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落とされる。

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「……いつから、なんですか?」
「一年ほど前からだ、最初は味の感じ方が鈍くなったんだが、風邪を引いたりしても微妙に感覚がずれたりするからな、その時は気にしていなかった、すぐに治るだろうと」

 初めてすべてを話せる相手を得た甘路は、くるみの質問に素直に答える。

「だが、治るどころか日に日に悪化するばかりだ、ここのところ匂いもほとんど感じないし、辛いものでさえ味がわからない」
「そんなに……」

 パティシエ始め料理人にとって味覚は命、そして嗅覚も大切だ。
 その両方が麻痺しているなんて、思ったより深刻だとくるみは危惧した。

「病院には行かれたんですか?」
「……いや」
「えっ、どうしてですか?」
「忙しくてそれどころじゃない」

 プイッと顔を背ける甘路に、深刻な雰囲気が少し崩れる。 
 甘路の反応に、開いた口が塞がらなくなるくるみ。
 ――か、甘路さんって……実はすごく困った人なんじゃ……!?
 つまり、そういうことなのだ。

「な、なに言ってるんですか! もしも大きな病気だったら……早く治療した方がいいに決まってますよ!」
「……心配しなくていい、なんとなく原因はわかってるからな」

 どうやら甘路は、味覚障害の原因に心当たりがあるようだ。
 ――なんとなくって、それっていいの?
 ツッコミどころ満載の甘路だが、これ以上言ったところで聞いてくれそうもない。
 困ったくるみはいい考えはないかと、甘路との会話を振り返る。すると、ふとあることに気がついた。

「……ん? ちょって待ってください、てことは、甘路さんは一年も前から、味がわからないのに、新作のスウィーツを出し続けてたってことですか?」
「そうなるな」
「えっ、そ、それは、どうやって」
「長年の勘と、想像力だな」

 さらっと言い切る甘路に、くるみは大きくした目をパチパチさせて、感嘆に体を震わせた。

「す、すごい、すごすぎますよ甘路さん! 味見もまともにできないのに、あんなに美味しいスウィーツを生み出せるなんて、さすが職人、神業ですね!」

 広い戸建てに響き渡る大声。
 しかも、サクッと「味見もまともにできない」とか、痛いところを突いている。
 くるみの急激な興奮ぶりに、甘路は茫然としていた。

「あ……す、すみません、なんか私、一人で盛り上がってしま」
「――ふっ」

 不意に訪れる、空気が漏れたような音。
 それは次第に大きさを増し、最後には軽快な笑い声に変わっていった。

「ふっ、ははっ……あはははっ」

 冷静な表情から一転、子供のように顔をクシャッとして笑う甘路。
 なにがそんなにおかしいのか、くるみにはわからなかったが、甘路が楽しそうなのでまぁいいかと思った。
 一頻り笑い終えた甘路は、どこかスッキリした面持ちをしていた。
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