金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第十話 シャロンとリディラ、事業を立ち上げる〜天使には天使の服を着せたいですもの。うふふふ〜

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 「お母様、お話があります」
 「聞きましょう、リディラ」
 シャロンの部屋に入ってきたリディラがテーブルの上にポムポムホースの広告を広げた。
 そして廊下には手を繋いで歩くルゼルとアロン。ご機嫌に歌を歌いながら歩いている。貴族としてはマナー違反だが、侯爵家内だけならと大目に見てもらっている。
 「おーうーまーのおーやこーは」
 「なかおしーこおしー」
 アロンは繋いだ手と反対側の手に画用紙を持っている。
 「あれ?仲良しはわかるけど、ってなんだろうね?アロンわかる?」
 「うん。なかおしなの」
 「そうか、仲良しのことかー」
 クイン侯爵家は今日も朗らかだ。
 

 色々あったが、ゴム製馬ポムポムホースの広告変更作戦は大成功した。
 広告にはリオンとルゼルが騎士団のグイン団長とキエル副団長に扮してポムポムホースに乗ってハシャグ姿の写真を使った。本人たちが騎士の立ち居振る舞いにこだわっただけあり、剣を持つ姿勢がサマになっている。もちろん二人の顔は晒さず目の周りを隠す仮面を付けた。本人たちは「なぞの騎士様みたいでかっこいい」と大はしゃぎだったが目元を隠しても美幼児ぶりは溢れていた。とにかく、笑う口元と生き生きした乗馬スタイルだけでも二人が楽しんでいる様子がじゅうぶん伝わる写真だ。そしてポムポムホースの楽しさや安全性、特徴などを書き込んだ。さらに、二人がポムポムホースのを言っているセリフの書き込みをしているのだが、この書き込みを何パターンも作った。たとえば『「たのしいあそびを」「ありがとう」』とか、『「きしさまごっこは」「たのしいな」』とか、『「お馬にのって」「どこまでも」』とか、『「いっしょにあそべて」「うれしいな」』とか…とにかく沢山のパターンだ。
 これにはリディラの「数打ちゃ刺さる作戦」とは別の狙いもあった。
 決め文句をどうするかという会議で、井戸端会議などの識字率が高くない場所にも貼るなら簡単な言葉じゃないと読んでもらえないだろうとなり、簡単な言葉の決め文句とは?となっていくつかの案が出された。その時ジゼルが閃いた。
 ルゼルが歌うことにハマった時、覚えて欲しい童謡を屋敷の者たちに沢山歌わせた。識字率を高めるためにも読めると良いなという言葉を使うのはどうだろう?しかも違うパターンも作り「こちらにはなんて書いてあるのかな?」と興味を持たせる。昨今の絵本ブームで簡単な文字を読める平民が増えてきた。その中の誰かが井戸端会議場に居たら読み上げてくれるのでは?同じ文字を繰り返し見ることで馴染み、覚え、使えるようになるのでは?
 そこにリディラの作戦の話だ。決め台詞は一つじゃなくて良い。
 決め文句パターンはポムポムホースを楽しむ子どものセリフ、かつ、日常的に使っていて読めたら良いなというフレーズ。という方向になった。
 次に広告を貼る場所だ。幅広く貼っていきたい。だが、なんの店舗もない場所(たとえば井戸端会議場)に貼るには土地を所有する者に許可を得なければならない。手間だ。
 そこでジゼルは国王に談判した。正確にはアーネスト経由で談判した。
 国王が国民の識字率を上げようとしていることを知っていたジゼルは、広告を利用して識字率を上げていける可能性をアーネストに話した。そのためには貼る場所の持ち主の許可が必要だが広範囲で一貴族が許可を取り付けるには時間がかかり過ぎると言った。
 それを聞いたアーネストは内心「クイン家の人脈なら時間はさほどかからないはず…こいつ面倒くさがってるな」と思いつつも確かに国家プロジェクトの一環として取り組んだ方が理解は得やすいし他の企業の広告も貼ることが出来、国全体の購買意欲を上げられるかもしれない。と考え、宰相として国王に提案した。という流れだ。
 実はアーネストはリディラの誕生会での子どもたちが作ったチラシからヒントを得て、国民識字率を上げるためにチラシを利用する計画を進めていた。試験的に自分の領地でチラシを配布したり貼ったりし、効果を確認している。(そのために冬休みに海の別邸に赴いていた)効果はあるにはあるのだが爆発的な効果にはなっていなかった。それだけに、このジゼルの提案は打開案と思えた。
 もちろん国王の許可も降りた。
 国王は国王で、幼稚園計画をいずれは国全域に広げようと考えていた。そのためにまず大人たちの教育に対する意識関心を高める方策が必要とも思っていた。国民には文字が読めると便利で面白いと思ってもらいたかった。文字が読めるのは知識富裕層の特権などという考えは古いと思っていた。知識は共有してこそのものだ。
 あとはとんとん拍子だった。
 ポムポムホースは売れ、広告のフレーズはちょっとした流行語になり、このあきらかに美幼児は誰なんだと話題になった。

 そして今、ここに美幼児の広告をテーブルに広げてしげしげと眺める母娘がいる。
 シャロンとリディラだ。
 「お母様…弟と従兄弟が可愛いのですが…」
 「ええ、間違いなく可愛いわ。息子と甥が…」
 広告は一枚ではなかった。セリフの全パターンが広げられていた。写真は同じだ。違うのはセリフだけだ。全種類欲しいと言ったリディラにジゼルは「写真は同じだぞ」と言ったが「お父様は何もわかっていないわ」とリディラは一刀両断だった。
 「お母様、仮面をつけているのに可愛いさが漏れ出ているのよ」
 「ええ、不思議よね。甲冑着ているのに可愛いわ」
 「ねぇ、お母様…これ甲冑でなければもっと可愛いのではなくて?」
 「あら、そんなのわかり切っているじゃない。いつものフリルの可愛さったら…」
 「お母様…他のお洋服も着せてみたくはありませんか?」
 「他の?」
 「ええ。甲冑ほどではないですけど、大人が着る服を子ども用にアレンジして二人に着せるのです。たとえばこちら。これは私とロンが描き溜めたものですが、船乗りが着ているセーラー風子ども服。それからこちらは警備隊風子ども服。書記官風子ども服…」
 リディラが何枚もスケッチを出す。口調もどんどん早口になる。
 「あらあらまあまあ!」
 中には猫や犬やウサギの着ぐるみ風子ども服もある。
 「これは流石に寝巻きですわ。ウサギルゼルが可愛いので他の動物も似合うと思って」
 「リディラ!天才よ!可愛いわ、寝巻きならいくらでもデザインで遊べそうね。これ、作りたいわね…これ、作りましょう!」
 そこへルゼルとアロンが手を繋いでやってきた。
 「母上母上、アロンがレタスの絵をじょずじょずに描きました」
 「れたす!」
 アロンが黄緑の渦巻きをシャロンたちに差し出した。
 「あら、上手。美味しそうに描けたわね」
 「はい。アロンはお絵描きがじょずじょずです。アネー上たちは何をしていたのですか?」
 子ども服のデザインの話をしていたとリディラが説明をすると、数々のスケッチを見たルゼルが
 「お寝巻きならお茄子とかイチゴが良いです」
 「あらどうして?」
 「お茄子やイチゴはぶら下がってます。お空を飛ぶ夢を見られるかもしれないからです。ジャガイモは土の中だから…ちょっとこわいです…」
 「あろ、かに」
 野菜!魚介!やはり男の子の発想は面白い。
 「なんだか可愛いだけじゃなく、楽しいわね。リディラ、そのデザインで服を作りましょう」

 とりあえず試作品として作った茄子の寝巻きとカニの寝巻きはジゼルとリゼルに大好評だった。
 茄子はヘタの部分が襟だ。カニはその物を服にするのは難しく、工夫をこらして隠し絵のようになっている。水の入ったグラスの前に立つと広がって描かれていたカニの絵がきちんとカニに見えるというものだ。
 もちろんルゼルとアロンも
 「茄子茄子!」
 「カニカニ!」
 と大喜びだった。

 こうしてクイン侯爵家…より正しくはシャロンとリディラは子ども服の事業を立ち上げることになった。
 
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