12 / 113
第二章
第七話 リオン、ルゼルに絵本を読み聞かせる〜画家たちも頑張っている
しおりを挟む
「りろん!ごほん!」
両手で絵本を差し出すルゼル。
「るじぇ!みしぇて!」
両手を伸ばして欲しがるリオン。
今日はリオンがクイン邸に遊びに来た。正確にはコーク公爵家に嫁いだクイン侯爵の妹であるリオンの母リリィラの里帰りに同行してきたのだ。
クイン家は代々子沢山かつ家族愛の深い家系だ。
子ども向けの本も沢山ある。クイン侯爵も四人の子どもたちのためにどんどん買い込む。
最近にわかに子ども向けの絵本が市場に増えたので益々買い込む。だからクイン家にはリオンの知らない新作絵本が山ほどある。
ルゼルは字が読めないがリオンは読める。読みたいリオンと読んでもらいたいルゼル。需要と供給だ。
「きししゃま、ごほん!」とルゼルが絵本を差し出したまま得意げに言って跳ねる。
「え!きしさまのごほん⁉︎」とリオンも跳ねる。
先日、騎士団の練習場見学をしてからというもの二人は騎士の大ファンになった。この新しい本はその騎士たちが主役の新刊らしい。ルゼルがその絵本を手にしてリオンを出迎えたのだ。
そのまま二人はルゼルの姉リデイラと共にクイン家の図書室に向かった。リディラのお抱え画家ロンも一緒だ。
「よむよ」
「うん」
二人はクイン家の図書室に入ると窓近くに置いてある三人がけのソファーに二人で座った。そこがクイン家の図書室での二人の定位置だ。二人で座るとゆったり広いし、フカフカのクッションがあるし、クッションは手触りも良いのだ。なによりドキドキハラハラする場面でそのクッションを抱き締めるとなんだか少し安心する。環境は大事だ。
リディラは二人から少し離れた向かい側に椅子を持ってきて座る。二人を眺めるのにちょうどいい位置なのだ。
「『きしだん、と、りんごのき』」
「るじぇる、りんご、しゅきぃ」
「りろんもー」
可愛い。なぜか二人とも片手をグーにして挙げている。
物語は、ある国である時りんごの木が沢山生えてきたところから始まる。絵本の見開きいっぱいに真っ赤なりんごが沢山実っている絵が広がっている。
「はわぁ、まっかねー」とルゼル。
「ぜんぶ、ぜーんぶ、りんごよ」とリオン。
ところがそのりんごの実は味がりんごではなくてレモンの味だったり焼き鳥の味だったりパンの味だったりと色々な食べ物の味がするりんごだった。りんご味のりんごが食べたいと言うお姫様のために騎士団が本物のりんごを探す旅に出て行き、様々な冒険をするという話だ。
リオンは一文字一文字指で押さえながらゆっくり読む。
「れもん、の、あじ、が、しまちた」
と読むと、二人して「しゅっぱい!」「しゅぱー」と口に手を当てて酸っぱい顔をするし、
「やきとり、の、あじ、でちた」
と読むと
「やきとり…?」
と二人で顔を見合わせる。絵本に描いてあるような串に刺さった鶏肉料理はまだ見たことがないのだ。そんな時はルゼルが
「あねーれ、やきとりぃ?」
とリディラに聞く。『あねーれ』とは姉上のことだ。リディラも焼き鳥は知らなかったが、すぐに料理の本で探す。
「鶏肉を小さく切って串に刺して焼いてタレって言うソースを塗っていただくものって書いてあるわ。ソースは甘くて少し塩っぱいんですって、しかも…え?これ本当かしら?歩きながらいただくこともできるらしいわ!」
「えっ」
「あるく?あるくながら?」
と三人でビックリする。
「お母様に叱れてしまうわ…でもやってみたいわね」
とリディラが言うと二人ともこくこくとうなずく。いつかこっそりやってみようと三人は思う。
そんな様子でリオンの読み聞かせが進む。
マード王国でにわかに絵本が増えたのには訳があった。
写真機の脅威的な進化で画家たちの立場が脅かされるようになってきたことが要因だ。
悔しいが確かに写真は便利だし事実を伝えるのに最適なツールだ。
同じ場所で闘っても不利。
そう判断した画家たち、主に報道の挿絵を仕事にしていた画家たちが生き残りを図ってきた。
ニーズは意外な所にあった。
話題の記事が載っている新聞を読みたいが読めない字が多い、という今まで文字を学ぶ機会の少なかった階層の大人たち、主に女たちの間で文字を覚えることが流行し始めたのだ。
しかし初めから新聞を読むことは難しい。そこで女たちが見つけたのが絵本だった。
子ども向けの絵本は知っている言葉も多く、絵を見て文字との照らし合わせもしやすい、しかも子育て中の母親は読める字が増えれば子どもに絵本を読んでやることができる。
今まで文字を知らなかった母親たちは自分が聞かせてもらって耳で覚えている話を子どもにしていた、しかし文字が読めるようになると子どもに話してやれるレパートリーが格段に広がる。こんな良い学習教材はないとばかりに沢山の絵本が求められるようになった。
ニーズがあると見越した出版社も平民層にも求めやすい安価な絵本を沢山作り送り出す。
そこで必要になったのが絵師だ。
挿絵画家たちは次々に描いた。
新聞の挿絵や、災害状態の描画などを手がけていたころは画風に個性など求められなかった。わかりやすさを求められていたからだ。だが今は個性を求められる。物語に興味を持たれるような絵の個性だ。そう、個性が出せる!
結果的にマード王国の画家たちはスキルアップを果たした。
「るじぇ、このりんご、おおおおーっきいだねー」
「ゔぁじゅらしゃま」
「うん、ゔぁじゅらさまみたい、おっきいのりんごねー」
「ぞーしゃん」
「うん、ぞーさんのりんごみたいー」
そう言いながらページをめくると象が大きなりんごを食べている絵が出てきた。象もりんごも大きくて大迫力な上に自分たちの予想が当たり、二人は
「きゃー‼︎」
「きゃはははは!」
と手足をばたつかせて大喜びだ。
その様子を無言でずっと描いていたリディラお付きの画家ロンは、絵本の挿絵画家に転身した画家仲間に二人がどんなに喜んで絵本を見ているか伝えたいと思っていた。「君の描く絵は子どもたちを幸せにしているよ。すごい仕事を見つけたね」と。
両手で絵本を差し出すルゼル。
「るじぇ!みしぇて!」
両手を伸ばして欲しがるリオン。
今日はリオンがクイン邸に遊びに来た。正確にはコーク公爵家に嫁いだクイン侯爵の妹であるリオンの母リリィラの里帰りに同行してきたのだ。
クイン家は代々子沢山かつ家族愛の深い家系だ。
子ども向けの本も沢山ある。クイン侯爵も四人の子どもたちのためにどんどん買い込む。
最近にわかに子ども向けの絵本が市場に増えたので益々買い込む。だからクイン家にはリオンの知らない新作絵本が山ほどある。
ルゼルは字が読めないがリオンは読める。読みたいリオンと読んでもらいたいルゼル。需要と供給だ。
「きししゃま、ごほん!」とルゼルが絵本を差し出したまま得意げに言って跳ねる。
「え!きしさまのごほん⁉︎」とリオンも跳ねる。
先日、騎士団の練習場見学をしてからというもの二人は騎士の大ファンになった。この新しい本はその騎士たちが主役の新刊らしい。ルゼルがその絵本を手にしてリオンを出迎えたのだ。
そのまま二人はルゼルの姉リデイラと共にクイン家の図書室に向かった。リディラのお抱え画家ロンも一緒だ。
「よむよ」
「うん」
二人はクイン家の図書室に入ると窓近くに置いてある三人がけのソファーに二人で座った。そこがクイン家の図書室での二人の定位置だ。二人で座るとゆったり広いし、フカフカのクッションがあるし、クッションは手触りも良いのだ。なによりドキドキハラハラする場面でそのクッションを抱き締めるとなんだか少し安心する。環境は大事だ。
リディラは二人から少し離れた向かい側に椅子を持ってきて座る。二人を眺めるのにちょうどいい位置なのだ。
「『きしだん、と、りんごのき』」
「るじぇる、りんご、しゅきぃ」
「りろんもー」
可愛い。なぜか二人とも片手をグーにして挙げている。
物語は、ある国である時りんごの木が沢山生えてきたところから始まる。絵本の見開きいっぱいに真っ赤なりんごが沢山実っている絵が広がっている。
「はわぁ、まっかねー」とルゼル。
「ぜんぶ、ぜーんぶ、りんごよ」とリオン。
ところがそのりんごの実は味がりんごではなくてレモンの味だったり焼き鳥の味だったりパンの味だったりと色々な食べ物の味がするりんごだった。りんご味のりんごが食べたいと言うお姫様のために騎士団が本物のりんごを探す旅に出て行き、様々な冒険をするという話だ。
リオンは一文字一文字指で押さえながらゆっくり読む。
「れもん、の、あじ、が、しまちた」
と読むと、二人して「しゅっぱい!」「しゅぱー」と口に手を当てて酸っぱい顔をするし、
「やきとり、の、あじ、でちた」
と読むと
「やきとり…?」
と二人で顔を見合わせる。絵本に描いてあるような串に刺さった鶏肉料理はまだ見たことがないのだ。そんな時はルゼルが
「あねーれ、やきとりぃ?」
とリディラに聞く。『あねーれ』とは姉上のことだ。リディラも焼き鳥は知らなかったが、すぐに料理の本で探す。
「鶏肉を小さく切って串に刺して焼いてタレって言うソースを塗っていただくものって書いてあるわ。ソースは甘くて少し塩っぱいんですって、しかも…え?これ本当かしら?歩きながらいただくこともできるらしいわ!」
「えっ」
「あるく?あるくながら?」
と三人でビックリする。
「お母様に叱れてしまうわ…でもやってみたいわね」
とリディラが言うと二人ともこくこくとうなずく。いつかこっそりやってみようと三人は思う。
そんな様子でリオンの読み聞かせが進む。
マード王国でにわかに絵本が増えたのには訳があった。
写真機の脅威的な進化で画家たちの立場が脅かされるようになってきたことが要因だ。
悔しいが確かに写真は便利だし事実を伝えるのに最適なツールだ。
同じ場所で闘っても不利。
そう判断した画家たち、主に報道の挿絵を仕事にしていた画家たちが生き残りを図ってきた。
ニーズは意外な所にあった。
話題の記事が載っている新聞を読みたいが読めない字が多い、という今まで文字を学ぶ機会の少なかった階層の大人たち、主に女たちの間で文字を覚えることが流行し始めたのだ。
しかし初めから新聞を読むことは難しい。そこで女たちが見つけたのが絵本だった。
子ども向けの絵本は知っている言葉も多く、絵を見て文字との照らし合わせもしやすい、しかも子育て中の母親は読める字が増えれば子どもに絵本を読んでやることができる。
今まで文字を知らなかった母親たちは自分が聞かせてもらって耳で覚えている話を子どもにしていた、しかし文字が読めるようになると子どもに話してやれるレパートリーが格段に広がる。こんな良い学習教材はないとばかりに沢山の絵本が求められるようになった。
ニーズがあると見越した出版社も平民層にも求めやすい安価な絵本を沢山作り送り出す。
そこで必要になったのが絵師だ。
挿絵画家たちは次々に描いた。
新聞の挿絵や、災害状態の描画などを手がけていたころは画風に個性など求められなかった。わかりやすさを求められていたからだ。だが今は個性を求められる。物語に興味を持たれるような絵の個性だ。そう、個性が出せる!
結果的にマード王国の画家たちはスキルアップを果たした。
「るじぇ、このりんご、おおおおーっきいだねー」
「ゔぁじゅらしゃま」
「うん、ゔぁじゅらさまみたい、おっきいのりんごねー」
「ぞーしゃん」
「うん、ぞーさんのりんごみたいー」
そう言いながらページをめくると象が大きなりんごを食べている絵が出てきた。象もりんごも大きくて大迫力な上に自分たちの予想が当たり、二人は
「きゃー‼︎」
「きゃはははは!」
と手足をばたつかせて大喜びだ。
その様子を無言でずっと描いていたリディラお付きの画家ロンは、絵本の挿絵画家に転身した画家仲間に二人がどんなに喜んで絵本を見ているか伝えたいと思っていた。「君の描く絵は子どもたちを幸せにしているよ。すごい仕事を見つけたね」と。
49
あなたにおすすめの小説
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
弁えすぎた令嬢
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。
発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。
何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。
そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。
残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。
小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる