金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

文字の大きさ
76 / 113
第四章

第五話 二天使様のお願い。〜騎士たちはモノマネ上手

しおりを挟む
 リオンとルゼルがおりいって騎士団にお願いがあるということで急遽王宮に来ることになった。
 しかも朝の段階で、登城したコーク宰相直々に騎士寮の食堂にいたグイン団長を訪ねてきての依頼だ。平の騎士たちのビビりようったらなかった。
 「さっ、宰相様が?」
 「こっ、公爵様が?」
 「この汚い騎士食堂に?」
 「団長、なんか悪いことしたの?」
 「てか、なんで今日に限って団長ここで食べてんの?」
 「リオン天使の父上、カッケー…」
 アーネストは人が自分を見て緊張する場面に慣れている。笑いながら騎士たちに言う。
 「食事中にすまない。私的なことで伺った。団長を責めたりしないから安心して欲しい」
 右手を軽く上げて言う宰相様はなんだかキラキラしている。団長を責めたりしないとか…その気になったら責められるってことですよね?あの強面大迫力団長を…。
 「宰相様、カッケー…」
 チラチラ聞こえる声に団長のグインは苦笑いしながら言う。
 「おはようございます宰相殿。むさ苦しい場所に何のご用で?こちらから伺いましたのに」
 グインは食事を終えて食後の紅茶を飲んでいた。カップが小さく見える。エスプレッソのカップなどはカップごと飲み込んでしまいそうだななどと思いながらグインが立ち上がりかけるのを手で制したアーネストが言う。
 「そのままで。本当に私的なことですまないが、今日リオンとルゼルの護衛担当者は時間があるかな?」
 ザワッ
 「え?ルカたちなんかやらかした?」
 「え?ルカたちなんかやらかした?」
 そこここで同じ台詞が聞こえた。アーネストにも聞こえたが聞こえないふりをして半笑いで続ける。
 「職務に差し支えなければリオンとルゼルに剣の簡単な構えと動きを教えてやって欲しいんだが。護衛担当者が難しいようなら…日を改めてでも…」
 アーネストは詳細は告げずに済ませるつもりだったが、あまりに騎士たちが『俺、時間ありますよ』『二天使様のお相手いたしますよ』『で?なにごとですか?』のアピールをキラキラした目でしているので、あえて聞こえるように言った。
 「クイン侯爵の事業に関連したことで、リオンとルゼルに騎士の真似をさせることになってだな…本人たちがやるならちゃんと基礎の動きを知りたいと言うので侯爵と私が簡単な剣の扱いを教えると言ったのだが、二人とも騎士様たちに教えていただきたいと言っているんだ。本職に子どもの相手をさせるのは心苦しいが、父親たちはクビにされたのでお願いに上がった次第だ。本来なら職務のない非番日や職務後に頼むべきなのだが…」
 アーネストが最後まで言い終わらないうちにその場が無言の「わーい」の歓喜と無音の拍手に包まれた。
 二天使が宰相様たちより自分たちを選ぶ世界線!
 カッケー宰相様より自分たちが優位に立つ世界線!
 「子どもの戯言に付き合わせて申し訳ないが、国王の許可も得ている」
 えー⁉︎国王様の許可もー⁉︎
 騎士たちは浮かれ舞い上がっていたが、グインにはわかった。国王許可が出ているとは、国王はあの二人に関することは子どもの戯言と思っていないし、何かあってもリオンとルゼルの異能さが漏れることのない対応をせよとのことだ。職務時間内というのも非番ではかえって何事かと目立たせてしまうからだろう。これは二人の護衛たちか事情を知る自分か副団長しかできないだろう。しかし団長と副団長ではことが大きくなりすぎる。
 「わかりました。今日は担当騎士五名とも出せますので」
 「有難い」

 というわけで、登城したリオンたちを出迎えてそのまま護衛担当騎士のルカ、ギン、ヨハン、キーツ、エールたちと城の子ども用ダンス練習場に来た。鏡のあるこの練習場は自分の姿を映して形を確認するのにちょうどいい。
 クイン侯爵も同行している。
 「今日は息子たちの我儘に付き合わせて申し訳ない」
 食堂で浮かれていた騎士たちと違い、護衛組はなんとなく緊張していた。宰相はクイン侯爵の事業の関連と言っていたが、それだけで国王許可やら宰相直々に団長に依頼に来るとは思えなかった。だからといって深読みはしない。なんとなく、騎士のカンだ。
 「いえ、とんでもないです。今日はキーツとヨハンがお二人のお相手をさせていただきます。私とギンとエールは護衛の方を致します」
 ルカがそう言って頭を下げると、ジゼルの足元にいたリオンとルゼルが
 「今日はよろしくお願いします」
 「おねがいします」
 と言って丁寧に頭を下げた。
 
 指導は終始和やかに進んだ。キーツは上品だし、ヨハンは物腰が柔らかい。荒っぽさがない動きをする二人がリオンたちには良いだろうという判断だ。
 二人が構えや剣さばきを実演して見せた後、リオンとルゼル二人の手を取りながら動きや姿勢の指導をしていく。
 リオンたちが使う剣は一番軽くて短い木剣だ。初めて騎士団練習場に来た時に持たせてもらったあの木剣だ。
 「あの時は、えいってできないだったけど、今できるね」
 「うんうん。えいってしてもドシンてならないね」
 二人は大感動だ。
 「それってそれってキーツ卿とヨハン卿が先生だからよね」
 「うんうん。やっぱり騎士様すごいすごいだね」
 もう騎士様たちメロメロです。
 「違いますよ、お二人が大きくなられたからですよ」
 まんざらでもない顔をしながらキーツが言うが、
 「ううん。あんよの力とか、おてての力とか、教えてもらわらないとわからないだったの」
 とルゼル。それを聞いたリオンが小声で、
 「ルゼ、はだめよ。、言うのよ。四歳よ」
 「あ、そだった」
 ほわぁ。なんか似た会話あったな。ルゼル天使が一人称ルゼルって言った時に「ルゼ、よ、三歳よ」ってリオン天使が言ってたなぁ。これよ。この感じよ、癒されるわぁ。てか、はダメだけどは良いのかぁ。
 しばらくそんな指導が続き、少し休憩を挟むことにした。
 休憩中に、リオンが護衛に当たっていたルカたちの剣筋も見たいと言ったので、ルカとギンとエールで演舞なども披露した。
 「すごい!すごいです!」
 「騎士様の剣筋がわかるのすごいです!」
 二人があまりに喜ぶので騎士たちは調子に乗った。
 「次はルカとエールが団長と副団長の真似をしますね」
 「えー!そんなこともできるですか!」
 「騎士様すごいです!」
 二人は拍手喝采だ。騎士たちも得意げだ。
 ルカとエールが剣を構えて「私が団長役でエールが副団長役です。お二方ほどの迫力はないのですが、雰囲気でご覧くださいね」と言ってグインとキエルの模擬戦の真似をした。モノマネはそっくりだったようだ。ヨハンたちが「似てる!」「いつ見てもそっくり!」と笑っている。
 その様子を見たリオンとルゼルが唐突に言った。
 「すごいね、団長様はお耳で」
 「うんうん、ふくだんちょさまはお目目なのね」
 はてな?という顔の騎士たち。
 「どういう意味でしょう?」キーツが聞いた。ハッとするジゼル。だが遅い。
 「団長様はお耳で人のいる場所や速さがわかるの」
 「ふくだんちょさまはお目目が人より広く見えるの」
 「だから団長様はえいってするときお耳を怪我したらいけないの」
 「ふくだんちょさまは目かくししてはいけないの」
 騎士たちが固まった。二天使が言ったのはルカたち騎士も知らないマード国の騎士団長と副団長の弱点てことで、万が一それが本当だとしたら…。ジゼルは少し目をそらした。
 「えっとー…」
 ルカが何か言おうとした。少し間が空いてからあらためてルカがジゼルに言った。
 「侯爵様…お二人が、なんというか…特別なことはわかっているつもりなので…その…他言はしませんので。あ、団長には話すと思いますけど…」
 他の騎士たちも無言で頷く。
 「すまない。気を遣わせる」
 ジゼルは額に手を当てながら言った。
 なんとなくただならぬ空気を読み取ったリオンがおどおどしながら
 「あのあの…いけないこと言いましたか?」
 と聞いた。それに対してジゼルは真面目な顔でリオンとルゼルに話す。
 「いいか二人とも。騎士様たちのという所やという所は絶対人には秘密にしなきゃいけないことだよ」
 「すごいもダメなんですか?」
 「そうだよ。騎士様はみんなすごいけれど、気づかれにくい特別すごいところはその騎士様のだ。そこは特別にならないようにと狙われやすくなるからね。騎士様たちが危ない目にあうのは嫌だろう?」
 「いやです!」
 「い、いやですぅ」
 ルゼルは泣きそうだ。
 「では約束だ。騎士様の特別すごいところや弱いところはむやみに人には話さないんだよ」
 「はい」
 「はいぃ」
 ジゼルは二人に話しながら、昔コーク家の真の才の持ち主が攫われて戦争で使われた才能というのもおそらくこういう所なんだろうと思い、暗い気持ちになった。
 空気の重さを変えたのはあまり空気を読まないキーツだった。
 「団長や副団長の話はともかく。私の剣さばきに何かすごいところや弱いところはありませんか?侯爵様、人に話してはいけないですが本人には良いですよね?」
 「あ、ああ、本人が希望すれば…信用できる相手に限るが…」
 「リオン様、ルゼル様、私のことは信用できますか?」
 「できます!」
 「できます!」
 「では是非教えてください。剣の腕を上げたいので参考にしたいのです」
 「あ、それ私もお願いします」ルカ。
 「私も」ヨハン。
 「私も」エール。
 「えとえと、順番にするでいいですか?」
 その後、リオンとルゼルは、キーツは動きの上品さが相手に動きが遅く見える錯覚を起こすので、素早い足さばきや移動手段を強化するといいとか、ヨハンは関節全てが柔らかく動くから手首だけで扱える剣さばきの種類を増やすべきだなど具体的な話をした。
 「どちらが指導者かわからなくなりましたね」
 そう言ってギンは笑った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。  発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。  何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。  そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。  残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

処理中です...