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第四章
閑話 ポニオンとポニルとキエルとルゼル
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「キエル卿、こちらに」そうクイン侯爵に案内されて二天使の愛馬を見に来た。
見事なポニーだ。形もツヤも良い。ナイン商社が選んだということだが、ナイン商社の目利きとクイン侯爵家の合わせ技のたまものだろう。良い素材を最高の環境で育てている見本のようなポニーたちだ。見るなり口から言葉が出た。
「ほぅ、これは良いポニーですね。白馬がポニオンで薄茶がポニルですか?」
「流石だな、キエル卿。その通りだよ。どうしてわかりました?」
どうしてか?…そう感じたからなのだが、グイン団長からは「そこがお前の才だが、戦い以外のことは少しそこを言語化してみろ。お前の話は感覚的過ぎて伝わらないヤツもいるからな」と言われている。ここは一つ頑張って言語化するべきだろう…。
「はい…えーと…、白馬は動き出しが薄茶より少々速いのでルゼル殿より瞬発的な踏ん張りが効くリオン殿向きだなと。また薄茶は歩いている時に頭の揺れが少ないのでバランスを取りやすいでしょうから、それもルゼル殿向きだなと」
既に二年前になろうか、二天使が騎士の練習場を見学に来た時に木剣を振った。その時にお二人とも剣を支えきれずに転んだのだが,ルゼル殿は剣を振りかぶった時に尻餅をつき、リオン殿は振り下ろした時に前のめりに転んだ。そこから推察するにリオン殿は踏ん張りが効くタイプ。ルゼル殿はイメージ先行で体力がついていかなかったが、振り上げた角度や高さは理想的だった。つまりセンスは抜群でまずバランス感覚を磨くべきタイプだと判断したのだ。
…なるほど、言葉にしてみると本質が見えてくるな。
「あとは…そうですね、色のバランスと言いましょうか…」
白馬はリオン殿の紫の瞳に良く合うし、薄茶の方の金のたてがみはルゼル殿の翡翠の瞳がより映える。
ナイン商社はなかなか鋭い観察眼を持っていると思う。
「ナイン商社の目利きはお二人をよくご存知のようですね。お二人とも本や特産物がお好きなようですし、商社の方とは頻繁にお会いしているのですか?」
「いや、そうではないのだが、二人ともポニーを見るなり自分用に選ばれたポニーに迷いなく寄って行ったというから商売人の観察眼は凄いものだと感心するよ」
いやいやいや、それはそれで二天使も凄いのでは?侯爵も二天使が身近すぎて麻痺しておられるな。
「つまり、卿、このポニーたちは二人に似合いということだろうか?」
この上なく二天使に向いているポニーだと思うが、侯爵の不安はなんだろうか?
「何か不安でも?」
聞いてみた。
「うん…商社の目利きを信じてはいるのだが、マグヌス殿下が最近二人に落ち着きがないので乗馬訓練は気をつけるようにと言われたのでな…馬というのは乗り手の感情の起伏に影響されやすい。その点が気になっているのだよ」
なるほど。馬と乗り手はまず相性。次に乗り手の感情。次に乗馬テクニックだが…。
「そういうことでしたらあまり心配なさらなくて良いかと。見たところ、お二人とポニーの相性はとても良いですし、ポニーたちの性格も非常に安定した子たちのようですよ。お二人が多少落ち着きがない時でもポニーの方がカバーしてくれそうです」
これもそう感じるのだが、これはなかなか言語化できそうにない。ポニーの考えていることがわからないからだ。だが、このポニーたちは一般的なポニーたちよりメンタルが丈夫で安定している。なぜだかわかる。
「それを聞いて安心した」
侯爵はそう言って微笑んだ。肩の力も抜けたようだ。心底安心した様子だ。本当に心配していたのだな。その気持ちはわかる。親になってみてなおのこと理解できるようになった。
あ、いけない。タビアスの息子のことを思い出してしまった。
ビクトリアの手を踏もうとしただと?突き飛ばしただと?許せない。しかも、アロン殿がこっそり教えてくださった。「キエルふくだんちょしゃまん、あのねあのね、デビスタビアスしゃまん、ビクトリアねぇ様、好き好き」…。
ふざけるなデビス・タビアス。
私はアロン殿の観察力は疑っていない。アロン殿は生まれた時からルゼル殿の近くにいるのだ。物の見方や考え方の英才教育を受けているようなものだ。それだけに…
ふざけるなデビス・タビアス。
「ふざけるなデビス・タビアス」
「お?」
あ、声に出ていた。
「ははは。卿もすっかり人の親だな」
「はぁ、失礼しました」
うぅ。お恥ずかしい。話を逸らそう。
「そう言えばアロン殿は男性陣につける『様』はしゃまんになりますが、女性陣には様と言いますね、あれは何故でしょうか?」
これは本当に不思議に思っているところだ。
「ふむ、あれは私も不思議に感じているところだ。ただアロンはきちんと男女の見極めができているということはわかるな。
余談だがリゼルの話では、ユリアンは皆が名前で呼ぶバークレイの嫡男のことを一人だけバークレイ呼びをしているらしい。それも不思議なことよな。リゼルも理由は聞いていないようだか、私はそれも何故だろうと思う。
子どもとはそういう面白さがある。本当に面白く楽しい」
そう言って侯爵は笑った。
クイン侯爵家は代々子沢山だ。この侯爵も何人兄弟だったか…かなり多かったはずだ。それなのにこの家門で相続争いなど聞いたことがない。分けられる財産がふんだんにあることも理由だろうが、それだけではないのだろう。ルゼル殿やアロン殿のような不思議な人材が多くて、本当に日々が面白く楽しいのだろう。リディラ嬢の非凡さが普通に見える程に。
あ、いけない。リディラ嬢からの連想でビクトリアからまたしてもタビアスが出てきてしまった。
「キエルふくだんちょ様ぁ」
ルゼル殿の声だ。まさに救いの天使。こちらに向かって二天使が走ってくる。まだヨチヨチに近い全力疾走が可愛い。タビアスの黒い罠から浄化された気分だ。
「ルゼル殿。リオン殿。お二人のポニーたちにご挨拶させていただいておりました」
「はい。あのあの、茶色いポニルが私のポニルで、白いポニオンがリオンのポニオンです」
常軌を逸した異能持ちのはずだが、このような説明が年相応なところが本当に愛らしい。
「それでそれで、ポニルのすごいなところはポニオンよりクルリンて回るがすごいの」
ああ、確かにポニオンよりポニルの方が小回りがきいている。器用なポニーだ。
「それからそれから、私がすこーし疲れた思うと木陰に行ってくれるの。それでそれで金色たてがみに疲れたよーってよりかかるとお首をキチンとして私を楽チンにしてくれるの。キヅカイのポニルなの。
あとねあとね、ポニオンはお名前呼ぶとヒンてお返事するの」
珍しく一気に話されますね、ルゼル殿。ここでリオン殿が話します。
「そうなの!私がポニオンて呼ぶとヒン!てお返事するの。はんぷくがくしゅなの」
反復学習?
ここでまたルゼル殿。
「はんぷくがくしゅ言うのはね、何回も何回も繰り返して覚えるのことなの。ポニオンはね、リオンが何回もポニオンて呼んだからお名前覚えてヒンてお返事できるようになったの。すごいすごいですよね!」
キラキラした翡翠が見上げています。ライバルにこんなに懐いていて良いんですか?本当に愛らしい。
あ、気づいてしまいました。私の苦手でルゼル殿の得意なところ。それは物事の言語化です。
でも私はライバルだから、そのとこはルゼル殿には内緒にしましょう。まだカタカタイワシメられたくはないので。
見事なポニーだ。形もツヤも良い。ナイン商社が選んだということだが、ナイン商社の目利きとクイン侯爵家の合わせ技のたまものだろう。良い素材を最高の環境で育てている見本のようなポニーたちだ。見るなり口から言葉が出た。
「ほぅ、これは良いポニーですね。白馬がポニオンで薄茶がポニルですか?」
「流石だな、キエル卿。その通りだよ。どうしてわかりました?」
どうしてか?…そう感じたからなのだが、グイン団長からは「そこがお前の才だが、戦い以外のことは少しそこを言語化してみろ。お前の話は感覚的過ぎて伝わらないヤツもいるからな」と言われている。ここは一つ頑張って言語化するべきだろう…。
「はい…えーと…、白馬は動き出しが薄茶より少々速いのでルゼル殿より瞬発的な踏ん張りが効くリオン殿向きだなと。また薄茶は歩いている時に頭の揺れが少ないのでバランスを取りやすいでしょうから、それもルゼル殿向きだなと」
既に二年前になろうか、二天使が騎士の練習場を見学に来た時に木剣を振った。その時にお二人とも剣を支えきれずに転んだのだが,ルゼル殿は剣を振りかぶった時に尻餅をつき、リオン殿は振り下ろした時に前のめりに転んだ。そこから推察するにリオン殿は踏ん張りが効くタイプ。ルゼル殿はイメージ先行で体力がついていかなかったが、振り上げた角度や高さは理想的だった。つまりセンスは抜群でまずバランス感覚を磨くべきタイプだと判断したのだ。
…なるほど、言葉にしてみると本質が見えてくるな。
「あとは…そうですね、色のバランスと言いましょうか…」
白馬はリオン殿の紫の瞳に良く合うし、薄茶の方の金のたてがみはルゼル殿の翡翠の瞳がより映える。
ナイン商社はなかなか鋭い観察眼を持っていると思う。
「ナイン商社の目利きはお二人をよくご存知のようですね。お二人とも本や特産物がお好きなようですし、商社の方とは頻繁にお会いしているのですか?」
「いや、そうではないのだが、二人ともポニーを見るなり自分用に選ばれたポニーに迷いなく寄って行ったというから商売人の観察眼は凄いものだと感心するよ」
いやいやいや、それはそれで二天使も凄いのでは?侯爵も二天使が身近すぎて麻痺しておられるな。
「つまり、卿、このポニーたちは二人に似合いということだろうか?」
この上なく二天使に向いているポニーだと思うが、侯爵の不安はなんだろうか?
「何か不安でも?」
聞いてみた。
「うん…商社の目利きを信じてはいるのだが、マグヌス殿下が最近二人に落ち着きがないので乗馬訓練は気をつけるようにと言われたのでな…馬というのは乗り手の感情の起伏に影響されやすい。その点が気になっているのだよ」
なるほど。馬と乗り手はまず相性。次に乗り手の感情。次に乗馬テクニックだが…。
「そういうことでしたらあまり心配なさらなくて良いかと。見たところ、お二人とポニーの相性はとても良いですし、ポニーたちの性格も非常に安定した子たちのようですよ。お二人が多少落ち着きがない時でもポニーの方がカバーしてくれそうです」
これもそう感じるのだが、これはなかなか言語化できそうにない。ポニーの考えていることがわからないからだ。だが、このポニーたちは一般的なポニーたちよりメンタルが丈夫で安定している。なぜだかわかる。
「それを聞いて安心した」
侯爵はそう言って微笑んだ。肩の力も抜けたようだ。心底安心した様子だ。本当に心配していたのだな。その気持ちはわかる。親になってみてなおのこと理解できるようになった。
あ、いけない。タビアスの息子のことを思い出してしまった。
ビクトリアの手を踏もうとしただと?突き飛ばしただと?許せない。しかも、アロン殿がこっそり教えてくださった。「キエルふくだんちょしゃまん、あのねあのね、デビスタビアスしゃまん、ビクトリアねぇ様、好き好き」…。
ふざけるなデビス・タビアス。
私はアロン殿の観察力は疑っていない。アロン殿は生まれた時からルゼル殿の近くにいるのだ。物の見方や考え方の英才教育を受けているようなものだ。それだけに…
ふざけるなデビス・タビアス。
「ふざけるなデビス・タビアス」
「お?」
あ、声に出ていた。
「ははは。卿もすっかり人の親だな」
「はぁ、失礼しました」
うぅ。お恥ずかしい。話を逸らそう。
「そう言えばアロン殿は男性陣につける『様』はしゃまんになりますが、女性陣には様と言いますね、あれは何故でしょうか?」
これは本当に不思議に思っているところだ。
「ふむ、あれは私も不思議に感じているところだ。ただアロンはきちんと男女の見極めができているということはわかるな。
余談だがリゼルの話では、ユリアンは皆が名前で呼ぶバークレイの嫡男のことを一人だけバークレイ呼びをしているらしい。それも不思議なことよな。リゼルも理由は聞いていないようだか、私はそれも何故だろうと思う。
子どもとはそういう面白さがある。本当に面白く楽しい」
そう言って侯爵は笑った。
クイン侯爵家は代々子沢山だ。この侯爵も何人兄弟だったか…かなり多かったはずだ。それなのにこの家門で相続争いなど聞いたことがない。分けられる財産がふんだんにあることも理由だろうが、それだけではないのだろう。ルゼル殿やアロン殿のような不思議な人材が多くて、本当に日々が面白く楽しいのだろう。リディラ嬢の非凡さが普通に見える程に。
あ、いけない。リディラ嬢からの連想でビクトリアからまたしてもタビアスが出てきてしまった。
「キエルふくだんちょ様ぁ」
ルゼル殿の声だ。まさに救いの天使。こちらに向かって二天使が走ってくる。まだヨチヨチに近い全力疾走が可愛い。タビアスの黒い罠から浄化された気分だ。
「ルゼル殿。リオン殿。お二人のポニーたちにご挨拶させていただいておりました」
「はい。あのあの、茶色いポニルが私のポニルで、白いポニオンがリオンのポニオンです」
常軌を逸した異能持ちのはずだが、このような説明が年相応なところが本当に愛らしい。
「それでそれで、ポニルのすごいなところはポニオンよりクルリンて回るがすごいの」
ああ、確かにポニオンよりポニルの方が小回りがきいている。器用なポニーだ。
「それからそれから、私がすこーし疲れた思うと木陰に行ってくれるの。それでそれで金色たてがみに疲れたよーってよりかかるとお首をキチンとして私を楽チンにしてくれるの。キヅカイのポニルなの。
あとねあとね、ポニオンはお名前呼ぶとヒンてお返事するの」
珍しく一気に話されますね、ルゼル殿。ここでリオン殿が話します。
「そうなの!私がポニオンて呼ぶとヒン!てお返事するの。はんぷくがくしゅなの」
反復学習?
ここでまたルゼル殿。
「はんぷくがくしゅ言うのはね、何回も何回も繰り返して覚えるのことなの。ポニオンはね、リオンが何回もポニオンて呼んだからお名前覚えてヒンてお返事できるようになったの。すごいすごいですよね!」
キラキラした翡翠が見上げています。ライバルにこんなに懐いていて良いんですか?本当に愛らしい。
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