αだと思って生きてきたのに!?!?

BLUE

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2.出会い

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 俺は幼少期から頭が良く、周りの空気をよく読める子供だったので、家族はもちろん、周りの人間はみんな俺をαだろうと言っていた。もちろん俺もそう信じていたし、なんなら、小学生時代に受けた第二次性の検査結果だってαだった。両親は2人ともβだったので、αの俺をすごく喜んでくれていた。


 なのになぜ、今更となって違うとなったのか。










 そこそこの企業に就職して会社員として働いていた俺は限界を迎えていた。部下たちが就業時間までに間に合わなかった仕事を俺は何回も受けてしまっていたからだ。自分のお人よしさんな所と断れない性格が裏目に出てしまっていた。残業をしてなんとか仕事を終わらせて会社を出たのが午前1時。
 これがいけなかったか、なんて、今となってはもうよくわからない。

 会社を出て徒歩15分ほどのところにマンションを一室借りていて、そこが俺の家だった。αなのに質素なとこに住んでいるんだな、と、同期や上司に言われたことがあるが、俺は普通の生活ができればそれでいいのだ。高級マンションに住む夢もない。
 歩いていると、不調を訴えていた身体がさらに悲鳴をあげ、目眩がひどくなり、足元がおぼつかなくなった。しまいには、道端で倒れそうになるが、周りは俺を酒で酔っ払ったやつ、として気にも留めないで過ぎていく。誰かに縋って声をかけようか迷っていた時、不意に前の方から俺の好きな爽やかなオレンジみたいな匂いがして、ひどく興奮を覚えた。
 だんだんその匂いが近づいてきて、その匂いの人が声をかけてきた。

「顔色、真っ白ですけど大丈夫ですか?」

 俺の意識はもう、切れる寸前で良くは覚えていないが、いい匂いだなぁと思って意識を飛ばした。












 ひどい息苦しさと、止まらない性欲で飛び起きるように目を覚ました。俺はベットに寝かされていて、おでこには熱さまシートが貼られていた。苦し紛れに周りを見渡すが、俺には見覚えのない部屋だった。
 すると、ガチャリ、と扉が開いて、1人の男が入ってきた。

「目を覚ましたんですね。良かっ…!!」

 男が入ってきた瞬間、全身がゾクゾクと震え始め、オレンジの匂いが肺いっぱいに広がり、尻からは感じたことのない、じわっという感覚がし、俺はとても怖くなった。全身を抱えて震えていると、男は俺に近づいてきて、

「やっぱり見つけた。俺の運命」

 と。

 俺は男が何を言っているかあまり理解できずに、ただうわごとのように、

「熱い、苦しい、欲しい、足りない」

 と、誰かわからない相手に向かってねだった。何をもらえるのかよくわからない、働いてない頭で。

「クソッ!!」

 と、男は一回部屋を出て行った。俺は男に見放されたと思って、よくわからない涙をボロボロ流し続けた。

 しばらくすると、男が注射器のようなものを持っていて、俺の太ももに刺した。流れてくる液体と痛さと苦しさと渇きでごちゃごちゃになって、また俺は意識を飛ばした。












 眩しさを感じて、また俺は目を覚ました。なんだか、久しぶりにぐっすり、ゆっくり寝られた気がする。そう言えば今何時なんだと思い、寝ていた頭のすぐそばに置いてあったスマホを見ると、10時30分と表示されていた。

「遅刻だ!やらかした!やばいやばいやばい!!」

 急いでベットを出ようとして、はた、と気づいた。見覚えのないベットにパジャマ。そこで辺りを見渡してみると、知らない部屋。俺は目の前の状況に頭がついていけずフリーズ。デジャブのようにガチャリと扉が開いて1人の男が入ってきた。

「おはようございます。体調良さそうですね。」

 と、人懐っこそうな笑顔を浮かべていた。

「あの…ここは…」

 と、俺が尋ねると、男は、

「ああ、深夜にあなたと道端ですれ違って、すごく顔色が悪そうだったので、声をかけたらあなたが急に倒れてしまって、俺の家まで運んだんですよ。つまり、ここは俺の家です。」

 少し早口気味に答えた。

「あと、俺の名前は新田心あらた しんと言います。22歳です。あなたの名前を聞いても?」

 と男が聞いてきたので、

「お、おれの名前は三山敬みやま けい、27歳だ。」

 と答えると、

「敬さん…いい名前だ」

 そう男、元いい、新田は呟くが、敬の耳には届かなかった。

「確認ですが、第二次性は…」

 と新田に聞かれ、

「αだ」

 と俺が答えると、新田の顔が少し曇った。

「俺はαです。失礼ながら敬さんは、Ωではないでしょうか?」

 まるで空の頭から俺の頭目掛けて槍を投げ、見事に命中したような衝撃を受けた。

「な、なんで、そ、そういうふうに…俺はαだ。検査でちゃんとαだったんだ!!今更俺がΩだなんて??信じられるわけないだろ!!」

「俺たちは運命の番なんです!一目見ただけで俺にはわかりました!」

 さらに追い討ちをかけるように2本目の槍が命中したような衝撃を受けた。

「う、うんめい…?あの?あの運命の番か…?じゃ、じゃあ、俺じゃなくて新田さんがΩというのはないのか?」

「ないです。つい1週間前に、たまたま親に成長に連れてごく稀に第二次性が変わることがあると言われたので、検査をしていたんですよ。まさかこんなところで役に立つとは…。結果はしっかりαでしたよ。結果の紙でもお見せしましょうか?」

 俺はもう、返す言葉が見つからなく、ただ茫然としていた。

 そんな。俺がΩ?ありえない。αなんだ俺は。

 そんな俺の様子を新田はしばし伺って

「今から病院に行きましょう。敬さん。敬さん、朝方に発情期ヒートになっていたんです。俺も発情期ラットになりかけてて、急いで注射器型の緊急抑制剤を打ちました。だから今、俺らはこうやって落ち着いて話ができているんですよ。」

 新田の話でうっすら記憶に残っていた痴態を思い出し、俺はベットの横に立っていたが、力無くして座り込んだ。

「敬さん!」

 新田が近づいてくるが、今そんなことは俺にとってはどうでも良かった。

 今までαとして生きてきたというのに、今更Ωとして生きられるわけがない。

「敬さん!敬さん!!!」

 新田の声が聞こえたかもしれないが、俺は絶望の海へと沈み、そのまま意識も沈んでいった。









 最後に匂ったのは爽やかなオレンジの香りだった。
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