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祝われる。

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 なるべく細かく記そうと努力するくるみだが、今まで口にしてきた材料が少ないので、種類の名前まではわからない。
 ――佐藤さんなら、調味料からお酒の名前とか、全部わかるんだろうな。
 そう考えたくるみには、やはりあの疑問が浮かぶ。
 ――佐藤さんの方が絶対いい味覚をお持ちだと思うんだけど……。
 甘路は「違う人間の意見も取り入れたい」と言っていたが、それなら他のパティシエや販売員でもいいはずだ。
 それなのになぜ、わざわざ外部の人間だったくるみを呼び寄せたのか、味覚に特化している人材を求めていたのか――。
 思いを巡らせるくるみだったが、それについて言った時の甘路の表情が蘇る。明らかに触れられたくない、そんな気がしたのだ。
 ――深く考えるのはやめよう、あんなにすごい人なんだから、きっと私じゃ想像もつかない理由があるんだ。
 くるみは首を横に振って詮索の糸を切ると、ペンの動きを再開した。

「……うん、こんな感じでいい、かな?」

 くるみは書き上げたメモをチェックすると、デスクに置いて、待ちかねていたスウィーツタイムに戻る。ホワイトチョコでできた薔薇の花弁を、なくなるのを惜しむように、一枚一枚丁寧に口に含んだ。
 こんなに大切に食べてくれたら、パティシエ冥利に尽きるが、いささか味わいすぎなので、歯磨きは念入りにした方がよさそうだ。
 食べ終えた後、くるみは棚に並んだ資料を眺めたり、スマホでドゥートンのホームページを見たりした。するとそこで紹介されていた、店主の欄で手を止める。くるみが気になったのは、名前の部分だ。

「……名前に、甘いが入ってる」

 甘路から名前は聞いたものの、口頭だったため、どんな字を書くか知らなかったくるみは、軽い衝撃を受けた。

「甘いみちなんて……本当に、パティシエになるために生まれてきた人なんだな」

 菓子業界の申し子、そんな異名がくるみの脳裏に浮かんだ時、急にドアが開いて体を跳ねさせた。と同時に、デスクに置いたメモを急いでズボンのポケットにしまう。甘路に「誰にも見つからないように」と言われていたので、忠実に守っている。

「ごめんね、締め作業だけさせてもらうよ」

 指を揃えた片手を顔の前に出しながら、事務所に入ってきたのは年配のパティシエだ。
 くるみが休憩に出た時も確かいたが、ハンチング帽とマスクをしていたので顔がよくわからなかった。今は白髪混じりの短い髪も、小皺に囲まれた優しい目元もよく見える。
 くるみは「すみません、どうぞ」と言って席を譲ると、代わりに座った彼が、デスクのパソコンを起動させた。
 今時の、薄型のデスクトップだ。厨房の電化製品や調理器具一つにしても、いいものを使っていることがわかる。
 そしてそれは、店が繁盛している証拠でもあった。
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