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住まわされる。

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「今日からここがくるみの家だ、改めて、よろしく頼む」

 とてもありがたい挨拶なのだが、今のくるみの頭にはまったく入ってこない。
 涼しげな目に形のいい鼻、吐息まで触れそうな距離に、一瞬頭がフリーズした後、一気に溶け出し爆発する。

「わ、かりました……わかりましたからそのっ……顔面で、攻撃するのはおやめください」

 美形の破壊力がすごいので、早いところ離れてください、という意味なのだが、動揺しているくるみに、解説する余裕はない。
 ――顔面で攻撃……?
 そんな台詞を真面目に受け止めた甘路は、首を捻るしかなかった。
 その後、ようやく手を離してもらったくるみは、甘路に近所のスーパーマーケットの場所を尋ねる。すると甘路はシルバーのスマホを出しながら、あることを思いついた。

「そうだ、連絡先を交換しておかないとな」
「あ、はい、そうですね」

 くるみもスマホを取り出し、互いに画面を見合って通話アプリの連絡先を登録する。
 それから甘路はいくつか買い物できる店を教えると、再び階段の方を向く。そして足を進めようとした時、ふとあることを思い出してくるみを見た。
 そしてズボンのポケットを探ると、取り出したものをくるみに提示する。目の前で揺れる銀色の鍵に、くるみは甘路が言わんとすることを理解した。
 
「うちの鍵だ、いくつかスペアがあるから、これはくるみに渡しておく」
「はい、ありがとうございます」

 くるみが両手のひらを合わせ器を作ると、甘路がそこにそっと鍵を置く。
 鍵を渡されると、同じ家で生活するんだと実感が湧く。合鍵なんて、まるで同棲カップルみたい。そんなことを一瞬でも考えてしまったくるみは、脳内で自分を平手打ちした。
 そして、鍵をズボンのポケットにしまおうとした時、鍵に隠れていた小さなキーホルダーに気づく。
 アクリルではなく、合金でできた硬い素材、キラキラ光るイチゴをのせたショートケーキだ。

「開業三十周年の記念にもらったんだ、付き合いがある店からな」

 キーホルダーを見つめるくるみに気づいた甘路が、質問される前に答えた。
 確かに、ショートケーキの下部に30thAnniversaryと文字がある。間違いなく、記念日用に特注されたものだ。
 
「俺が普段使っていた鍵だからな、嫌なら外して、別のものをつければいい」
「そんな、嫌なんてこと……私が使っていいんでしょうか?」
「他にもいろいろ、山ほどあるんだ、むしろもらってくれ」

 やれやれといった感じで、ため息混じりに話す甘路。有名店となると、顔の広さに応じて付き合いも多くなる。つまり、祝い事の贈答品も増える。
 その時の従業員しかもらえない代物なので、とても貴重ではあるのだが、当の店主の手には余る様子だ。
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