蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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蛇珀といろり

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「そ、そうですか。……あの、蛇珀様、それはそうと」
「なんだ?」
「そろそろ着替えなくていけない時間なので……」
「——おおおう! そ、そうだったな、了解!」

 蛇珀はわかりやすく狼狽えると、急ぎ押し入れの襖を開け中に隠れた。

 もちろん襖を隔てていようとも神眼を使えば外の様子など簡単に見える。
 さらに言えば、普段から見ようと思えばいろりの衣類を消した姿なども見れてしまうわけだが、さすが神なのでそのような邪なことはしない。
 以前いろりと身体を交換した際も、一瞬にして衣類を替えるという技で制服姿になったので彼女の肌に触れてもいなければ見てもいなかった。

 いろりが着替えを終えると、襖が少し開かれる。
 その隙間から顔を覗かせたいろりが蛇珀に「行ってまいります」と小さく挨拶をすると、押し入れの中で胡座をかき背中を向けていた蛇珀が振り返り、「おう、気をつけろよ」と言って見送る。

 まるでずいぶん前から共に暮らしていたかのような自然な日々。

 蛇珀もそれを穏やかな気持ちで過ごしていたが、満足しているか、と言われればそれはまた違う話である。

 蛇珀はあれ以来――、いろりが蛇珀のずっと側にいたいと言った際、抱きしめて以来彼女に指一本触れていなかったのだ。

 しかし何分初めての恋故、蛇珀は自身が何を求めているのか、どうすれば小さなこの隙間を埋められるのか、その術をよくわかっていなかった。
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