ラッコの料理番

はりもぐら

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ラッコの料理番

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僕の町には料理担当のラッコがいる。

というより、料理は全てラッコがやってくれるのだ。

だから、食事の時間になると、みんなは食材を持ってラッコの所へ行く。

ラッコがいるのは川だから、お腹がすいたら、まず川を探さなくてはならない。

家にいるときは、いつのも川へ行けばいいけれど、何処かへ出かけている時は大変だ。

近くに川があるとは限らないから、お腹がすいてから川を探していたらとんでもないことになる。

だけど、ラッコの料理番は驚くほど早くて味も抜群だ。

なかでも、食材の下ごしらえのスピードはすさまじい。

ラッコは、お腹に乗せた石を上手く使って、あらゆる素材を一瞬で切り刻んでしまうのだ。

「ご注文は?」

「ハンバーグ!」

「かしこまりました」

ラッコの料理番は、カッカッカッカッと軽やかにタマネギをみじん切りにすると、調理担当のラッコのボールに放り込んだ。

調理担当のラッコは、素早くミンチと混ぜ合わせると、お腹の上のホットプレートでジュージューと焼き始めた。

「はい、できあがり!」

調理担当のラッコが叫んだので、ハンバーグを注文したお客さんは、慌ててお皿を差し出した。

「うわぁ、いい匂い」

お客さんは大喜びで帰っていった。

「はい、次の方どうぞ!」

ラッコは、次々と料理を作っていく。

今日のように晴れている日はいいけれど、雨の日や嵐の日は大変だ。

だけど、どんな日でもラッコの料理番は休まない。

川が大雨で溢れそうでも、ラッコは水草をからだにグルグルと巻き付けて、流れていかないようにする。

そんな日は、どちらかと言えば、お客さんの方が大変だ。

ラッコは川の中にいるのだから、雨が降っても別にかまわない。

だけど、お客さんは自分が濡れるのはいやだし、料理が雨でべちゃべちゃになるのはもっといやだ。

だから、食材の他に、傘を二本持ってやってくる。

一本は自分用、そしてもう一本は料理のためだ。

大雨の日、ある親子がやって来た。

「ご注文は?」 

料理番のラッコがたずねた。

「バースデーケーキ!」

女の子がうれしそうに叫んだ。

「かしこまりました」

調理担当のラッコは卵を受け取ると、お腹の上のボールの中で、シャカシャカと混ぜ始めた。

シャカシャカ、シャカシャカ。シャカシャカ、シャカシャカ。

あっという間に卵が泡立つと、小麦粉を入れて混ぜ合わせた。

その間、お父さんはボールに雨が入らないよう、必死で腕を伸ばして傘を差していた。

別の調理担当のラッコがお腹の上のホットプレートでスポンジを焼いている間に、今度は生クリームを混ぜ始める。

シャカシャカ、シャカシャカ。

ラッコが生クリームをリズミカルに混ぜている間、お父さんは傘をさし続けていた。

腕をもう伸ばせないくらいギリギリまで伸ばしているせいで、お父さんの手はプルプル震えている。

シャカシャカ、シャカシャカ、混ぜる音、プルプル、プルプル震えるお父さんの腕。

そして、ホイップが出来上がると、焼きあがったスポンジにデコレーションして、バースデーケーキの出来上がり!

「うわあ、おいしそう!」

女の子とお父さんは嬉しそうに帰っていく。

だけど、お父さんの腕はプルプルしたままで、うっかりするとケーキを落としそうになる。

それでも、ラッコのケーキはおいしいから、お父さんは必死でケーキを持つ手に力をこめるのだった。
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