金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第二章

第七話 リオン、ルゼルに絵本を読み聞かせる〜画家たちも頑張っている

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 「りろん!ごほん!」
 両手で絵本を差し出すルゼル。
 「るじぇ!みしぇて!」
 両手を伸ばして欲しがるリオン。
 
 今日はリオンがクイン邸に遊びに来た。正確にはコーク公爵家に嫁いだクイン侯爵の妹であるリオンの母リリィラの里帰りに同行してきたのだ。
 
 クイン家は代々子沢山かつ家族愛の深い家系だ。
 子ども向けの本も沢山ある。クイン侯爵も四人の子どもたちのためにどんどん買い込む。
 最近にわかに子ども向けの絵本が市場に増えたので益々買い込む。だからクイン家にはリオンの知らない新作絵本が山ほどある。
 ルゼルは字が読めないがリオンは読める。読みたいリオンと読んでもらいたいルゼル。需要と供給だ。
 「きししゃま、ごほん!」とルゼルが絵本を差し出したまま得意げに言って跳ねる。
 「え!きしさまのごほん⁉︎」とリオンも跳ねる。

 先日、騎士団の練習場見学をしてからというもの二人は騎士の大ファンになった。この新しい本はその騎士たちが主役の新刊らしい。ルゼルがその絵本を手にしてリオンを出迎えたのだ。
 そのまま二人はルゼルの姉リデイラと共にクイン家の図書室に向かった。リディラのお抱え画家ロンも一緒だ。

 「よむよ」
 「うん」
 二人はクイン家の図書室に入ると窓近くに置いてある三人がけのソファーに二人で座った。そこがクイン家の図書室での二人の定位置だ。二人で座るとゆったり広いし、フカフカのクッションがあるし、クッションは手触りも良いのだ。なによりドキドキハラハラする場面でそのクッションを抱き締めるとなんだか少し安心する。環境は大事だ。
 リディラは二人から少し離れた向かい側に椅子を持ってきて座る。二人を眺めるのにちょうどいい位置なのだ。

 「『きしだん、と、りんごのき』」
 「るじぇる、りんご、しゅきぃ」
 「りろんもー」
 可愛い。なぜか二人とも片手をグーにして挙げている。
 物語は、ある国である時りんごの木が沢山生えてきたところから始まる。絵本の見開きいっぱいに真っ赤なりんごが沢山実っている絵が広がっている。
 「はわぁ、まっかねー」とルゼル。
 「ぜんぶ、ぜーんぶ、りんごよ」とリオン。
 ところがそのりんごの実は味がりんごではなくてレモンの味だったり焼き鳥の味だったりパンの味だったりと色々な食べ物の味がするりんごだった。りんご味のりんごが食べたいと言うお姫様のために騎士団が本物のりんごを探す旅に出て行き、様々な冒険をするという話だ。
 リオンは一文字一文字指で押さえながらゆっくり読む。
 「れもん、の、あじ、が、しまちた」
 と読むと、二人して「しゅっぱい!」「しゅぱー」と口に手を当てて酸っぱい顔をするし、
 「やきとり、の、あじ、でちた」
 と読むと
 「やきとり…?」
 と二人で顔を見合わせる。絵本に描いてあるような串に刺さった鶏肉料理はまだ見たことがないのだ。そんな時はルゼルが
 「あねーれ、やきとりぃ?」
 とリディラに聞く。『あねーれ』とは姉上のことだ。リディラも焼き鳥は知らなかったが、すぐに料理の本で探す。
 「鶏肉を小さく切って串に刺して焼いてタレって言うソースを塗っていただくものって書いてあるわ。ソースは甘くて少し塩っぱいんですって、しかも…え?これ本当かしら?歩きながらいただくこともできるらしいわ!」
 「えっ」
 「あるく?あるくながら?」
 と三人でビックリする。
 「お母様に叱れてしまうわ…でもやってみたいわね」
 とリディラが言うと二人ともこくこくとうなずく。いつかこっそりやってみようと三人は思う。
 そんな様子でリオンの読み聞かせが進む。

 マード王国でにわかに絵本が増えたのには訳があった。

 写真機の脅威的な進化で画家たちの立場が脅かされるようになってきたことが要因だ。
 悔しいが確かに写真は便利だし事実を伝えるのに最適なツールだ。
 同じ場所で闘っても不利。
 そう判断した画家たち、主に報道の挿絵を仕事にしていた画家たちが生き残りを図ってきた。
 
 ニーズは意外な所にあった。
 話題の記事が載っている新聞を読みたいが読めない字が多い、という今まで文字を学ぶ機会の少なかった階層の大人たち、主に女たちの間で文字を覚えることが流行し始めたのだ。
 しかし初めから新聞を読むことは難しい。そこで女たちが見つけたのが絵本だった。
 子ども向けの絵本は知っている言葉も多く、絵を見て文字との照らし合わせもしやすい、しかも子育て中の母親は読める字が増えれば子どもに絵本を読んでやることができる。
 今まで文字を知らなかった母親たちは自分が聞かせてもらって耳で覚えている話を子どもにしていた、しかし文字が読めるようになると子どもに話してやれるレパートリーが格段に広がる。こんな良い学習教材はないとばかりに沢山の絵本が求められるようになった。
 ニーズがあると見越した出版社も平民層にも求めやすい安価な絵本を沢山作り送り出す。
 そこで必要になったのが絵師だ。
 挿絵画家たちは次々に描いた。

 新聞の挿絵や、災害状態の描画などを手がけていたころは画風に個性など求められなかった。わかりやすさを求められていたからだ。だが今は個性を求められる。物語に興味を持たれるような絵の個性だ。そう、個性が出せる!

 結果的にマード王国の画家たちはスキルアップを果たした。

 「るじぇ、このりんご、おおおおーっきいだねー」
 「ゔぁじゅらしゃま」
 「うん、ゔぁじゅらさまみたい、おっきいのりんごねー」
 「ぞーしゃん」
 「うん、ぞーさんのりんごみたいー」
 そう言いながらページをめくると象が大きなりんごを食べている絵が出てきた。象もりんごも大きくて大迫力な上に自分たちの予想が当たり、二人は
 「きゃー‼︎」
 「きゃはははは!」
 と手足をばたつかせて大喜びだ。

 その様子を無言でずっと描いていたリディラお付きの画家ロンは、絵本の挿絵画家に転身した画家仲間に二人がどんなに喜んで絵本を見ているか伝えたいと思っていた。「君の描く絵は子どもたちを幸せにしているよ。すごい仕事を見つけたね」と。
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