蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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試練

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「いや、何もない。あいつはまだ苦行中じゃ」
「そうですか。……では、鷹海様はどうしてここに?」
「……なんとなく、元気かと気になり来てみただけじゃ。深い意味はない」
「そうでしたか。……わざわざありがとうございます。百恋様といい、神様はお優しい方たちばかりですね」
「それはいろりの心が綺麗だからじゃろ。神は相手により邪にも善にもなるからの」
 
 鷹海の台詞に、いろりは急に思い詰めたように暗い表情をした。

「……いえ、私はそんな、そんなできた人間ではないんです、本当に……」

 苦し気に俯くいろりを見て、何かまずいことを言ったかと鷹海は話題を変えることにした。

「そういえば百恋がこちらに来ておるようじゃな」
「あ、はい、そうなんです。四月からずっと私と同じ学校に来られていて……先日は水族館に遊びに連れ出してくださいました」
「あいつが、いろりを遊びに……?」

 鷹海は百恋が試練の片棒を担いでいることは知らない。
 三百年前に戦神が人との恋で消えたことは狐雲から聞かされていたが、詳細については伏せられている。
 苦行の内容や答えまで知るのは、狐雲と百恋だけとされている。
 そのため鷹海はなぜ百恋がそこまでしていろりの近くにいるのか不可解であったが、深く考えない頭は蛇珀とよい勝負であったため追求はしなかった。
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