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【本編】
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しおりを挟む外の世界は快適だった。
肌を焼いてくる光も、足元から這い上がってくる熱も。
これぞ夏。
そうだよ、夏はこれじゃないといけないよ。
じっとりと額に浮かび上がってくる汗すら心地好い気がして、陰鬱な気分が吹っ飛んだ。
吹っ飛んだ……が、その大変な開放感も長続きはしなかった。
俺は真面目だが、生真面目じゃない。
池田の部屋にいると、他にすることがないから毎日毎日当たり前のように宿題を進めてしまうが、本来はきっちり日数分で割り、毎日のノルマを確実にやっつけていく方のタイプだ。
その点から見ると、今もう既に一週間分リードしている。
そう思うと、更に進める気など起きるわけがない。
一応言い訳として出してきたからと、図書館には入った。
けど、さっぱり進まず、また進める気力も湧かず、結局一時間もしないうちに出てきてしまった。
そうなってくると、することが無い。
あんなに心地好かった暑さが、逆に不快になってくる。
どこか店に入ろうにも、財布の中身の乏しさがそれを許さない。
本屋での立ち読みも限界がある……というか、本来俺は立ち読みはしない派だ、良い子だから。
ウィンドウショッピングをするにも、外気はあまりに殺人的でただ歩いているだけで生命力が引っこ抜かれていく。
せめて連れがいれば良かった。
そうすれば時間なんて幾らでも潰せただろう。
そう思うが、携帯なんて金のかかるもの俺はもっていない。
その上、友人知人の連絡先は部屋に置きっぱなしで持ってきていない。
誰かに声をかけようにも、誘う相手の連絡先が分からない。
「……むなしい」
ぽつりと呟くと、余計むなしくなって肩が落ちた。
ふと横を向いて見れば、ぴかぴかに磨かれたショーウィンドウにこの世の終わりみたいな顔をしている男が映っていた。
俺だ。
肩が落ちてる。
目がイッてる。
完全に暑さにやられている。
……おかしい。
俺は寒さは苦手だが、暑さはある程度なら平気だったはずだ。
それが、たかだか数時間程度外を出歩いただけで、この体たらくは何だ。
「……」
心当たりはすぐに見付かった。
池田だ。
池田の所為だ。
アイツの部屋があんまり寒いもんだから、すっかり冬モードになった俺にこの暑さが堪えているんだ。
冬から春を経て夏になるのならば兎も角、それを飛び越していきなり猛暑の中に飛び込めば身体がびっくりするのも当然だ。
真夏に極寒のあの部屋が恋しい。
ふとそんな風に考えて、慌てて頭を振る。
折角夕方まで自由の時間を手に入れたんだ、恋しがってどうする。
それに、まだちょっとあの顔を正面から見る気にはなれない。
暑さゆえの過ち。
みんなみんな夏の所為。
そう思い込もうにも、後ろめたいもんは後ろめたい。
顔を見たら「ほんとすみません」と謝ってしまいそうになる。
そんな事を言った日には、白状するまで何に対しての謝罪か問い詰められるだろう。
アンタのエッチをおかずに抜きました……なんて、言えないし言いたくない、男としていや人として。
ひと夏のアバンチュールは女の子としたかった。
男とシモの処理について語り合うような夏なんて嫌だ。
男のエロい所作を想像して抜く夏なんて嫌だ。
どう考えても健全な高校生がすることとは思えない。
折角の夏休みなのに、行く当てもなく誘う相手も居ず金もない。
ないない尽くしの夏休み。
切ない。
「……帰ろう」
結局、ぽつりと出てきたのは負け犬の如き帰宅の言葉だった。
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