蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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ありし日の恋物語

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 ――さて、今日も願い聞きは終えた。仙界に戻るか。

 狐雲がそう思い、移動しようとした時だった。

 ふと、美しく生え揃った竹林に目が及ぶ。

 夜中だというのにずいぶんと辺りが明るく見えるのは、満月のせいであった。

 ――美しいな。

 仙界には存在しない、その月の見事さに、狐雲は珍しくもう少し下界に滞在していたい気持ちになった。

 竹林に入ればさらによく見えるかもしれぬと考えた狐雲は、天に向け伸びているかのようにまっすぐな竹をかき分けた。

 そして一歩足を踏み入れたそこで、狐雲は運命の出逢いを果たす。

 ――天女……?

 思案するより先に脳裏に浮かんだ文字に、狐雲自身が最も驚いていた。
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