金に紫、茶に翡翠。〜癒しが世界を変えていく〜

かなえ

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第四章

第二十一話 アロンの証言、波紋を広げる〜まさか初恋?

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 最近、王城に上がる日のリオンとルゼルの様子がおかしいとユリアンとリゼルは思っていた。それはマグヌスも同じで、休み時間にユリアンとリゼルに言った。
 「リオンとルゼルは最近どうかしたのか?」
 「やはりリオンは王城でおかしいですか?」
 「リオンも?ルゼルもなんだよ。王城に行く日はなんだか様子がおかしいんだ」
 「王城に来る日だけか?屋敷では普通なのか?」
 「はい。王城に行く日だけなんだか落ち着かないのです。だからヴァジュラ殿下と何かあったのかと気になっていたのですが、ヤーべに聴いてもヴァジュラ殿下とは仲良く遊んでいると」
 「私もヤンに聴きましたが、何だか意味ありげに微笑んで、心配するようなことはないと言うんです」
 なるほどと言うとマグヌスは少し上を向いて考えてから言った。
 「あの二人、最近王城で見かけると明らかに落ち着きがないんだ。アロンには聞いてみたか?」
 「アロンですか?」
 とリゼル。
 「ああ、アロンだ。見たところヴァジュラとアロンはいつも通りだが、アロンはあれで人を冷静に見ているからな」とマグヌス。
 「は?アロンがですか?」驚いた顔で答えるリゼル。
 「リゼル…君は本当にアロンのことわかってないね。アロンは兄弟の中で一番冷静だし、度胸があるよ。もっと言うと、私とリオンを含めてもアロンが一番冷静で度胸があるよ」これはユリアン。
 「いや、度胸はユリアンだろ」不服そうなリゼル。
 「私から見たら度胸はユリアンとアロンで引き分けだ。とにかくあの二人が落ち着かないと王城で働く者たちも落ち着かないんだ。特に騎士らがな。あの二人は乗馬の練習も始めたと聞いたが、あの集中のなさでは怪我をするぞ」とマグヌス。
 「え、そんななんですか?王城で。…わかりました。アロンに聞いてみます」
 と言う会話があっての帰り、ユリアンもクイン侯爵家に寄り道をしている。噂のリオンとルゼルはポニーの練習日だ。元々ユリアンは二人の練習が終わるのを待って、リオンと一緒に帰る予定の日で、いつもなら二人の練習を眺めに行くユリアンとリゼルだが今日は違う。アロンの接待だ。
 「アロン、こんにちは」
 とユリアンがアロンに挨拶をする。
 「ゆりあんにいしゃま、あにゅーれ、おかえんなしゃい」
 ああ、リゼルはアロンにもアニューレ呼びをされているのか、羨ましい。と思いながらユリアンが聴く。
 「ルゼルが幼稚園に入ってしまって、アロンはさみしい?」
 「ううん。すこーしすこしだけ。るぅるぅ、楽しなおはなししゅるかや」
 ルゼルは外出してくるとどんなことがあったかと楽しい話をするから、アロンはさみしいのは少しだけだと言っている。
 「確かにな、ルゼルの話は半分が幼稚園で何をしたって話だけど残りはリオンが何をしたって話だな。まぁだいたい面白い話だよ」
 「あ、うちも。リオンの話は半分がルゼルだな」
 そのままユリアンがアロンに聞く。
 「王城に行ってる時は一緒だからさみしくないね。ところでリオンとルゼルは王城でどんなことしてる?」
 そんな聞き方でわかるかなとリゼルは思ったが、案外アロンには伝わっていたようだ。アロンはサラッと答えた。
 「リオンにぃしゃまとるぅるぅ、好きな女の子見てる」
 「「えっ⁉︎」」
 兄二人、ハモりました。

 「初恋?リオンとルゼルが?」
 学園の昼休み。早速マグヌスに報告だ。
 「アロンがそう言いました」
 とユリアン。
 「いや、初恋とまでは…それにアロンはまだ小さいから本当かどうか…」
 これはちょっと信じたくないリゼル。
 「でも、二人は好きな女の子見てるって言ってたよ」ユリアンは現実的だ。
 「そうだな、アロンの洞察力は本物だ」とマグヌス。
 やけにアロンに対して高評価のマグヌス。
 マグヌスにとってヴァジュラは特別に可愛い存在だが、いかんせん顔が濃い。母王妃は小さな頃、ヴァジュラに瓜二つの父王を見て泣いたと聞いている。わからなくない。そんなヴァジュラを、繊細そうなアロンは真っ正面から見ても目を逸らさない。追いつけなくても追う。見失うと呼ぶ。ヴァジュラを全肯定している。何よりヴァジュラがアロンを気に入っている。マグヌスにはアロンを評価しない理由がない。
 「それで?相手は誰だってアロンは言っていた?」
 「それが、名前はわからないと言っていました。ただ…」
 なぜだかユリアンが言い淀む。
 「ただ、なんだ?」
 珍しくユリアンが話を止めたのでマグヌスが促す。こういう時のマグヌスの目は父王に似ているとユリアンは思いながら答える。
 「はい…ただ…アロンが言うには、二人が好きな女の子は同じらしいんです」
 「ほーぅ」
 これまた珍しくマグヌスが笑いながら少しのけぞった。確かに驚く話だ。しかし?
 「そうなんです。王城に小さな女の子がいるのかなって…」
 「そうだな。リオンたちに釣り合う年齢の女の子は王城に出入りしていないな。年齢的に近くて王城に来る女の子といったらマーリンと…回数は少ないがリディラくらいか?だけどあの二人ならアロンは見たらわかるしなぁ」
 「そうなんですよ。だから一体誰のことかなって」
 「王城に食材を運んでくる行商の子どもか?リオンとルゼルなら裏の通用門には行かないだろうが、ヴァジュラがいたら行きそうだしな」
 「マーリン嬢とリディラと行商人の子以外には心当たりないですか?」
 「ないなぁ。誰かについてきたご令嬢ということもありえるが、最近は見かけていないしなぁ」
 ここでずっと黙っていたリゼルが言った。
 「…ちょっと気になってるんだけど、アロンの中の女の子って、なんだと思うんだ。母上のことも女の子って言うし、先王妃様のことも女の子って言ってた」
 「つまり、女性は年齢関係なくと言ってるってことか?」
 「なるほど。二人は年上の大人の女性を好きになっているかもしれないということだな?」
 「はい、そうです。それで…ほら…私たちにも経験ありますよね?王城にいる女性で、殿下とユリアンと3人して憧れてしまった女性が…」
 「あっ」
 「あっ」
 マグヌスもユリアンも思い当たる人物がいた。美人で機転が利く侍女で…3人して好きになって、だけど既婚者と知って、3人して玉砕。
 「同じようなパターンの可能性か。なくはないよな、王城勤務の侍女相手なら会う機会もあるし彼女たちは一様に気が利くし…」
 マグヌスは珍しく恥ずかしそうな顔で髪をかく。感情が態度に出るなどかなりレアなマグヌスの状況に、遠巻きで会話の聞こえないクラスメイトたちは興味津々で見ている。それだけではない。普段クールなユリアンも身内以外には興味なさそうなリゼルも苦笑いして照れ隠しをしたり顔を覆ったりしている。なんの話をしているんだ。
 3人は玉砕した淡い初恋を思い出していた。
 「我が身を振り返ると、父王は初恋を実らせて凄い人だな」
 「しかも王妃様は小さな頃は陛下を怖がって泣いていたとか。そこからよく逆転勝利にもっていけたよね」とユリアン。
 しばし沈黙。
 マグヌスは、弟想いのユリアンとリゼルが、万が一リオンたちが実りの薄い恋をしていたとしたらそれはそれは我が事のように凹むのだろうなと想像する。特にリゼル。
 自分の初恋への慰めも含めて、マグヌスが言った。
 「とにかく。リオンとルゼルの好きな女の子が既婚者ではないことを祈ろう。あれはなんだかこたえたからな…」
 好きな人が一生自分を好きにならないと知ることの衝撃は例えられるものがないほどの衝撃だった。今はリオンやルゼルの話になっているが、いつヴァジュラの話になるかわからない。ヴァジュラが恋?全然想像できない。いやいやいや、とにかく今は目の前の友人たちの心配をなんとかしなくては。
 リオンたちの様子を観察してみるか?初恋とは決まっていないが、あの二人が誰を熱心に見ているのかは純粋に気になるし、あの中にいてアロンはどんなふうに周りを見ているのかも気になる。ヴァジュラが何を楽しむのかは最も気になる。それになんだか探偵気分を味わえそうで、学園では得られないものを得られそうな予感がする。
 「…王城で確認してみるか?来る?」
 「「します。行きます」」
 未来の側近たちが即答した。
 「よし」
 といたずら気味に頷いた少し悪いことを考えているマグヌスは不思議と陛下に似ていた。
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