蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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出逢い

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 そこにはいろりしかいなかった。
 白蛇も、人の姿をした蛇珀も、どちらもいないのだ。

 まさか、これでおしまいなのか、もう会えないのかと不安に駆られ、いろりは部屋中に視線を巡らせ、必死に蛇珀を呼んだ。

「へ、蛇神様……! 神様……! お、お願いします、もう一度、もう一度お姿を見せてください!!」

 涙ながらに訴える少女の背後に光が射す。

 振り返ったそこには、床に胡座をかいた蛇珀がいた。

「……うるせえな、そんな呼ばなくても聞こえてるっつうの」

 蛇珀は頬を掻きながら、照れ隠しに憎まれ口を叩いた。
 再び目の前に現れた姿に、いろりは安堵して腰を抜かし、涙を流した。
 それを見た蛇珀は目を見張り、激しく動揺し大変であった。

「な、泣くんじゃねえ! ちょっと仙界に行ってただけだ」
「せん、かい?」
「ああ、神々の住処だ。そこにまあ、偉そうな上流神がいるんだけどよ、そいつに人間界にしばらく滞在する許可をもらってきた。やけに快く許しやがって、薄気味悪かったが」
「きょ、か……?」
「ああ」

 蛇珀は不敵な笑みを浮かべた。

「俺は決めた。お前の願いを叶えるまでここにいる」

 予想外の言葉に、いろりは思わず泣き止んだ。

「で、でも私は、先ほど神様にもう一度出てきてほしいと願ってしまいましたが」
「他界への願いは数に入らねえ。だから神になりたいとか、世界征服がしたいとかいう悪願あくがんも除外だ。この世界の中で叶えられる願いを考えろ」

 その話を聞いたいろりは、ある決心をした。
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