モウモク

イレイザー

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第4話

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  頭に何か硬いものをぶつけられる。先生が出席簿で僕の頭を叩いたのだ。僕は驚いて思い切り顔を上げる。当然周りの視線を一気に集めてしまった。
   「授業中はちゃんと起きてなさい。」
   と先生に叱られてしまった。クラスメイトから笑われてしまった。
   「お前まじで傑作だったぜ。」
   放課後、大地が笑いを堪えて僕に言ってきた。
   「(煩いな)別に寝ててもいいだろ。」
   「いやぁ、お前だいぶうなされてたぞ?」
   確かにいい夢では無かった気がするのだが、そこまで僕はうなされていたのだろうか。左腕につけている絆創膏を指でさする。今日の朝起きた時に出来た傷で、引っ掻かれた様な傷跡が出来ていた。大方寝てる時にどこかにぶつかったのだろう。
   夢の内容はまた、思い出せない。
  幼い僕は無力だった。高校生になった今でも大して力は無いと思う。でもあの頃はまだ自分の身に降りかかる出来事に対して、対応する事が全くできなかった。
   僕は斎藤家の元で生まれた。優しい母親、仕事熱心な父親と何でも出来た兄の四人家族だった。僕が幼稚園の頃まではとても温かい、いい家族だった。僕はあまり要領が良くなく、複数の物事を上手に処理できなかった。二つ上の兄はいわゆる神童でみんなの人気者だった。そうなると当然、
   「あいつの弟だってよ。」と比べられるのは当たり前だった。近所の人にも、学校の先生にも、親にも。小学生の頃から僕は期待されていた。兄の様に、勉強はもちろんスポーツもできて、人望があって、モテて、有名な学校に進学し続けることを。
   でも僕は期待に応える事ができない。勉強も兄の様に一番を取る事ができない。スポーツなんてできた試しがない。だからいい学校に進学もできない。
   努力すればするほどに兄との差を実感してしまう。
   「なんか期待外れだな。」
   「弟は駄目だったか。」
   「何でこんなこともできないの!」
   クラスメイト、学校の先生からは
失望の雰囲気を感じる。親からは不出来な息子に苛立ちを感じている。
   不出来な僕はこの家庭には居られない。肩身はいつも狭い思い。何でできないの。どうして出来ないの。僕は叩かれる。心が傷つく。涙はとうの昔に枯れている。僕は無力だ。空っぽだ。誰にも必要とされない。嗚呼、死にたい。
   もはや夢と現実の区別がつかない。
   僕は毒だ。僕が生まれたせいで、あの完璧な家庭を乱してしまった。不完全な、未熟な僕は早くこの世から消えてしまわなくてはならない。
   高いところへ登って、死ぬしかない。点から伸びる高いハシゴに向かって歩みを進める。
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