上 下
150 / 206
お礼

9

しおりを挟む
「わ……ワタシも、賛成デス、いいですネ、それ」

 どうやら私の思うがままの気持ちは、白鳥さんにも伝わったようだ。

「猫宮さんになにかお礼をしたいと思っていたのに、いい案が浮かばなかったの。ありがとう、白鳥さん」
「い、いえ、ワタシは別になにモ……」
「思いつくきっかけをくれたじゃない」

 白鳥さんは俯き加減に、正座した膝を擦り合わせて恥ずかしそうにしている。
 褒められ慣れていないのだろう。
 それを考えると、私たちが似ているって、あながち間違いではないかもしれない。

「そうと決まれば白鳥さんも協力して」
「え? わ、ワタシ?」
「そうよ、出禁のままでいいの? ちゃんと自分が悪かったところを改めて、今後他の人たちに迷惑をかけないなら、猫宮さんだってわかってくれるはずよ」

 白鳥さんはぐっと手に力を入れ、なにか決心をしたようだった。
 新しいことを始めるのは怖い。
 けれど、始めなければなにも変わらない。

「わ、わかりましタ、ワタシも、なんでもやりまス。あなたといれば、お店にも入れるかもですシ」
「あ……うーん、勘違いしてるみたいだけど、私、なにも猫宮さんと特別な関係じゃないですからね」

 期待に湧く白鳥さんに、一応釘は刺しておく。
 猫宮さんはお客さんに優しい。誰だって分け隔てなく接する。きっと、それが彼の生き甲斐なのだ。
 だからそれを寂しいなんて思ってはいけない。
 大昔から続く店、流れゆく時の中で、私もみんなと同じ、無数の一人であるとしても。
 もらったもののほんの少しだけでも、お返ししたい。
 猫宮さんの、心からの笑顔が見たい。
しおりを挟む

処理中です...