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祝われる。

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 くるみがボストンバッグを肩にかけ、ショーケースの後ろに回ると、女性従業員と会釈を交わす。彼女も甘路からくるみのことは聞いているらしく、すでに従業員として受け入れている様子だ。
 甘路は厨房を通ってバックルームに到着すると、更衣室の隣にあるグレーのドアを開く。後ろからついて来ていたくるみは、甘路に促され、その中に入った。
 ドアと同じ色のデスクと椅子が一組に、端に置かれた丸椅子が二脚、壁際の棚にはさまざまな資料が並んでいる。
 こぢんまりとした事務所だが、パソコン作業や、ちょっとした休憩を取るには十分なスペースだろう。

「ここで面接したり、売り上げの管理なんかをしてる」
「そうなんですね、それも佐藤さんがされてるんですか?」
「基本は俺だが、ホームページのデザインなんかは、他の従業員がやってくれてる……俺はそういうのは苦手でな」

 ハァッと少し困ったように話す甘路に、くるみはまた一つ学ぶ。
 そういえばランチをした時、人付き合いが得意ではないとか、スウィーツに関して以外はからっきしだとか言っていた。
 クールで完璧に見える甘路の根っこの部分、その一部を、くるみは早くも垣間見ていた。

「弁当なんかを持ってきたら、ここや更衣室で食べてもかまわない。まぁ、大体はみんな外に食べに出かけるけどな」

 頷きながら、心の中で喜ぶくるみ。周りにたくさんいい店があるので、外食が基本になるのはわかるが、それはお金に余裕があればの話。 
 節約が当たり前の生活をしてきたくるみは、お昼に弁当が可能と知って安心した。

「俺が来るまでここで待っててくれ、少し遅くなるかもしれないが」
「大丈夫です、何時でも」

 甘路の言葉を快く聞き入れたくるみは、ボストンバッグを床に置き、その上にリュックをのせる。そして顔を上げたところに、白地に小花模様の箱が差し出さた。
 甘路曰く、引越し祝いであるケーキ、が入った小さな箱だ。くるみの荷物が多いので、ここまで運んでくれたらしい。

「あ、ありがとうございます、このご恩は必ず」
「忘れていいぞ」

 さらっと言って退ける甘路から、恐縮しつつケーキに手を伸ばすくるみ。
 小さな箱の上についた取手を、両手で大事そうに握り、宝物でももらったように微笑む。
 そんなくるみを見て、つい和んでしまう甘路だったが、いやいやと大事なことを思い出す。

「……できれば、食べた感想をメモしておいてくれないか。誰にも見られないように」
「はい、わかりました」
「時間外で悪いが」
「いいえ、お安いご用意です!」

 パッと明るい笑顔で力こぶを作ってみせるくるみに、やはりどこかほんわかしながら、甘路は事務所を後にした。
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