86 / 119
86.エウゲン将軍の迷走
しおりを挟む
「俺は、エウゲン・ツェンベルク、侯爵家の当主である。歴代の貴族である。俺は若い時から戦場を駆け巡ってきた歴戦の猛者である。
それが最近はあのハルトとかいう農民上がりの若造にいい顔をされて、頭に来ていたところである。
このランドル王国への救援軍の派遣は、俺の存在を誇示するのにいい機会である。特に窮地に陥った国を助けるという大義名分は響きがいい。まるで物語の姫を助ける騎士である。
そのため、国王の命令とは少し違うが、今回は騎馬隊を連れてきた。魔道馬車だけでうまくいくわけがない。結果がすべてである。うまくいけば国王も俺の正しさを認めるだろう」
エウゲン将軍率いる騎馬隊が、レー港に着くと、ランドル王国の軍の世話を任された貴族は慌てた。歩兵1万と聞いていたのに実際は騎兵が現れたのである。
馬用の飼い葉なんて用意していない。馬に人用の穀物を与えたとして、人と馬では1日に消費する穀物の量が違うのである。
将軍に聞くと
「歩兵は俺たちを下ろした船が、今から迎えに行くから、到着は2週間ぐらい後だろう」
とのこと。
仕方がないので、今ある兵糧は馬に与え、追加の兵糧を集めることにしたのだった。
「俺は今、レー港にいる。歩兵が来るのは2週間後である。その間どうするか。ランドル王国の俺の担当の話ではランドル王国に侵攻したフラ王国の軍は3万人とのこと。そのうち騎馬は8000人とのこと。
今いる俺の部隊は2000人、とても8000人の部隊には勝てない。やはり魔道馬車の部隊が到着するのを待つしかないか。
しかし、忌々しいものだ。俺を待たせるとは、これだから平民はいけない。上司に対する礼儀がない」
そのようにして、エウゲン将軍がレー港で過ごしていると、ランドル王国の国境のローヌ砦が落ちたとの知らせが届いた。
そのため、エウゲン将軍は魔道馬車の到着を待たずに王都に出立した。そして、王都郊外でランドル王国の軍と合流した。
エウゲン将軍の部隊を見たランドル王国国王は慌てた。
エウゲン将軍に
「魔道馬車はどうしたのじゃ。たしか500台の魔道馬車が来ると聞いていたのだが」
「魔道馬車は到着が遅れておりまして、いずれ到着すると思います。ローヌ砦が落ちたと聞いて、取りあえず、馳せ参じた次第です」
これを聞いた国王はさみしそうな顔で
「救援、ご苦労。後で軍議に参加してもらうので、それまではゆっくりされよ」
そう言って、エウゲン将軍が退席するのを待って側近に
「それで、実際のところはどうなのだ。どうして魔道馬車の到着が遅れている」
「はい、レー港に騎馬隊しか来なかったので、それとなく探らせたところ、エウゲン将軍が『平民と同じ船に乗るのは嫌だ』と言って、騎馬隊だけで先に港を出たようです。
船は騎馬隊をレー港に下ろして、またアムスム王国まで迎えに行ったそうです」
これを聞いた国王は
「貴族至上主義とは困ったものだ。エウゲン将軍は適当におだてて、使い捨ての駒とするしかないな。
魔道馬車の到着までは大きな戦闘は避けるように」
その後、1週間ほどしてフラ王国の軍隊が王都の近郊に現れた。ランドル王国は篭城戦を決定した。これに対して、エウゲン将軍は激しく反発した。しかし、
「軍もそろわぬのにどうするのだ。そもそも、将軍が魔道馬車を置いてきたから悪いのだろう」
国王にこう言われて黙るしかなかった。
フラ王国軍に包囲されて1週間ほどたった。王都は城壁に囲まれた要塞都市。おまけにほぼ無傷のランドル王国軍が立てこもっているとあっては、フラ王国軍としても迂闊に攻めるわけにもいかない。
しかし、救援に来たエウゲン将軍としてはこのまま時間を潰せば置いてきた魔道馬車の平民部隊が来てしまう。できれば魔道馬車抜きで手柄を立てたいと思っていたエウゲン将軍としては面白くない。何度も城から出て相手に攻撃を仕掛けたいと申し出たが、その申し出はすべて却下されている。
迂闊に城門を開けば、敵が城内になだれ込んでくる。市民兵が主体で騎兵が少ないランドル王国軍としては、城から出ても囲まれるだけで有効な攻撃を仕掛けられないのである。
それはわかっているのだが、なんとももどかしい限りである。
ある時、エウゲン将軍は城壁を取り囲むフラ王国軍に手薄な場所があるのに気が付いた。密かに騎士団を集め
「夜こっそり城を出て敵軍に攻め入る」
と通達した。通達を聞いた騎士は、
「ランドル王国からは絶対に城から出るなと明言されているのに、いいのか」
と聞いたが、
「上司の命令に逆らうのか」
と脅され黙らざるを得なかった。
夜、ランドル王国の兵士を殴って気絶させて、城門を開いて、騎士団が城門を出ていった。
音に気づいたランドル王国の兵士が止めようとしたが、向かってくる馬の勢いに怯んで止められなかった。仕方なく、また城門を閉めたのだった。
「うまく城を出られましたな」
「あのまま城にいても、何も出来ぬからな。我らは騎兵、馬に乗ってこそ、手柄も立てられるというものだ」
「さすが将軍」
部下が褒め称える。
「よし、このまま敵に突っ込むぞ」
しかし、昼間見た敵の手薄なところに行くと柵がしてある。柵の前で馬が止まると、上から矢の雨が降ってきた。ここで初めて罠に気づいたが、もう遅かった。
周りを囲まれて退路も断たれている。奮戦はしたが、部下の多くが死に、手傷を負って捕らえられて捕虜になった。
城門まで逃げ帰った者もいたがその数はわずかであった。
それが最近はあのハルトとかいう農民上がりの若造にいい顔をされて、頭に来ていたところである。
このランドル王国への救援軍の派遣は、俺の存在を誇示するのにいい機会である。特に窮地に陥った国を助けるという大義名分は響きがいい。まるで物語の姫を助ける騎士である。
そのため、国王の命令とは少し違うが、今回は騎馬隊を連れてきた。魔道馬車だけでうまくいくわけがない。結果がすべてである。うまくいけば国王も俺の正しさを認めるだろう」
エウゲン将軍率いる騎馬隊が、レー港に着くと、ランドル王国の軍の世話を任された貴族は慌てた。歩兵1万と聞いていたのに実際は騎兵が現れたのである。
馬用の飼い葉なんて用意していない。馬に人用の穀物を与えたとして、人と馬では1日に消費する穀物の量が違うのである。
将軍に聞くと
「歩兵は俺たちを下ろした船が、今から迎えに行くから、到着は2週間ぐらい後だろう」
とのこと。
仕方がないので、今ある兵糧は馬に与え、追加の兵糧を集めることにしたのだった。
「俺は今、レー港にいる。歩兵が来るのは2週間後である。その間どうするか。ランドル王国の俺の担当の話ではランドル王国に侵攻したフラ王国の軍は3万人とのこと。そのうち騎馬は8000人とのこと。
今いる俺の部隊は2000人、とても8000人の部隊には勝てない。やはり魔道馬車の部隊が到着するのを待つしかないか。
しかし、忌々しいものだ。俺を待たせるとは、これだから平民はいけない。上司に対する礼儀がない」
そのようにして、エウゲン将軍がレー港で過ごしていると、ランドル王国の国境のローヌ砦が落ちたとの知らせが届いた。
そのため、エウゲン将軍は魔道馬車の到着を待たずに王都に出立した。そして、王都郊外でランドル王国の軍と合流した。
エウゲン将軍の部隊を見たランドル王国国王は慌てた。
エウゲン将軍に
「魔道馬車はどうしたのじゃ。たしか500台の魔道馬車が来ると聞いていたのだが」
「魔道馬車は到着が遅れておりまして、いずれ到着すると思います。ローヌ砦が落ちたと聞いて、取りあえず、馳せ参じた次第です」
これを聞いた国王はさみしそうな顔で
「救援、ご苦労。後で軍議に参加してもらうので、それまではゆっくりされよ」
そう言って、エウゲン将軍が退席するのを待って側近に
「それで、実際のところはどうなのだ。どうして魔道馬車の到着が遅れている」
「はい、レー港に騎馬隊しか来なかったので、それとなく探らせたところ、エウゲン将軍が『平民と同じ船に乗るのは嫌だ』と言って、騎馬隊だけで先に港を出たようです。
船は騎馬隊をレー港に下ろして、またアムスム王国まで迎えに行ったそうです」
これを聞いた国王は
「貴族至上主義とは困ったものだ。エウゲン将軍は適当におだてて、使い捨ての駒とするしかないな。
魔道馬車の到着までは大きな戦闘は避けるように」
その後、1週間ほどしてフラ王国の軍隊が王都の近郊に現れた。ランドル王国は篭城戦を決定した。これに対して、エウゲン将軍は激しく反発した。しかし、
「軍もそろわぬのにどうするのだ。そもそも、将軍が魔道馬車を置いてきたから悪いのだろう」
国王にこう言われて黙るしかなかった。
フラ王国軍に包囲されて1週間ほどたった。王都は城壁に囲まれた要塞都市。おまけにほぼ無傷のランドル王国軍が立てこもっているとあっては、フラ王国軍としても迂闊に攻めるわけにもいかない。
しかし、救援に来たエウゲン将軍としてはこのまま時間を潰せば置いてきた魔道馬車の平民部隊が来てしまう。できれば魔道馬車抜きで手柄を立てたいと思っていたエウゲン将軍としては面白くない。何度も城から出て相手に攻撃を仕掛けたいと申し出たが、その申し出はすべて却下されている。
迂闊に城門を開けば、敵が城内になだれ込んでくる。市民兵が主体で騎兵が少ないランドル王国軍としては、城から出ても囲まれるだけで有効な攻撃を仕掛けられないのである。
それはわかっているのだが、なんとももどかしい限りである。
ある時、エウゲン将軍は城壁を取り囲むフラ王国軍に手薄な場所があるのに気が付いた。密かに騎士団を集め
「夜こっそり城を出て敵軍に攻め入る」
と通達した。通達を聞いた騎士は、
「ランドル王国からは絶対に城から出るなと明言されているのに、いいのか」
と聞いたが、
「上司の命令に逆らうのか」
と脅され黙らざるを得なかった。
夜、ランドル王国の兵士を殴って気絶させて、城門を開いて、騎士団が城門を出ていった。
音に気づいたランドル王国の兵士が止めようとしたが、向かってくる馬の勢いに怯んで止められなかった。仕方なく、また城門を閉めたのだった。
「うまく城を出られましたな」
「あのまま城にいても、何も出来ぬからな。我らは騎兵、馬に乗ってこそ、手柄も立てられるというものだ」
「さすが将軍」
部下が褒め称える。
「よし、このまま敵に突っ込むぞ」
しかし、昼間見た敵の手薄なところに行くと柵がしてある。柵の前で馬が止まると、上から矢の雨が降ってきた。ここで初めて罠に気づいたが、もう遅かった。
周りを囲まれて退路も断たれている。奮戦はしたが、部下の多くが死に、手傷を負って捕らえられて捕虜になった。
城門まで逃げ帰った者もいたがその数はわずかであった。
4
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚獣スライムに転生したが、美少女召喚士が自分のすごさにまったく気づかない
椎名 富比路
ファンタジー
美少女召喚士リップルに召喚される形で、スライムの【ロピ】ちゃんとして転生したヒロミ。
リップルは誰しも認める天才美少女召喚士で、召喚獣からも慕われている。
なのに、本人はまったく無自覚で、自分の力より召喚獣のほうが優秀だと思っている。
だが、ロピちゃん本人も、自分が最強だと気がついていなかったのである……。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜
Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。
だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。
赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。
前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、
今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。
記憶を失ったふりをしながら、
静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。
しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。
――これは復讐でも、救済でもない。
自由を求めただけの少年が、
やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。
最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。
重複投稿作品です
小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~
ありゃくね
ファンタジー
前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。
彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。
ファンタジーは知らないけれど、何やら規格外みたいです 神から貰ったお詫びギフトは、無限に進化するチートスキルでした
渡琉兎
ファンタジー
『第3回次世代ファンタジーカップ』にて【優秀賞】を受賞!
2024/02/21(水)1巻発売!
2024/07/22(月)2巻発売!(コミカライズ企画進行中発表!)
2024/12/16(月)3巻発売!
2025/04/14(月)4巻発売!
2025/09/12(金)5巻発売!同日コミカライズ開始!
2026/03/16(月)コミカライズ1巻発売!
応援してくださった皆様、誠にありがとうございます!!
刊行情報が出たことに合わせて02/01にて改題しました!
旧題『ファンタジーを知らないおじさんの異世界スローライフ ~見た目は子供で中身は三十路のギルド専属鑑定士は、何やら規格外みたいです~』
=====
車に轢かれて死んでしまった佐鳥冬夜は、自分の死が女神の手違いだと知り涙する。
そんな女神からの提案で異世界へ転生することになったのだが、冬夜はファンタジー世界について全く知識を持たないおじさんだった。
女神から与えられるスキルも遠慮して鑑定スキルの上位ではなく、下位の鑑定眼を選択してしまう始末。
それでも冬夜は与えられた二度目の人生を、自分なりに生きていこうと転生先の世界――スフィアイズで自由を謳歌する。
※05/12(金)21:00更新時にHOTランキング1位達成!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる