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祝われる。
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電車に乗って二、三分後、代官山の駅に到着する。想像以上に早かったので、これからは活用したいと思いながら、くるみは駅から街に出た。
何度見ても存在感がある、六階建てのグレージュ色のマンションを横切って店に向かう。
オレンジ色の空が、徐々に夕闇へと変わりつつあった午後六時、くるみは再び今朝と同じ場所に立った。
落ちてくる青闇の下、ほのかに照明が灯ったドゥートンもまた素敵だ。こんなところで働けるなんて、なんと光栄なことだろう。まだ詳しい雇用条件はわからないが、どんな内容でも一切問題ない。
そんな気持ちを胸に、店のドアを開くくるみ。なぜ、従業員用の裏口ではなく、客用のドアを開いたかというと、昨夜と似たような理由だ。ショーケースに並んだケーキたちが、あまりに美味しそうだったから。
「いらっしゃいま――あ、くるみちゃん!」
中に入ったくるみに、気づいた洋子が笑顔で話しかける。
今朝の行列が嘘のように静まり返った店内。客は一人もいないので、くるみはすぐにショーケースの前まで歩いていけた。
「すみません、洋子さん、なにも言わずに抜けてしまって……」
「いいのよ、オーナーの指示だって聞いてるし」
本当はくるみの意思で、職場に辞めると言いに行ったのだが、甘路は自分の指示だと伝えてくれたようだ。
「今はだいぶ、落ち着いてるんですね」
「人気店はほとんど午前中で売れちゃうからね、イートインも五時までだし」
昨夜はそうとは知らずに、閉店後に入店した上に、イートインスペースに着席までしたくるみは、困ったように笑った。
「ただ、うちは夕方に一種類だけ新しく焼くの。仕事帰りの人向けにね。ほら、疲れてると甘いものが欲しくなったりするじゃない? それなのに、一つも買えるものがないとしょんぼりするからって、オーナーが」
洋子の話に、感心の息を漏らすくるみ。
仕事に家事育児、学校など、午前中は忙しい人も多いはずだ、せっかくこの店の商品を買いたいと思っても、早い時間に来られないこともある。
そんな人たちが帰路に着く頃、新しいケーキが用意されていたら、心ときめくに違いない。
しかも夕方から限定とあらば、特別感もあるし、その時間を狙ってリピートする客も増えそうだ。
何度見ても存在感がある、六階建てのグレージュ色のマンションを横切って店に向かう。
オレンジ色の空が、徐々に夕闇へと変わりつつあった午後六時、くるみは再び今朝と同じ場所に立った。
落ちてくる青闇の下、ほのかに照明が灯ったドゥートンもまた素敵だ。こんなところで働けるなんて、なんと光栄なことだろう。まだ詳しい雇用条件はわからないが、どんな内容でも一切問題ない。
そんな気持ちを胸に、店のドアを開くくるみ。なぜ、従業員用の裏口ではなく、客用のドアを開いたかというと、昨夜と似たような理由だ。ショーケースに並んだケーキたちが、あまりに美味しそうだったから。
「いらっしゃいま――あ、くるみちゃん!」
中に入ったくるみに、気づいた洋子が笑顔で話しかける。
今朝の行列が嘘のように静まり返った店内。客は一人もいないので、くるみはすぐにショーケースの前まで歩いていけた。
「すみません、洋子さん、なにも言わずに抜けてしまって……」
「いいのよ、オーナーの指示だって聞いてるし」
本当はくるみの意思で、職場に辞めると言いに行ったのだが、甘路は自分の指示だと伝えてくれたようだ。
「今はだいぶ、落ち着いてるんですね」
「人気店はほとんど午前中で売れちゃうからね、イートインも五時までだし」
昨夜はそうとは知らずに、閉店後に入店した上に、イートインスペースに着席までしたくるみは、困ったように笑った。
「ただ、うちは夕方に一種類だけ新しく焼くの。仕事帰りの人向けにね。ほら、疲れてると甘いものが欲しくなったりするじゃない? それなのに、一つも買えるものがないとしょんぼりするからって、オーナーが」
洋子の話に、感心の息を漏らすくるみ。
仕事に家事育児、学校など、午前中は忙しい人も多いはずだ、せっかくこの店の商品を買いたいと思っても、早い時間に来られないこともある。
そんな人たちが帰路に着く頃、新しいケーキが用意されていたら、心ときめくに違いない。
しかも夕方から限定とあらば、特別感もあるし、その時間を狙ってリピートする客も増えそうだ。
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