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尽くされる。

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 それから着替えを用意したくるみは、脱衣所で服を脱ぐと、浴室に入った。白を基調とした綺麗な浴槽と、全自動の湯沸かし機能に感動しながら、入浴を終える。くるみの家はバランス釜で、シャワーヘッドを使っていたので、一気に快適になったのだ。
 洗面所に置いてあったタオルで体を拭き、ドライヤーで長い髪を乾かす。身一つで来ても何不自由ないくらい、生活必需品が揃っていた。
 新しい服を着用すると、洗面所に置いていたメガネを手に取り、外れたレンズをなんとかはめる。そして改めてメガネをかけると、鏡を見ながら櫛でとかした髪で三つ編みを作る。そこから後ろに手を回し、器用に編み込んでリースのような形にした。
 昨日、洋子にしてもらったことを、感覚で試したのだ。真後ろからやり方を見ていたわけでもないのに、見事な仕上がりだった。
 これから甘路と並んで歩くので、少しでもマシな見た目にしたい。そう思ったくるみは、顔を左右に動かし、上手くできた髪型を確認してからバスルームを出た。
 くるみがリュックを背負って一階に下りると、甘路はすでに玄関の壁にもたれて待っていた。
 ネイビーのテーラージャケットに白いシャツ、グレーのチェックパンツ姿で、繊細な髪をワックスで少しだけ横に流している。
 ――はぁぁ……カッコイイ人は服装までオシャレなんだなぁ……。
 洗練された大人の雰囲気に、思わずぽうっとしてしまうくるみだが、その直後に自分の服装を思い出し、違う意味でため息が出そうになる。
 ――せっかく街に出るなら、もう少し綺麗な服、買おうかな……。
 初めてくるみは、オシャレというものを意識した。自分のためではなく、甘路に恥をかかせないために。

「じゃあ、行くか」
「はい」

 甘路に促され、くるみは一緒に家を出た。

「どこか行きたい店はあるか?」
「いえ、特にないので、さと……あ、か、カン、ジさんの、お好きなところで」

 下の名前を呼ぶ時、恥ずかしそうに詰まるくるみに、甘路は胸の高鳴りを覚える。
 ――いや……待て、可愛いとか……そういうことは思っちゃダメだろ、雇い主なんだから。
 甘路はいい大人なので、自分の感情の変化くらいわかる。
 ――あくまで俺たちは、仕事上の関係……それだけだ。
 新たななにかが始まってしまいそうな、甘路はそんな予感を心の中で振り払った。

「じゃあ、渋谷にするか、近いしな」
「あ、はい、お任せします」

 控えめな笑顔を見せるくるみを連れて、家のガレージに置いた車に案内する。
 先にドアを開いてくるみを助手席に乗せると、甘路は後から運転席についた。そしてエンジンをかけようとした時、隣に座ったくるみの変化に気づいた。
 膝にのせたリュックを抱えながら、目をあちこちに動かし、ハラハラソワソワ落ち着かない様子だ。
 
「大丈夫か? 車酔いするなら電車でもいいぞ」
「い、いいえ、ただ、こんな高級そうな車に乗ったことがないので」
「そんなに高くないぞ、五百万くらいだから一括で買えたしな」

 甘路が気遣いで告げた言葉は、くるみにはとどめの一言でしかなかった。
 エンジンがかかり車が動き出すと、くるみはぎゅっと口を結び、腹に力を入れた。
 ――死んでも吐かないようにしなければ……!
 やけに乗り心地のいい助手席で、特に酔う体質でもないのに、今すぐ吐きそうなくるみであった。
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