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プロローグ
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もう何年も目を開けていないと思える覚醒。登校しなければいけない朝にまだ目覚まし時計を確認していないような、優雅で爽やかな起床だった。
視界は濁っていてよく見えないが、ずいぶん明るい場所にいるのはわかった。上半身を起こすと尻に尖ったものが当たる。どうやら地面に直接横たわっていたらしい。
そこにはどんなものもなかった。いや、地面もあるし、岩だってある。岩の影に隠れるように小さな草だって生えている。ごつごつした学校のグラウンドのような、しかし、見渡す限り建物は存在しなかった。
日本にこれほど広く平たい土地があるだろうか。記憶にあるどんな場所でも山くらいは見えたはずだがここには本当に地面しかない。地平線に、薄く白い雲。ここは南アメリカかもしれない。
立ち上がる気力は起きず半ば夢見心地で状況を考えることにした。
そもそも何故こんな場所で寝ていたのか。昨日寝た場所はどこだったか。自宅は? いつも自分の部屋のベッドで寝ていた確信はあったがそのベッドがどのようなものだったかどうしても思い出せない。
混乱を自覚する。焦る手で闇雲にポケットを探すと革の財布が見つかった。写真のない学生証だった。そうだ、自分の顔もわからない。名前は、ナギサヤマト。古風な名前だと少しだけ笑えた。住所は東京都で私立高校に通っている2年生のようだ。まったく覚えがない。
しかし服装は校章がついた白いシャツとスラックスに黒いローファーで、学生だったのは間違いない。財布には他に小銭と折りたたまれた1枚の千円札が入っていた。
不安感からゆっくりと立ち上がり、財布に学生証を入れポケットに戻した。結局持ち物は財布だけらしい。
顔を上げた。もうずいぶんと息を吸っていなかった気がする。気温は高く乾燥していて、熱い風に湿度を奪われていく。
これが夢ならそのうち醒める。万が一現実なら、死んだら、死ぬのか? 死んで夢から醒めるのを期待できるほど自分は達観していない。
立ってみても地面が地平線まで続いているのが見える。小さい岩に登ってみると遠くに黒いものが見えたので、そちらに向けて歩きはじめることに決めた。
もう何時間経っただろうか。日は落ちた。黒いものはただの大きい岩だった。喉が乾いて、水はない。水がないと人は数日で死ぬのではなかったか? この暑くて乾燥した気候でも数日生きていられるのだろうか。
岩の下に生えている雑草を見つめて数十分逡巡したのち、引き抜いてみた。葉はパリパリと乾燥していたが小さい根には水分が感じられた。できるだけ土を落として数本まとめて吸ってみると苦い水が出てくる。喉の乾きが満たせるほどではなかったが、とにかく数を集めた。何かを考えていたくない。日陰のある岩に背をもたれて、根を吸っているとうとうとしてしまってそのまま寝てしまった。
寒さに目が覚めた。体の末端が冷たい。そして腹が痛い。
まずい、最悪だ。針で刺すような痛みと鈍い痛みが同時に襲ってくる。体は冷たいのに尻が熱い。立ち上がれない。
冷たい手で腹をさするとさらに気分が悪くなった。
きっと今排泄物が垂れ流しになっているだろう。まずい、まずい、駄目だ、怖い。頭が芯から冷えていく。人に見られてもいいから誰かに助けてほしい。いやだ。
耐え難い痛みは増していく。死んだほうがマシだと思う。死にたくない。犬が草を食べて胃の不純物を吐き出す話を思い出した。千円札を出して口に含む。
噛み切れない。飲み込めない。そうして、気を失った。
消えた意識の中で音を聴いた。
『あなたは死亡しました。スキル:気合により、HP1で蘇生します。』
視界は濁っていてよく見えないが、ずいぶん明るい場所にいるのはわかった。上半身を起こすと尻に尖ったものが当たる。どうやら地面に直接横たわっていたらしい。
そこにはどんなものもなかった。いや、地面もあるし、岩だってある。岩の影に隠れるように小さな草だって生えている。ごつごつした学校のグラウンドのような、しかし、見渡す限り建物は存在しなかった。
日本にこれほど広く平たい土地があるだろうか。記憶にあるどんな場所でも山くらいは見えたはずだがここには本当に地面しかない。地平線に、薄く白い雲。ここは南アメリカかもしれない。
立ち上がる気力は起きず半ば夢見心地で状況を考えることにした。
そもそも何故こんな場所で寝ていたのか。昨日寝た場所はどこだったか。自宅は? いつも自分の部屋のベッドで寝ていた確信はあったがそのベッドがどのようなものだったかどうしても思い出せない。
混乱を自覚する。焦る手で闇雲にポケットを探すと革の財布が見つかった。写真のない学生証だった。そうだ、自分の顔もわからない。名前は、ナギサヤマト。古風な名前だと少しだけ笑えた。住所は東京都で私立高校に通っている2年生のようだ。まったく覚えがない。
しかし服装は校章がついた白いシャツとスラックスに黒いローファーで、学生だったのは間違いない。財布には他に小銭と折りたたまれた1枚の千円札が入っていた。
不安感からゆっくりと立ち上がり、財布に学生証を入れポケットに戻した。結局持ち物は財布だけらしい。
顔を上げた。もうずいぶんと息を吸っていなかった気がする。気温は高く乾燥していて、熱い風に湿度を奪われていく。
これが夢ならそのうち醒める。万が一現実なら、死んだら、死ぬのか? 死んで夢から醒めるのを期待できるほど自分は達観していない。
立ってみても地面が地平線まで続いているのが見える。小さい岩に登ってみると遠くに黒いものが見えたので、そちらに向けて歩きはじめることに決めた。
もう何時間経っただろうか。日は落ちた。黒いものはただの大きい岩だった。喉が乾いて、水はない。水がないと人は数日で死ぬのではなかったか? この暑くて乾燥した気候でも数日生きていられるのだろうか。
岩の下に生えている雑草を見つめて数十分逡巡したのち、引き抜いてみた。葉はパリパリと乾燥していたが小さい根には水分が感じられた。できるだけ土を落として数本まとめて吸ってみると苦い水が出てくる。喉の乾きが満たせるほどではなかったが、とにかく数を集めた。何かを考えていたくない。日陰のある岩に背をもたれて、根を吸っているとうとうとしてしまってそのまま寝てしまった。
寒さに目が覚めた。体の末端が冷たい。そして腹が痛い。
まずい、最悪だ。針で刺すような痛みと鈍い痛みが同時に襲ってくる。体は冷たいのに尻が熱い。立ち上がれない。
冷たい手で腹をさするとさらに気分が悪くなった。
きっと今排泄物が垂れ流しになっているだろう。まずい、まずい、駄目だ、怖い。頭が芯から冷えていく。人に見られてもいいから誰かに助けてほしい。いやだ。
耐え難い痛みは増していく。死んだほうがマシだと思う。死にたくない。犬が草を食べて胃の不純物を吐き出す話を思い出した。千円札を出して口に含む。
噛み切れない。飲み込めない。そうして、気を失った。
消えた意識の中で音を聴いた。
『あなたは死亡しました。スキル:気合により、HP1で蘇生します。』
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