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落とされる。
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くるみはソワソワと落ち着かない気分で、甘路の隣を歩いていた。
こんなに女性らしい服も、ハンドバッグも、ヒールの靴も、今まで身につけたことがない。おまけにしっかりメイクまでして、美容院にまで行ったのだから、くるみ至上、最大のオシャレな見た目になっていた。
「甘路さん、本当にありがとうございました、なにからなにまで」
くるみは改めて、心からの感謝を口にする。
あれから甘路について来てもらって、カードや銀行の手続きを済ませた。
甘路は個人事業主なので、公的な手段や金融関係についても詳しく、スムーズに事を進められたのだ。
すべて一人で解決しようとしていたくるみは、甘路がそばにいてくれるだけでとても心強かった。
それなのに晴れて自由の身になったお祝いだとかなんとかで、またデパートにつれていかれた。
洋服を購入すると靴売り場を、靴を購入するとバッグ売り場を……店員に勧められるがまま売り場をはしごし、気づけば化粧品売り場でメイクまで施されていた。
果てにはまだ時間があるからと、甘路の行きつけの美容院にまで案内された。そしてようやくメガネを受け取り、駐車場に向かう現在に至るのだ。
くるみは途中から断るのをあきらめて、甘路の指示に従った。お金を払ってもらう側が、仕方なく付き合うような奇妙な流れだった。
とはいえ、くるみはもちろん奢られて終わるつもりはない。後でまとめて返そうと、出してもらった金額をきちんとスマホのメモに残していた。
「俺にできる限りのことはするから、なんでも気軽に話してくれ」
甘路の声音が柔らかい。
表情も穏やかで、買い物をしている間、ずっとご機嫌な気がする。
その手にぶら下がった、たくさんの紙袋。中身はすべてくるみのものだ。新しい洋服に、くるみがいつも使っていたリュックや、着てきた服と靴も入っている。
なんの徳もないはずなのに楽しげな甘路が、くるみの目には少し不思議に映った。
そうして歩いている間にも、常に周りからの視線を感じる。
なぜなのか、理由はもう考えなくてもわかる。注目の的である当人は、慣れているのかまったく気にする様子はない。
こんな人とご一緒するなんて恐れ多い。その思いは変わらないくるみだが、今は高揚する気持ちの方が勝っていた。
元気づけてくれる甘路のためにも、少しだけ背筋を伸ばして歩きたいと思った。
そんなくるみは、ふと甘路の肩越しに可愛らしいカフェを見つける。
つい目で追いながら歩みが遅くなるくるみに、甘路もカフェの存在に気づいた。
「……入るか? そういえば昼飯を食ってないな」
そう言いながら甘路が店のそばで立ち止まると、くるみも一緒に足を止める。
甘路が左手首の腕時計を確認すると、時刻はもう午後三時を過ぎていた。いろいろ行動しているうちに、ずいぶん時間が経っていたようだ。
昨日の晩御飯を朝に食べたとはいえ、そろそろ腹の虫が騒ぎ出してもおかしくない。
大量のショッピングに、手続きなどの細かい作業、一通りを無事に終えたくるみは、安堵もあってか急にお腹が空いてきた。それと同時にピンと閃く。
こんなに女性らしい服も、ハンドバッグも、ヒールの靴も、今まで身につけたことがない。おまけにしっかりメイクまでして、美容院にまで行ったのだから、くるみ至上、最大のオシャレな見た目になっていた。
「甘路さん、本当にありがとうございました、なにからなにまで」
くるみは改めて、心からの感謝を口にする。
あれから甘路について来てもらって、カードや銀行の手続きを済ませた。
甘路は個人事業主なので、公的な手段や金融関係についても詳しく、スムーズに事を進められたのだ。
すべて一人で解決しようとしていたくるみは、甘路がそばにいてくれるだけでとても心強かった。
それなのに晴れて自由の身になったお祝いだとかなんとかで、またデパートにつれていかれた。
洋服を購入すると靴売り場を、靴を購入するとバッグ売り場を……店員に勧められるがまま売り場をはしごし、気づけば化粧品売り場でメイクまで施されていた。
果てにはまだ時間があるからと、甘路の行きつけの美容院にまで案内された。そしてようやくメガネを受け取り、駐車場に向かう現在に至るのだ。
くるみは途中から断るのをあきらめて、甘路の指示に従った。お金を払ってもらう側が、仕方なく付き合うような奇妙な流れだった。
とはいえ、くるみはもちろん奢られて終わるつもりはない。後でまとめて返そうと、出してもらった金額をきちんとスマホのメモに残していた。
「俺にできる限りのことはするから、なんでも気軽に話してくれ」
甘路の声音が柔らかい。
表情も穏やかで、買い物をしている間、ずっとご機嫌な気がする。
その手にぶら下がった、たくさんの紙袋。中身はすべてくるみのものだ。新しい洋服に、くるみがいつも使っていたリュックや、着てきた服と靴も入っている。
なんの徳もないはずなのに楽しげな甘路が、くるみの目には少し不思議に映った。
そうして歩いている間にも、常に周りからの視線を感じる。
なぜなのか、理由はもう考えなくてもわかる。注目の的である当人は、慣れているのかまったく気にする様子はない。
こんな人とご一緒するなんて恐れ多い。その思いは変わらないくるみだが、今は高揚する気持ちの方が勝っていた。
元気づけてくれる甘路のためにも、少しだけ背筋を伸ばして歩きたいと思った。
そんなくるみは、ふと甘路の肩越しに可愛らしいカフェを見つける。
つい目で追いながら歩みが遅くなるくるみに、甘路もカフェの存在に気づいた。
「……入るか? そういえば昼飯を食ってないな」
そう言いながら甘路が店のそばで立ち止まると、くるみも一緒に足を止める。
甘路が左手首の腕時計を確認すると、時刻はもう午後三時を過ぎていた。いろいろ行動しているうちに、ずいぶん時間が経っていたようだ。
昨日の晩御飯を朝に食べたとはいえ、そろそろ腹の虫が騒ぎ出してもおかしくない。
大量のショッピングに、手続きなどの細かい作業、一通りを無事に終えたくるみは、安堵もあってか急にお腹が空いてきた。それと同時にピンと閃く。
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