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尽くされる。

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 しばらくすると、甘路は大きな建物の駐車場に車を停め、エレベーターに乗ると、目的地へと向かう。
 そしてやがて見えてきた景色に、くるみは激しく後悔した。
 ツヤツヤに磨き抜かれた床に、時計やジュエリーがずらりと並んだ広いフロア。辺り一面、どこもかしこも煌びやかで、くるみは目眩を起こしそうだった。
 ――そうだ、この方に任せれば、こうなる……わかってたはずなのに……。
 リュックのショルダーストラップを握りしめたまま、店の前で棒立ち状態のくるみ。
 二人の現在地は、デパートの宝飾売り場、その中にあるメガネ屋だった。
 しかし、立ち往生しているのはくるみだけで、案内人の甘路は、ごく自然に店の敷地内に入る。
 ここまで来て引き返すことは許されない……そう感じたくるみは、帰りたくなる気持ちを堪えて足を上げた。
 ――デパートでもメガネ屋さんだもんね……きっと一万円もあれば買えるはず。
 そう考えれば怖くないと、くるみは自分を落ち着かせながら店に踏み込んだ。
 一言で言えば舐めていたのだ。くるみの今までのメガネは五千円ほどだったので、少し上乗せすればいいくらいだと。無知とは恐ろしいことだ。

「これはこれは、いらっしゃいませ、佐藤様」

 店内に入った甘路に、一人の男性店員が話しかけてきた。
 四十代くらいだろうか、小柄で恰幅がよく、薄い縁のメガネをかけている。
 二人のやり取りを少し離れた場所で見ていたくるみは、会話がひと段落するのを見計らって甘路に近づいた。
 
「お知り合いですか?」
「父さんの老眼鏡を買った時、世話になったんだ」
「なるほど」

 自分に自信がないくるみは、無意識に甘路の後ろに隠れるように話していた。
 すると、めざとい男性店員が、にこやかな表情で声をかける。

「今日はずいぶん可愛らしいお連れ様とご一緒ですね」
「ええ、彼女のメガネが悪くなってしまったので、似合いそうなのを見繕ってやってください」
「かしこまりました」

 ハッキリと聞こえた会話に、くるみは自分の耳を疑った。可愛らしいお連れ様……について、さらりと肯定した甘路。おまけに「彼女」と言われて、一瞬頭が混乱した。
 すぐに恋人の意味ではなく、ただの代名詞だと気づいた日には、地中海の奥底まで沈みたくなった。
 
「お好きなデザインはございますか?」

 男性店員に聞かれ、くるみの忙しい脳内が落ち着く。気になることは一旦置いて、まともなメガネの購入が先決だ。
 
「あ、いえ、特にこだわりとかはなく……使いやすければいいかなと」
「それでは軽い商品の方がいいかもしれませんね」

 店員に案内されながら、くるみは改めて店内をキョロキョロ見渡した。
 暖色の光に照らされた、木造のテーブルや棚に、たくさん並んだメガネたち。埃一つ見られないガラスの仕切りに、手入れが行き届いているのがわかる。
 
「お客様はお顔に丸みがございますから、こちらのスクエア型もお似合いかと思います」

 のろのろとやって来たくるみに、店員が壁際に並んだ商品を手のひらで示した。
 ガラスの仕切りに並んだメガネは、どれもピカピカで高級感が漂っている。
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