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守られる。

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「てなわけでくるみん、僕のことも応援してね」

 イエ~イとピースした手をくるみにひらひら振る蜜流。一週間、彼と仕事をしたくるみは、甘路が蜜流にも味覚の件を話さない理由がわかった気がした。
 天才肌の超人は、親友でありライバルでもある。心配させたくない気持ちもあるだろうが、プライドが許さないのだろう。弱みを見せないのは、甘路の職人としての意地だ。
 しかし、同じ専門学校で知り合い、親友同士どちらも一流とは珍しい。
 くるみの頭の中には、そんな二人が手を組み、コンクールに出る姿が浮かび上がった。

「……でも、団体戦なら、甘路さんと蜜流さんが同じチームで出場したりもできるってことです……?」

 くるみの台詞に、甘路と蜜流は顔を見合わせる。 
 今まで考えたこともなかった様子だ。
 甘路が指揮を取り、蜜流がチョコレート菓子の部門を制覇する。それこそまさに、夢のコラボかもしれない。

「くるみんがそう言うなら、次のモンドゥは出てあげてもええかなぁ」

 格式高きコンクールも、蜜流にかかれば親しみやすい略語になる。
 しかし、まんざらでもない蜜流に対し、甘路は冷めた目で宙を見る。

「やめとけ、自己中には向かない」
「嫌やわぁ、こんな穏やかなB型捕まえて、これやから神経質なA型は」
「専門学校の留学中、フランスからいきなりベルギーに行って、そのまま帰ってこなかった奴は誰だ?」
「え~? そんなこともあったっけぇ?」

 誤魔化すようにウインクをする蜜流、マスクに隠れて見えない口元では、ペロリと舌を出している。
 実は最初は蜜流もパティシエ志望で入学していた。が、フランス留学中に突然気が変わり、ショコラティエの道に進んだのだ。チョコといえばベルギー、という短絡思考と行動力が相まって、そのまま専門学校は中退、いきなり現場で修行を積み、現在に至る。

「そうやって都合が悪いとすぐにはぐらかす」
「別に都合悪くないしー、いつまでも過去にこだわってたら先進めんで~?」
「なんだと」
「ま、まあまあ二人とも」

 A型とB型の小競り合いを止めるO型。
 くるみが二人を落ち着かせたところで、今日の開店時刻となった。
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