魔法の廃れた魔術の世界 ~魔法使いの俺は無事に生きられるのだろうか?~

雨露霜雪

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第六章 領主準備編

第十三話 嫌な予感

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「いやー、やっぱ陽の光はいーなー」

 谷底にも光が差し込んでいたが、深い谷の底では満足の行く光量はなかった。しかも、屋根に覆われた整備工場にいたので、その僅かな光すらない暗闇で照明魔法の灯りを頼りにしていたのだ。それ故に、自然の光がとても心地良く感じられるのも仕方のないことだろう。

 それはそうと、一晩休んで『さぁ出発だ』となった今朝、整備工場に光を取り入れられる事実に気付いた。
 昨日、整備工場に入った入り口とは反対の出入り口から外に出たのだが、ふと違和感を覚え、そそくさと出入り口から離れて整備工場を見遣ると、魔導船が出入りできる程の大きな扉があった。
 先程の違和感とは、出入り口が端にあったことだ。そして『大きなスペースがあるのになんでこんな端に出入り口があるんだ?』と疑問を抱いたのだが、大きな扉を見て合点がいった。

「そもそも、空を飛ぶ魔導船が室内にあるってことは、出し入れする場所があるってことだよな」
「あんた、最近また独り言が増えてない」
「ね、姉ちゃん!」

 感情を押し殺して向き合うアルトゥールと接触する機会が減ったからだろうか、知らぬ間に気が緩んでしまっているようだ。

「で、納得したような顔をしているけれど、何に納得したの?」
「あー、魔導船を出し入れするための扉がちゃんとあったことにだよ」
「あんなに大きいのに空を飛べるくらいだから、天井なんか関係なく飛んで行っちゃうのかと思ったわ」

 そう思える姉ちゃんの思考が恐ろしいよ……。

 そんなやり取りもありつつ、薄暗い通路を通って地上に出てきた際の陽の光は、徹夜明けの太陽に頭が締め付けられるような嫌な感じではなく、『自分も光合成ができるんじゃないか?!』と思えるほど清々しかった。

「さて、ここから先は人類未踏の地になるから、地図とか情報はないよ。まぁ、周囲をあんな高い山に囲まれているから、捜索する範囲はそれほど広くはないだろうね。ただ、未知の魔物がいる可能性もあるから、道中も気を抜かないように」

 四方の内三方を越えられない高い山で囲われ、残る一方は俺達が通ってきた渡れない深い谷、というゲームなどであれば魔王の城でもありそうな場所に、俺達は人類で初めて足を踏み入れた。――御伽噺でシュヴァルツドラゴンを発見した話があるらしいが、史実書の類では誰も足を踏み入れていないとされている。

 暫くは薄暗い森の中、過去には山道として使われていたのであろう道を登っていくと、急に開けた場所に出た。
 ここまでは急勾配というほどでもないが、それなりに斜度のある場所を登ってきたのだが、そこは腰ほどの丈の草で一杯の平原であった。

「何だか歩きにくそうな場所っすね」
「足元が見えないから、慎重に進んだ方が良さそうだな」
「そうっすね」

 ヨルクの言葉に、俺は注意を促す。それは、単に足元の問題だけではない。
 実は、ここまで数時間をかけて登ってきたのだが、伏魔殿だというのに魔物が一体も現れていないのだ。それはそれで、無駄な戦闘で体力や魔力素を消費しなくて良かったのだが、単純に喜んで良い状況ではないとも思っている。

「嫌な予感がするのぉ」
「村長もそう思いますぅ? あたくしもなんですの」
「オレも思ってたんだよ」

 流石に、師匠たちベテラン組はこのおかしな状況に気付いているようだ。

「これほど長い時間伏魔殿を歩いているのに、魔物が一体も出ないなどということはよくあるのですか?」
「何かおかしいと思っていたのですが、それですシェーンハイト様。わたくしの冒険者としての経験では、これほどの長時間魔物に遭遇しないことはありませんでしたわ」

 シェーンハイトやポンコツのエルフィですら気付くくらい、この状況は異様だ。

「師匠、休憩がてら少し対策を考えましょう」
「うむ、そうしようかの」

 現状、魔物は現れずボスが何であるかもわかっていない。それで対策といっても、何をどうすればいいのか見当もつかないが、闇雲に歩くよりは良いだろう。

 付近の草を刈り倒し、十分なスペースを確保した食事では、対策するにもやりようがない、となり、各々が物思いに耽る感じでモグモグしていた。

「まず、現状について考えようか」

 食事中に何かしら思いついた者がいることに期待し、対策会議を始める。

「この広い伏魔殿に全く魔物がいない、というのはありえますか?」

 会議が始まるや否や、いの一番にシェーンハイトが質問してきた。

「儂はあちこち旅をして回ったが、このような伏魔殿は初めてじゃの」
「エルンストンさんでも知らないのであれば、この伏魔殿は特殊なのでしょうか?」

 シェーンハイトの中では、師匠は物知り爺さんと認識されているようで、その生き字引が知らないのであれば、ここは特殊な地であると判断したようだ。
 そんなシェーンハイトの言葉を拾った俺は、考えを纏めながら口を開いた。

「アインスドルフがそうであるように、特殊気候の伏魔殿は存在しています。他にも、沼地であったり砂漠であったりと、通常とは異なる伏魔殿もあるそうです。ですが、魔物が出ない伏魔殿というのは聞いたことがありませんので、ここが特殊な伏魔殿である可能性は高いのではないかと」

 では、ここが特殊な伏魔殿だとして、何が特殊なのだろうか? 取り敢えず、魔物が出ないことが特殊だと仮定してみよう。それであれば、本来なら魔物に成り代わるはずの魔素は何処に行った?

「ん?」
「どうかなさいましたか?」

 俺が漏らしてしまった疑問の声をシェーンハイトが拾ったようで、俺の顔を覗き込むようにしてきた。

 めっちゃかわええ~。ほっぺたムニムニしたい……って、そんなことを考えている場合じゃない!

「いえ、そもそも伏魔殿は、所謂魔素溜まりで、集まり過ぎた魔素で汚染された地と言われています。そして、その汚染された魔素が魔物を生み出しているはずです」
「そうですね」
「では、ここが伏魔殿であるのに魔物がいないとなると、汚染された魔素は何処にあるのでしょう?」

 俺はシェーンハイトに聞かせながらも、最後は皆に問いかけるように言いながら、恐ろしい可能性に気付いてしまった。

「他の魔物が姿を表さず、一体の魔物が全ての魔素を取り入れているとしたら……」
「エルフィ、これだけ広い伏魔殿なのよ、その全ての魔素を一体が取り入れることなど可能なのかしら?」
「ではお姉様、他の可能性があるとお思いですか?」

 エルフィとアンゲラが姉妹喧嘩ではないが、白熱した議論を繰り広げだした。

「ドラゴンがいる地でもぉ~、他の魔物が居ましたよねぇ~」
「ドラゴンって最強の生物なんでしょー? ドラゴンより強い魔物なんているのかなー」
「いない、と思う」
「でも、属性ドラゴンはドラゴンの中でも最低位っす。もしかして属性ドラゴン以上のドラゴンがいるんじゃないっすか?」

 シュヴァーンの四人も意見を交わし合っていたが、ヨルクの言葉にシュヴァーン以外の者も反応した。

 実は、アルトゥールに聞かされていた『ボスはシュヴァルツドラゴン説』を、俺は信じていなかった。王弟ですら『御伽噺でしか伝わっていない』と脳天気な言い方をしていたくらいくらいの話なのだから。
 それでも、可能性としてはあり得るので一応は想定していた。
 師匠も様々な魔物を見てきたが、シュヴァルツドラゴンという名称に心当たりがなかったので、やはり御伽噺の中だけのことだろうと切って捨てていた。
 なので、下手に口にして不安を煽るのは良くないと判断し、皆には伝えないと決めていたのだ。
 勿論、その手の話に詳しいシェーンハイトにも口止めをしてある。

「確かに、ボスがドラゴンであることは想定していた。しかし、何かの属性を持つ下位のドラゴンだと高を括っていた……」

 自分の失態に気付いた俺は、苦し紛れの言い訳をしてしまう。

「他の魔物が存在できない程の量の魔素を一体で得ているのであれば、今の戦力では到底勝てんじゃろう」

 師匠の言葉に、俺は現実から目を逸らすのではなく、現状を再認識するよう思考を変えた。

 グリューンドラゴンや、今回のロートドラゴンには確かに勝てた。それも、こちらに負傷者を出すこともなく。だが、それで俺達はまだ見ぬドラゴンに勝てるのだろうか?
 この広大なエリアで、魔物が存在できないほどの魔素を得ているドラゴン。どう考えても簡単に勝てるとは思えない。……いや、勝てない可能性の方が大きいだろう。

「魔鉱石」

 不意に、眠そうな目をしたエドワルダが声を出した。

「魔鉱石がどうかした?」
「魔導船、魔鉱石で動く」
「そうだね」
「ここの魔素、魔鉱石になってる。どう?」

 俺が理解に苦しんでいると、アンゲラが通訳してくれた。

 魔導船があの場所にあるのは、魔鉱石の産地であるこの場所があるから。
 ここに魔物が居ないのは、魔素が全て魔鉱石になっているからではないのか?
 エドワルダはそう言っているらしい。

「確かにドラゴンとはいえ、これだけ広い場所から発生する魔素を一体で全て得ているとは考えにくいよな」
「リーダーは受け入れたくないだけじゃないっすか?」
「おい、ヨルク」
「すいませんっす」

 ヨルクの言い分は強ち間違いではない。そんな化物はいて欲しくない、というのが本心だからだ。

「うむ、現実逃避のための思考では困るが、憶測に怯えて現実を直視できんのも考えものじゃ」
「そうなると、エドワルダの意見も考慮する必要がありますね。俺も、言われてみるとその可能性はある、と思いましたし」

 これは現実から逃げたのではなく、見方を変えるとその可能性があってもおかしくないと思えたからだ。
 そもそも、ここには人類が足を踏み入れたことはない。であれば、ここにボスがいるかどうかなど誰も知らないのだ。
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