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【本編】
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しおりを挟むきし麺がゆらゆら近付いてくる。
その感触は、すべすべしててぬるぬるしてて、あったかい。
粘膜に愛撫される感覚が、こんなに心地好いなんて思わなかった。
瞼の裏でちかちかと白い星が瞬く。
目を瞑っているのに、視界が眩む。
思考が真っ白に染まって、何も考えられなくなる。
仮性包茎がばれてもうどうしようとか、冷静に考えている部分だって確かにあるはずなのに、柔らかな粘膜の感触が津波のようにそれを攫う。
意識が勝手にきし麺の感覚だけを追い始める。
いや、だめだだめだ快楽に流されるな俺。
大体、意気揚々と反応するちんこもどうかしている、節操がなさ過ぎる。
ちょっと撫でられただけで、扱かれただけで、舐められただけで、こんな……
俺の手じゃ不満だったってのか。
今まで黙ってたけど、お前へたっぴなんだよ、と己の分身に吐き捨てられたようで心が痛む。
痛むと同時に、猛烈な反発心が胸に湧く。
お前今魔王に食い付かれてるんだぞ。
歯立てられたらお終いなんだぞ。
びびって萎むなら兎も角、喜び勇んで膨張するとは何事だこの節操無し。
反応しなけりゃ魔王だって飽きて離れるだろうに、一体何だってこんな。
馬鹿馬鹿本当に馬鹿この馬
「ッあ、」
思考が途切れた。
亀頭を軽く歯で撫でられ、喉が勝手に仰け反った。
咄嗟に縋るものを求めて、掌がきつくシーツを握り込む。
格好悪い。
無理矢理食い付かれたってのに、まんまと感じてるとか超格好悪い。
ぎゅっと目を閉じているのに眩暈がする。
きつく食いしばっているのに、歯列から息が漏れる。
舐められるたび、撫でられるたび、吸い上げられるたびに腹が痙攣する。
腹の振動は全身に広がって、指先までが震える。
何かに爪を立てていなければどうにもならないのに、ふとした拍子に弛緩する。
津波が迫ってくる。
どうせ逃げられないのに、逃げろと急きたてるようにゆっくりと迫ってくる。
逃げろ逃げろ逃げ惑えと、嘲笑うみたいに。
「好い?」
うっとりと囁くような問いかけに無理矢理目を抉じ開けてみれば、俺のものに頬擦りせんばかりに寄り添った池田が艶やかに笑んだ。
薄情そうな灰色の目の奥に、揶揄するような悪戯な色が見える。
オレンジの光が届くか届かないかというその距離で、肉食獣がひっそりと微笑している。
好くない、と嘘を吐けば、この獣は諦めて離れるんだろうか。
ふやけた頭で考えてみたところで、咄嗟に答えなんて出ない。
跳ねる度に勝手に逃げた身体はもう限界まで追い詰められていて、少し喉を反らせただけでヘッドボードに頭がぶつかる。
ここでの答えの選択を間違えたら、もう逃げ場はなくなるだろう。
好いと答えてならばもっとしてやろうと調子に乗られたら大変だ。
好くないと答えてならばもっと頑張ってみようとはりきられても洒落にならない。
好き勝手されるくらいならいっそ俺が……いやいやいや、いくらなんでもこれは無理だ。
手で握って扱いて出すだけなら兎も角、舐めて銜えて啜って撫でては流石に無理だ身体的にも精神的にも難易度が高すぎる。
処理なら兎も角、愛撫なんて……愛撫?
そうだ、これは愛撫だ。
「なんで……?」
震える指先をシーツから無理矢理引き剥がし伸ばせば、湿った髪の感触にぶつかった。
池田が頭を動かして、掌に擦り寄ってくる。
撫でろ、と強要してくる甘えた猫みたいに。
股間から離れた右手が、手首からゆるりと伝って親指と親指が絡んだ。
「何が?」
「ッ、」
囁く吐息が掌に触れて、またぴくんと指先が跳ねた。
親指から伝った池田の右手が、甲を伝うようにして掌の外側から指を絡めてくる。
回りこんだ親指に掌のくぼみを撫でられて、息が止まりそうになった。
「やめ、」
咄嗟に引きかけた俺の右手を、池田の右手が引きとめてくる。
強く握り込まれて唇が寄せられる。
伸ばされた舌がくすぐるように同じ場所を撫でてきて、堪らず奥歯を噛み締めた。
掌舐められただけで息乱すとか、意味が分からない。
ちんこだけじゃなく掌まで俺を裏切った。
酷い奴らだ、俺のほうが池田よりもずっとずっと長い付き合いなのに。
「やめ、くろ……ッ、くすぐったい」
「だけじゃないだろ?」
右手が右手を愛撫する。
囁く息にすら肌が焼けるように疼く。
からかう微笑の池田を見ていられずに目を閉じてはみたけれど、怖くなってすぐにまた開けた。
暗闇の中で翻弄されるのは怖い。
けど、目を開けていて状況を正確に把握するのも怖い。
何でこんなことになってるんだろう。
冷静にそう考える思考が、津波の白に塗り替えられる。
俺の問いかけに、池田はまともな言葉を返さない。
言葉よりも、息遣いのほうが部屋に大きく響いているように感じて居た堪れない。
外は結構な雨のはずなのに、その雨音ですら時折聞こえなくなる。
空気が重い。
重くて濃い。
どろりとした濃厚な甘さが、毛穴から身体の中に這入ってくる。
呼吸が出来なくなって、息が詰まる。
「ッは、ん……ッ、」
指の股を舐められる。
ぴちゃぴちゃと立てられる水音が鼓膜を犯してくる。
指先に力が入らない。
時折跳ねるのはただの反射神経で、俺の意思じゃない。
考えないとと思うのに、思う端から思考が溶ける。
食いつく頭を引き剥がそうと伸ばした左手は、ただ池田の襟足をくすぐっているだけだ。
「涼二、くすぐってえ」
指先が髪にひっかかると、池田はふと笑みを漏らす。
飴玉でも転がすみたいに指先を食んでいた顔が離れて、伸び上がるようにして池田の顔が眼前に迫った。
霞む視界でそれでも目の前の顔に焦点を合わせようと眼球を動かすと、またこめかみを水が伝った。
「もっと触って」
「ん、」
ゆったりと掠れた声、甘えるように擦り寄ってきた頭が、首筋に埋まる。
喉仏を舐められて首が反った。
掌が脇腹を撫でてきた。
筋肉の形を辿るように指が滑り、臍の窪みを辿り、胸板を撫でて指先が乳首で止まった。
「ちょッ!」
何で男にもあるんだろう、と常々疑問に思っていた胸の先端に指が這わされると、途端に思考が覚醒した。
「やめ、変なとこ触んなよ!」
「何で。男の乳首も立派な性感帯だろ」
「性感帯とか言うなよ馬鹿!」
思わず怒鳴ると、池田は一瞬だけきょとんと目を丸くさせた。
その目がすぐに、笑みの形に細められる。
獲物を見つけた肉食獣みたいに、ゆったり笑んで目の奥に歓喜の光を乗せる。
眼球が艶やかに煌めいているように見えるのは、池田の目が潤んでいるからか俺の視界がぼやけているからか、どっちなのかが分からない。
「知らねーの涼二? 乳首って舐められると結構気持ち好いんだぜ」
「知らないし知りたくもなッ?」
言い終わるよりも先に、ぺろりと舐められた。
快楽というよりはびっくりして身体が跳ねる。
「強烈な好さじゃないけど、地味に好いだろ?」
反応した俺に、池田がしてやったりの声で囁きかけてくる。
それに、うんそうだねなんて答えられるわけがない。
そうと分かっていてわざわざ訊ねてくる池田は、本当に性格が悪い。
「ん、やだ、やだって……」
先端を舌で捏ね回されると、勝手に息が上がる。
舌先で悪戯に突付かれると、勝手に声が上がる。
「やだじゃねえだろ。だいぶ身体あったまってきたのに」
「つ……ッ!」
かり、と歯を立てられた。
瞼の裏で星が弾けた。
うっかり出るかと思った。
馬鹿な、乳首舐められて射精して堪るか。
けど、池田に指摘されるまでもなく、身体が火照っていることには気付いていた。
耳を舐められて頭が、股間を食われて下半身が、指を撫でられて肩から先が。
胸を吸われて、上半身が。
端から順に一つずつ火を点けて回られたみたいに、身体中が熱い。
池田にはまだ残っているにっこり微笑むその余裕が、俺にはもうない。
「た、楽しいのかよ……こんな、」
俺は池田に触っていない。
肌を撫でたわけでも、舐めたわけでも吸い付いたわけでもない。
一方的に翻弄されて一人余裕がなくなっている。
嫌だと思う理性と快楽に喜ぶ本能が頭の中で喧嘩している。
第二次俺の中対戦勃発。
勝負のつかない喧嘩に、仲裁する第三の俺はまだ出てこない。
「楽しいよ」
途切れ途切れの問いかけに、池田はひっそり微笑混じりで答えてきた。
片方の乳首を弄ぶ右手の指はそのまま、乳飲み子ばりの貪欲さで吸い付いてきていた唇を離すとゆったりと笑みを深めて見せた。
唾液の糸が、オレンジの光に照らされて光る。
舌なめずりをしながら微笑む池田はやけに扇情的で、くらりと眩暈がした。
近付いてきた顔が、キスの位置で止まる。
「すげー楽しいよ、涼二。お前のこの顔が見たかった」
頬にキス。
それから目尻の水をまた拭われた。
「やめろって、言ってもやめてくんないの……? さっきは」
やめてくれたのに。
まあ、その後にもっと信じられないことされたけど。
不安な弱気を隠すことも出来ずに訊ねれば、池田が笑った。
「やめる? 冗談だろ。怯えて震えてんなら兎も角――」
池田の手が動いた。
太腿から伝って、ほったらかしにされていた股間に伸びた。
「ッ、」
びくんと身体が跳ねる動きに合わせて、また池田が耳を舐めてきた。
差し込まれる舌に、言葉が乗せられる。
「欲情して鳴いてる姿なんか見せられたって、煽られるだけだ」
「ッあ!」
握り込まれた。
絡む五指が先走りを浚って性急に動く。
愛撫というよりは追い上げるその動きに、目の前がちかちかした。
「やッ、やだ、やめ!」
咄嗟に逃げようと捩った身体に、池田が体重を合わせてくる。
「やめねーよ。諦めて、いけ」
「やだッ、いや……ぁ、はッ、」
腰が浮く。
快楽を高めるためというよりは、射精を促してくる手指の動きに、勝手に腰が揺れそうになる。
もっともっとと身体が喜んでいるこの裏切り者。
「や、いや、いやだ、やだッ」
「やだじゃなくて、好いって言え」
ぼろぼろこぼれる涙を、もう止められない。
容赦なく右手を動かしながら、池田はあちこちに唇を寄せてくる。
目尻に、こめかみに、耳に。
性急に吸い付いてきては音を立てて離れていく。
首筋に、うなじに、鎖骨に、胸に、脇腹に。
時折歯を立てて快楽を煽ってくる。
「や、いやだ、くろ……」
「……声だけでいけそうだな」
うっとりと囁く、僅かに上ずった声が、どこか遠くから聞こえてきたように感じた。
その直後
「あ……ッ、は……!」
身体が跳ねた。
喉が反った。
また食い付かれた。
ぱっくり覆ってきた柔らかな粘膜の感触に、思考が焼き切れる。
「や、ん、んぅッ、やめ、」
右手が竿と袋を揉んでくる。
舌が亀頭を舐めて鈴口を突付いてくる。
分散していた刺激が一点に集中して、身体が竦む。
逃げ場を求めて足が引きつる。
血が集まっているのが分かる。
上へ上へと追い上げられて、堪えきれない位置まで射精感が高まってくる。
「くろ、離……出る、あ」
「良いよ、出せよ」
「やだ、や、くち、はなして、」
「良いんだって」
いやだ。
いやだ。
いやだ。
いやだ。
「いけ」
「ッ、ぅあ……ッ!」
命じる声に思考が弾けた。
尾てい骨から頭のてっぺんに強烈な快感が駆け上がる。
腹が波打って、全身が引き攣る。
と同時に、身体が跳ね上がった。
「ごめ、ごめんッ!」
慌ててティッシュを探したが、近くには見当たらない。
ならばと咄嗟に手を差し出した。
「だだだだだだ出して早く! ほんとごめん!」
いけと言われたからといって、本当に出すやつがあるか。
しかも口の中。
長年連れ添った自分の分身の吐き出したものでも、口にしたいとは思わない。
泡食ってわあわあ喚く俺の目の前で、池田は唇に指を添えてもごもごしている。
と。
「あ」
ごっくん、と喉が上下した。
「なくなった」
さらりと告げられた池田の言葉に、血の気が引いた。
池田は、悪戯っ子の笑みでぱっかり口を開いて、更には舌まで出して見せてくる。
その隅々まで確認しようにも明かりが足りないし何より動く喉を目撃した後だ。
「の、飲……」
「ごち」
ぺろりとご機嫌に池田が舌なめずりしたのを目の前に、意識が途切れた。
*****
気がつくと、外が明るくなっていた。
薄膜の張った意識でそれをぼんやり眺め、それからゆるゆると身体を起こすと、がちりと右手が突っかかった。
何だと思って目を遣り硬直。
「……なにこれ」
こんなの、テレビでしか見たことない。
ぴかぴか光る銀の輪。
手錠。
手錠が、俺の右手とベッドを繋いでいる。
意味が分からなかった。
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