間を忘れて過ごせるこの場所では、必要ないのかもしれない。
 
 部長に釣られたわけではないけれど、私もあとを追うように席を立つ。
 なにかきっかけがなければ延々と居続けてしまいそうだったからだ。
 店主にぺこりと頭を下げると、なに一つ残っていないテーブルをあとにする。
 玄関に向かう部長の後ろを歩いていると、急に目の前に綺麗な顔が出てきて「ギャーッ!」と悲鳴を上げた。
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