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あふれる想い

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 確かに、そこにいるのは美汪であった。
 穏花の知る、美汪。
 彼の過去を聞いた今でも、それは変わらず、穏花は自分でも不思議なほど自然に、美汪という存在を受け入れていた。

「ごめんね、私の儀式で疲れさせちゃったみたいで……」
「別に、僕が勝手にしていることだし、謝る必要ないでしょ」
「そんなこと言ったら、私美汪の前では謝る機会ないよ」
「いいんじゃない、それで」

 美汪は疲労など奥目にも出さず、いつもの少し突き放したような口調で話す。

 何をどう、言っていいのか、穏花は決めかねていた。
 コーエンの激白を聞いた後、とにかく美汪に会わずに帰るわけにはいかないと思ったが、頭より行動が先走る穏花には難しい選択だった。
 そんな穏花は、ふと美汪のすぐ後ろに山積みになった書籍を発見した。よほど頻繁に読んでいるのだろうか、神経質な美汪らしくない無造作に重なり合ったそれに、穏花は首を傾げながら近づいた。
 そしてそのうちの一冊に書かれた文字を見て、また驚きの声を発した。

「医学……? えっ!? 美汪ってお医者さんになるの!?」
「へえ、よく読めたね」
「さすがに“医学”の漢字くらい読めるよー!」

 穏花は困り眉でそう返すと、いかにも難解そうな書物を手に取り、開いた。

「それは失礼。……別に医者になりたいわけじゃないけどね」
「そうなの? ……わあ、すごい! 何書いてるか全然わかんないや!」
「その医学書はドイツ語だからね」
「そうなんだぁ、美汪は読めるんだね、すごいなぁ」

 興味津々に本のページをめくっていく穏花を、美汪はじっと見つめ……そして、言った。

「……Ich will dich retten」
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