死ななければならない理由が彼女にはあった

小磯 愛

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【都会的】

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人をかき分けて、進む。
見たことのない人混みと広い構内に私は小さくなっていた。
ようやくの思いで出口を出ると、バスタ新宿が見えた。

そう、引っ越しもままならないままに初出勤だ。

店長は同じく大阪出身、バリバリ関西弁のノリのいいおじさんだ。
私は親近感を抱き、すぐになついた。
数週間して慣れてきたころ、同僚のスタッフが店長の愚痴を言っていた。
言い方がキツいし、大阪感丸出しでダサい。
え、そうなん?!
言い方全然キツくないと思ってるの私だけ?!
と、内なる声でつぶやいていたら、性格きつめの東京ステイタス女が、
「優子さんもなんか服装硬いよね。うちの店カジュアルだよ?」
と言ってきた。いや、言ってくれた。

がーん。
確かに、、。私は大阪では高級店で働いていたので、ブランドに身を包んだ奥様がたの接客をするために、新宿都会的美容師とは違い、品を重視にチョイスしていた。
ネイビーのブラウスに黒のパンツ、ジャケットをはおり、足元はエナメルパンプスや革のおじ靴というような、いわゆるきっちりした格好だ。
面白みや、カジュアルは一切ない。

そして困ったことに私はそのような服や靴しか持っていない。
とにかく貧乏な生活だったため、仕事着しか持っていないのだ。

スニーカーや、ジーンズ、流行りのトップスなどは全く持っていない。

しかし、今は新宿のこのサロンに馴染めなければ終わる。
そこで私はまず、関西弁の封印をかたく誓った。
さらにカジュアルを目指すため、ジャケットとパンプスの封印もしなければならない。そうなると、ジーンズとスニーカーはマストで用意せねば!

かと言って生活はギリギリ。

次の休みに貯金の底が見えるくらいまで、【都会的】を買った。

致し方ない。仕事着なのだから。

仕事は順調になり、同僚からも良くなったと褒めてもらえた。

このサロンはスタイリストしかいない。
なので、レッスンもないし、半強制の居残りもない。
朝は9時に来て、19時に帰るスタイルになった。

8時から23時までサロンにいた私にとっては余裕がある。ありすぎる。

毎日料理することができた。
テレビも毎日見た。
睡眠も充分にとれた。
東京で働けている上に、人間らしい生活を送れるようになった。

しかし、貯金がなくなりつつある今、経済的なことが不安で不安でたまらない。

そこで私は周りの紹介を経て、スナックでアルバイトすることになったのだ。

このアルバイトが私の人生を狂わせていく。



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