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働かされる。

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「佐藤さんもわからないんですね、てっきりお料理全般詳しいのかと」
「俺がわかるのはスウィーツだけだ。その他はからっきしだと……父さんや同級生にもよく言われる」

 困ったように短く息をつく甘路に、くるみはほんの僅かだけ親近感を覚えた。
 その後、甘路が近くにいた店員に声をかけると、急いで注文を聞きに来た。結局、甘路が頼んだのはアボカドと但馬牛のステーキ丼。お値段三千八百円。

「ご一緒にお飲み物もいかがですか?」
「ああ、俺はリンゴジュースを。くるみは、飲み物は」
「あああ私はいいです!」

 どう見てもコーヒーと言いそうな口から、甘い飲み物が出てほっこりしたくるみだったが、話をふられて必死に否定した。
 ただでさえ高いランチに飲み物なんてつけようものなら、くるみの財布が悲鳴を上げてしまう。
 くるみが焦っている理由がまったくわからない甘路は、不思議に感じながらも「そうか」と呟きメニュー表を店員に返した。
 ようやく注文が終わり、一安心したくるみは、ふと視線を感じる。
 気になってチラチラと周りを窺ってみると、あらゆる方向からいろんな人に見られていた。 
 テラス席の客や、食器を片付ける店員、共通しているのは、みんな女性ということ。
 なんとなく、彼女たちが言いたいことを察したくるみは、テーブルに視線を落とした。
 ――ごめんなさい、私なんかが一緒に来たりして……。
 申し訳なくて背中を丸めるくるみから、グーギュルゴーとなかなか主張の激しい音がする。空気を読まない腹の虫に、しばしの沈黙が二人を包んだ。
 
「……腹が減ったな」
「す、すみません! お、美味しそうな匂いがするものでっ」

 どんな状況でも影響を受けない、強靭な胃腸がこの時ばかりは恨めしかった。

「匂いもよくわかるか?」
「そう、ですね、煮込んだり焼いたり、匂いが立つものは、それなりにわかるかと」

 口と鼻は繋がっている。味覚がいい者は、嗅覚も優れているものだ。
 そんな話をしているうちに、手早く調理された品が、二人の元に運ばれる。美味しい匂いが二つ、一度に目の前に来て、くるみは目一杯、鼻から息を吸い込んだ。
 分厚くカットされたベーコンに、玉ねぎのみじん切りがたっぷり混ざったオレンジ色の頂には、細かく刻まれたチーズが山盛りになっている。
 見た目はミートソースかナポリタンに近いが、くるみは匂いだけでもある程度違いがわかった。
 こんな高いランチは、もう二度と口にしないだろう。ならば、せっかく食べる今を、楽しむしかないと思うくるみ。
 甘路のケーキを初めて食べた時と同じように、きちんと両手を合わせて「いただきます」と言いフォークを持ち上げた。そしてくるくる巻きつけたパスタを口に運ぶと、ちゅるんと吸い込み、しっかりと噛んで飲み込む。
 甘路はステーキ丼に手をつけず、唸りながら味わうくるみを眺めていた。
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