蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
46 / 182
仙界

14

しおりを挟む
「近年下界に降りておらぬ故、神力の調整を怠っておった。驚かせてすまなかったな」

 光が弱まり、蛇珀に支え起こされたいろりは、ようやくその声の主を目にすることができた。
 正面のやや高い岩肌に胡座をかいた狐雲はいろりをまっすぐに見据えていた。
 
 力を控えていても尚、白と金が混じったような輝きが狐雲の身体から漏れる。
 言葉では表現し得ない神々しさの限りを尽くしたような存在に、いろりは無意識のうちに手を合わせていた。

「蛇珀様……私、今浄化されていませんか?」
「落ち着け。浄化されるような汚れた人間ならそもそも仙界に入れねえから」
「まあ、そう固くなるでない。何も取って食おうとは思っておらぬ故」

 出っ張った岩は手すりのような形をしており、狐雲はそこに肩肘を乗せながらいろりに語りかけていた。

 悟すような優しい口調、秀麗な容姿に、余裕ある笑み。
 説明などされなくとも、いろりは狐雲がいかに偉大な神であるか本能で理解していた。

「は、はい。ありがとうございます」

 狐雲を前に感激している様子のいろりを見ると、蛇珀は顔をしかめてそっぽを向いた。仕方ないこととは知りつつも、想い人が他の男神おがみに目を奪われていることが気に食わなかった。
しおりを挟む

処理中です...