蛇に祈りを捧げたら。

碧野葉菜

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とこしえの恋路

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 浴衣に袖を通そうとした時、蛇珀の背中に何かが衝突した。
 温かく、柔らかで、懸命に縋りつくように自らの腰に巻きついた細い両腕。
 いろりが強く、蛇珀の背に抱きついていた。

「……じゃ、はく、さ、ま……」

 蛇珀の心臓が跳ねる。
 もはや滝行などなんの意味もない。

「……私は、どんなにがんばっても……あなたのように、長くは生きられません……」

 消えるように、震える声。
 いろりの蛇珀を抱きしめる手に、力がこもる。
 
「だから、だから……一分でも、一秒でも早く、たくさん……愛してほしいんです……!」

 胸の底から絞り出すかのような最愛の者からの懇願に、どうして抗うことができよう。
 否、何かに抗う必要など、もうないのだ。
 なすがままに、ただ求めるがままに、進むこと。もうとっくに、二人にはそれが許されていたのだから。
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