133 / 189
守られる。
5
しおりを挟む
「そうだ、十時……ってことは十一時くらいでいいかな」
甘路は前もって言った帰宅時間より、一時間ほど遅れることが多い。
なのでくるみは、風呂の予約時間をそれに合わせて決めている。なるべく沸いてすぐの風呂に入ってほしいという、くるみの気遣いだ。
くるみは風呂掃除をすると、予約時刻を設定して蓋を閉めた。
そしてリビングに戻ると、ブーッブーッと大きな振動音が耳につく。
ソファー前にあるローテーブルに置いた、くるみのスマホが小刻みに動いていた。
それを見たくるみは、急いでテーブルに向かった。長さからしてメッセージではないとわかる。ついさっきまでやり取りをしていたので、すっかり甘路からの電話だと思い込んでいたのだ。
しかし、スマホを手にした瞬間、くるみの顔から笑みが消える。
着信相手が思った人物ではなかったからだ。
画面に表示された名前をたどったくるみは、急に暗い影に全身を締めつけられた気がした。
――なんで……どうして?
胸の内で自問しても、答えは出ない。
家を出ていってすぐの頃、やたらと着信があり、甘路に出るなと言われて無視していた。
そこからパタッとやみ、きっと母と二人で仲良く暮らしているのだろうと思っていたが。
もしかしたら母が借金でも作ってきたのだろうか、まだ卒業までしばらくあるし、首が回らなくなったのかもしれない。だから助けを求めて――?
そんなふうにくるみが、仏心を出したのがよくなかった。
相手はそんなくるみの心情をよくわかっている。そしてそれを利用できることも。
「あ、おねーちゃん、久しぶりー」
つい通話ボタンを押してしまったくるみは、電話口から聞こえる声にホッとしてしまう。以前と変わらず元気そうな様子だったからだ。
「……う、うん、久しぶり……どう、したの?」
もしかしたら単純に、気にかけて連絡をくれたのかもしれない。
そんなくるみの淡い期待は、あんずの次の台詞に吹き飛ばされる。
「お姉ちゃんが働いてるのって、パティスリードゥートンだったんだね?」
くるみの世界が止まる。
目の前が白くなって、呼吸をするのも忘れた。
どうして知っているのか、なぜそんなことを言ってくるのか、くるみは混乱を極めた。
「……な、なんで、それ」
「水臭いなぁ、あたしとお姉ちゃんの仲なのに、隠し事なんて」
「別に、隠してたわけじゃ……」
「ねぇ、どうやって入ったの? いろいろ調べたけど、住み込みで雇ってるなんてどこにも書いてないし」
当然、その理由を教えるわけにはいかない。
あんずに言えば、どこまで知れ渡るかわからない。かといって上手い言い訳も思いつかず、くるみは口を結ぶしかなかった。
しばらく経ってもなにも答えないくるみに、痺れを切らしたあんずがまた口を開く。
甘路は前もって言った帰宅時間より、一時間ほど遅れることが多い。
なのでくるみは、風呂の予約時間をそれに合わせて決めている。なるべく沸いてすぐの風呂に入ってほしいという、くるみの気遣いだ。
くるみは風呂掃除をすると、予約時刻を設定して蓋を閉めた。
そしてリビングに戻ると、ブーッブーッと大きな振動音が耳につく。
ソファー前にあるローテーブルに置いた、くるみのスマホが小刻みに動いていた。
それを見たくるみは、急いでテーブルに向かった。長さからしてメッセージではないとわかる。ついさっきまでやり取りをしていたので、すっかり甘路からの電話だと思い込んでいたのだ。
しかし、スマホを手にした瞬間、くるみの顔から笑みが消える。
着信相手が思った人物ではなかったからだ。
画面に表示された名前をたどったくるみは、急に暗い影に全身を締めつけられた気がした。
――なんで……どうして?
胸の内で自問しても、答えは出ない。
家を出ていってすぐの頃、やたらと着信があり、甘路に出るなと言われて無視していた。
そこからパタッとやみ、きっと母と二人で仲良く暮らしているのだろうと思っていたが。
もしかしたら母が借金でも作ってきたのだろうか、まだ卒業までしばらくあるし、首が回らなくなったのかもしれない。だから助けを求めて――?
そんなふうにくるみが、仏心を出したのがよくなかった。
相手はそんなくるみの心情をよくわかっている。そしてそれを利用できることも。
「あ、おねーちゃん、久しぶりー」
つい通話ボタンを押してしまったくるみは、電話口から聞こえる声にホッとしてしまう。以前と変わらず元気そうな様子だったからだ。
「……う、うん、久しぶり……どう、したの?」
もしかしたら単純に、気にかけて連絡をくれたのかもしれない。
そんなくるみの淡い期待は、あんずの次の台詞に吹き飛ばされる。
「お姉ちゃんが働いてるのって、パティスリードゥートンだったんだね?」
くるみの世界が止まる。
目の前が白くなって、呼吸をするのも忘れた。
どうして知っているのか、なぜそんなことを言ってくるのか、くるみは混乱を極めた。
「……な、なんで、それ」
「水臭いなぁ、あたしとお姉ちゃんの仲なのに、隠し事なんて」
「別に、隠してたわけじゃ……」
「ねぇ、どうやって入ったの? いろいろ調べたけど、住み込みで雇ってるなんてどこにも書いてないし」
当然、その理由を教えるわけにはいかない。
あんずに言えば、どこまで知れ渡るかわからない。かといって上手い言い訳も思いつかず、くるみは口を結ぶしかなかった。
しばらく経ってもなにも答えないくるみに、痺れを切らしたあんずがまた口を開く。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる