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落とされる。
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ダイニングチェアに座った甘路の前に、間違えないようにマグカップを置く。それから対面席に座ると、もう一つのマグカップを置いた。
見た目はどちらも同じ、ただのブラックコーヒーだ。
くるみは自分用のコーヒーを口にしながら、甘路の様子を窺っていた。
やがて甘路が手にしたマグカップが、口元に運ばれて傾く。
なにも反応はない。特に変わった様子もなく、少し中身の減ったマグカップが、再度テーブルにのせられた。
「……甘路さん、コーヒー、いかがでしたか? 淹れ方が下手じゃなかったらいいんですが」
甘路がコーヒーを飲んだことがわかると、くるみは努めて明るく自然に問いかけた。
そして甘路はついに決定的な一言を告げる。
「……ああ、美味しい」
その言葉に、くるみから笑顔が消えた。
最初から、今まで、不自然に感じていた点が、すべて線で結びつきハッキリと形を成す。
――やっぱり、そうだったんだ……。
内心呟いだくるみは、自分の中で整理をつける。
急に神妙な顔つきになったくるみを、甘路は不思議そうに眺めていた。
「……すみません、試すような真似をして」
僅かに首を傾げる甘路に、くるみは決心して切り出した。
「甘路さんのコーヒー、醤油をたくさん入れたんです」
くるみの告白に、今度は甘路が驚く番だった。
くるみの秘密の行動とは、甘路のマグカップに醤油を大量に入れたこと。
その上からコーヒーを注いで混ぜたのだ。液体なのですぐに合わさり、全体的にひどい味になっているはずだ。
それなのに、甘路は「美味しい」と言った。
味に敏感でない人間でも、一口飲んだ瞬間吐き出してもおかしくないようなものを。
甘路はくるみと目を合わせたまま、瞬きすらできず沈黙していた。
互いの呼吸が聞こえそうなほど、静かな時間。その様子が、事実を物語っていた。
「味…………わからないんですね」
くるみが絞り出すように核心を突いた。
甘路はようやく瞬きをしたものの、まだ動けずにいた。
見た目はどちらも同じ、ただのブラックコーヒーだ。
くるみは自分用のコーヒーを口にしながら、甘路の様子を窺っていた。
やがて甘路が手にしたマグカップが、口元に運ばれて傾く。
なにも反応はない。特に変わった様子もなく、少し中身の減ったマグカップが、再度テーブルにのせられた。
「……甘路さん、コーヒー、いかがでしたか? 淹れ方が下手じゃなかったらいいんですが」
甘路がコーヒーを飲んだことがわかると、くるみは努めて明るく自然に問いかけた。
そして甘路はついに決定的な一言を告げる。
「……ああ、美味しい」
その言葉に、くるみから笑顔が消えた。
最初から、今まで、不自然に感じていた点が、すべて線で結びつきハッキリと形を成す。
――やっぱり、そうだったんだ……。
内心呟いだくるみは、自分の中で整理をつける。
急に神妙な顔つきになったくるみを、甘路は不思議そうに眺めていた。
「……すみません、試すような真似をして」
僅かに首を傾げる甘路に、くるみは決心して切り出した。
「甘路さんのコーヒー、醤油をたくさん入れたんです」
くるみの告白に、今度は甘路が驚く番だった。
くるみの秘密の行動とは、甘路のマグカップに醤油を大量に入れたこと。
その上からコーヒーを注いで混ぜたのだ。液体なのですぐに合わさり、全体的にひどい味になっているはずだ。
それなのに、甘路は「美味しい」と言った。
味に敏感でない人間でも、一口飲んだ瞬間吐き出してもおかしくないようなものを。
甘路はくるみと目を合わせたまま、瞬きすらできず沈黙していた。
互いの呼吸が聞こえそうなほど、静かな時間。その様子が、事実を物語っていた。
「味…………わからないんですね」
くるみが絞り出すように核心を突いた。
甘路はようやく瞬きをしたものの、まだ動けずにいた。
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