蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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仙界

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「そろそろお呼びしましょうか、狐雲様」
「うむ。……天獄様……例のおなごをお連れいたしました。どうかお姿をお見せください」

 狐雲が三人の前に広がる、何もない地平の彼方に語りかける。

 するとしばしの沈黙が訪れた後、天が澱み出す。
 仙界には太陽や月もなければ朝や夜もなく、季節や天候もない。故に下界での天災の干渉を受けない。
 見上げた先にはただ白と水が混ざり合ったような透き通った空間が広がっている。
 しかし狐雲の声により、その澄んだ天は嵐の夜のようにどす黒い濁りを見せた。
 やがてその濁りは仙界全土を覆うように侵食し、地響きが起こる。
 揺れを体感するわけではない。しかし、まるで大地そのものが泣いているような地鳴りであった。

 やがてその声がやむと、いろりたちの前方には壁のようなものが現れた。

 ――否、壁の如く巨大な山である。

 腐敗した皮膚のように鈍い紫と黒が入り混じったような色味。やや三角を模した形はしているが、その果ては視界に認められず、先端は禍々しい天を貫いていた。

 想像を絶する迫力に、いろりは思わず足がすくむ。
 気づいた時には、すでに狐雲と鷹海は右膝と右手を地につけていた。
 いろりは焦り二人に続くと、自身は正座をし、頭を低く下げた。

「怯えるのも無理はない。この状態の天獄様にお目にかかるのはわしでも二度目じゃ」
「二度目……?」
「三百年前に、一度、な」

 鷹海の言葉に、いろりは蛇珀が言っていた三百年前の戦神の悲恋話を思い出していた。

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