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祝われる。
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「あの、佐藤さんはまだ、お仕事されてるんですか?」
くるみは端っこの丸椅子に移動すると、パソコンの画面を見ている彼に尋ねた。
「うちのオーナーの場合、ケーキ作りは仕事ってより生き甲斐だからなぁ、プライベートとの境目なんてないんじゃないかな。他のパティシエが夜中に忘れ物を取りに来た時も、休みの日に連絡した時も、いっつも厨房にいるらしいからね」
彼は視線をそのままに、慣れた手つきでキーボードを打ちながら続ける。
「もうちょっと私たちに頼ってくれてもいいんだけどねぇ、スウィーツに関しては、一切妥協を許さない、根っからの職人気質なんだ。大桃さんも、ここで待ってても埒が開かないと思うよ。たぶん夜中まで厨房から出てこない――」
彼が話の途中で固まったのは、まだ開かないはずのドアが開いたからだ。
やって来た気配に振り向いた彼は、ドアを開けた人物を見て目を大きくした。
「……出てきた」
時間は夜八時なので、取り置きがない限りは閉店だ。本来はここで帰るのが当然ではあるが。
よほどこの時間に甘路が出てくるのが珍しかったのか、年配パティシエはオバケでも見たような顔つきになった。
なんのことかわからない甘路は、不思議と怪訝が混じったような目で彼を見る。ハンチング帽とマスクを外しているので、表情がよくわかる。
「なにがですか?」
「あ、いや、なんでも、私はこれで、じゃあ大桃さん、また」
「はい、お疲れさまでした!」
席を立って頭を下げた彼は、くるみの元気な挨拶を後に、そそくさとドアから出ていった。
年配パティシエと入れ替わる形で、中に入ってきた甘路に、立ち上がったくるみが、ズボンのポケットから例のものを取り出した。
くるみは端っこの丸椅子に移動すると、パソコンの画面を見ている彼に尋ねた。
「うちのオーナーの場合、ケーキ作りは仕事ってより生き甲斐だからなぁ、プライベートとの境目なんてないんじゃないかな。他のパティシエが夜中に忘れ物を取りに来た時も、休みの日に連絡した時も、いっつも厨房にいるらしいからね」
彼は視線をそのままに、慣れた手つきでキーボードを打ちながら続ける。
「もうちょっと私たちに頼ってくれてもいいんだけどねぇ、スウィーツに関しては、一切妥協を許さない、根っからの職人気質なんだ。大桃さんも、ここで待ってても埒が開かないと思うよ。たぶん夜中まで厨房から出てこない――」
彼が話の途中で固まったのは、まだ開かないはずのドアが開いたからだ。
やって来た気配に振り向いた彼は、ドアを開けた人物を見て目を大きくした。
「……出てきた」
時間は夜八時なので、取り置きがない限りは閉店だ。本来はここで帰るのが当然ではあるが。
よほどこの時間に甘路が出てくるのが珍しかったのか、年配パティシエはオバケでも見たような顔つきになった。
なんのことかわからない甘路は、不思議と怪訝が混じったような目で彼を見る。ハンチング帽とマスクを外しているので、表情がよくわかる。
「なにがですか?」
「あ、いや、なんでも、私はこれで、じゃあ大桃さん、また」
「はい、お疲れさまでした!」
席を立って頭を下げた彼は、くるみの元気な挨拶を後に、そそくさとドアから出ていった。
年配パティシエと入れ替わる形で、中に入ってきた甘路に、立ち上がったくるみが、ズボンのポケットから例のものを取り出した。
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