追放された宮廷錬金術師、彼女が抜けた穴は誰にも埋められない~今更戻ってくれと言われても、隣国の王子様と婚約決まってたのでもう遅い~

まいめろ

文字の大きさ
15 / 46

15話 交渉 その2

しおりを挟む
「この娘に1か月に80万ゴールドも支払う価値が!? 信じられませんわ!」

「確かに……法外だな」


 ラグナ王太子殿下が提示してくれた、私の給料……80万ゴールド。確かに一般人の私からすれば多すぎる気はするけれど。法外という言葉をアラン王子殿下達が使っているのが信じられなかった。

「私としては、彼女の能力はそれ以上だと思っています。決して惜しい金額ではない。あなた方が今まで、どれだけの低賃金で彼女を雇用していたか、丸わかりですね。もっとも……人は金銭で価値判断など出来ないものですが」


「く、くく……!」


 宿屋内がいつの間にかオークション会場になっている。なんというか……不思議な気分だった。


「80万ゴールドを出すのは難しいでしょうか? それならば、ウィンリーがそちらに戻る理由はないですね」


「ぬうううう……!」


 早くも交渉の勝負が決着する? そう思われた時だった。


「お、お待ちください!」

「む……あなたは」

「も、申し遅れました! 私はジドル王国の魔法鑑定人のヘンリック・ポポと申します!」

「ヘンリック殿か」


 一番最初の挨拶時点で簡単な自己紹介はしているけれど、ヘンリックさんは改めてラグナ王太子殿下に挨拶をした。身分の差を感じてのことだと思う。この人は比較的まともそう……?

「な、なんとか! なんとかウィンリー殿をお戻しいただけませんでしょうか!? ジドル王国の今後を考えますと、どうしても彼女が必要なのです!」

 背筋を90度曲げながら、必死に懇願してくるヘンリックさん。このまま放っておいたら、土下座までしそうな勢いだ。でも、それをする相手は違う気がする。

「ヘンリック殿、お顔を上げてください、あなたがそこまでされる必要はないでしょう」

「で、では……!」


 ヘンリックさんは自らの意見が通ったと思ったみたいだけど、それは甘すぎた。

「本来、頭を下げるべき人物は別に居るでしょう?」


 そう言いながら、ラグナ王太子殿下はゆっくりと視線をその人物に向けて行く。アラン王子殿下とマリーナ公爵令嬢だ。二人とも少し狼狽えている。

 オークションからのイビリ作戦とでもいうのか。ラグナ王太子殿下の手腕が見えて来た。多分、敵に回すと非常に怖い人物だと思う。


「わ、私とマリーナに謝罪をしろ、と?」

 お門違いにも程がある! と言わんばかりの顔をアラン王子殿下は見せていた。一体、どちらがお門違いなんだろうとは思うけど……。ラグナ王太子殿下は、そんなアラン王子相手に首を横に振っていた。

「いえいえ、本来であればあなたの父上殿……ジドル王国の国王陛下に謝罪に来ていただくのが筋というものでしょう」

「な、なに!? 父上だと……!?」


 アラン王子殿下は明らかに焦っている。完全にラグナ王太子殿下がこの場を支配していた。そもそも、高級宿に案内してそれに応じている時点で、イシューマ王国側に主導権があるんだけど。この応対は、一貴族にする応対と変わらないのだから。


「ええ、その通りです。今回のウィンリーを追放した罪はそのくらいだと思いませんか? 給料まで没収して……。それを都合が悪くなったから戻って来てくれでは、あまりに都合が良すぎる」

「ラグナ様……」


 慈悲深いラグナ王太子殿下の言葉に私は感動していた。ああ、本当に凄い人だ。


「それに……もう一つ、問題がありましてね」

「問題……?」


 アラン王子殿下は怪訝そうに私達を睨んでいる。私やマリアベルも、ラグナ王太子殿下の次の言葉を待っていた。何と言うのか興味があったから。


「私とウィンリーは婚約関係にある……つまり、そちらに戻ってもらうことは出来ないのですよ」

「な、なんと……!! 王太子殿下とウィンリーが……!?」

「……へ?」


 え~と、太陽ってどっちの方向に沈むんだっけ……? 私はこの時、軽く混乱していた……。
しおりを挟む
感想 120

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

この国を護ってきた私が、なぜ婚約破棄されなければいけないの?

ファンタジー
ルミドール聖王国第一王子アルベリク・ダランディールに、「聖女としてふさわしくない」と言われ、同時に婚約破棄されてしまった聖女ヴィアナ。失意のどん底に落ち込むヴィアナだったが、第二王子マリクに「この国を出よう」と誘われ、そのまま求婚される。それを受け入れたヴィアナは聖女聖人が確認されたことのないテレンツィアへと向かうが……。 ※複数のサイトに投稿しています。

「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】

小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。 これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。 失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。 無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。 そんなある日のこと。 ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。 『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。 そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……

【完結】聖女と結婚するのに婚約者の姉が邪魔!?姉は精霊の愛し子ですよ?

つくも茄子
ファンタジー
聖女と恋に落ちた王太子が姉を捨てた。 正式な婚約者である姉が邪魔になった模様。 姉を邪魔者扱いするのは王太子だけではない。 王家を始め、王国中が姉を排除し始めた。 ふざけんな!!!   姉は、ただの公爵令嬢じゃない! 「精霊の愛し子」だ! 国を繁栄させる存在だ! 怒り狂っているのは精霊達も同じ。 特に王太子! お前は姉と「約束」してるだろ! 何を勝手に反故してる! 「約束」という名の「契約」を破っておいてタダで済むとでも? 他サイトにも公開中

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

処理中です...