虚ろの告白

石田空

文字の大きさ
1 / 10

7月8日

しおりを挟む
これは私の回想で書いていますので、断片的におかしいところがあります。
思い出しながら書いてはいますが、記憶喪失だと証言されてから書いていますから、矛盾しているかもしれませんね。
私が気付けばこの部屋にいたのは7月8日でした。
部屋にあるパソコンにそう表示されていたので、パソコンが間違ってない限りはそうなのだと思います。
部屋は真っ白であり、ベッドもシーツもカーテンすらも真っ白でした。こんな殺風景なところでどうして眠っているのかが、私にはわかりませんでした。

「ようやく目が覚めたんだね……!」

私がベッドから身を起こした途端に涙ぐんでいたのは、精悍な顔つきの男性でした。
髪は清潔感漂うストレートのショートで、白いシャツにカーゴパンツと、シンプルな服装をしていても野暮ったく見えない人です。

「ここはどこですか、あなたは誰ですか」
「……記憶を失ってしまったんだね、可哀想に」
「あのう?」
「落ち着いて聞いてほしい。君は一週間起きなかったんだよ。でももう大丈夫。君は起きたのだからね。ちなみに僕は咲人。君の恋人さ」
「恋人……」

この部屋は殺風景で、花ひとつ生けられていません。これは単純に私が目が覚めないから、花を生けても無駄だと思ったのか、はたまた動転し過ぎて花を買う余裕がなかったのかがわかりません。
私は「そうなんですか」と言うと、「でも困ったね」と彼は返すのです。

「君は実は小説家であり、僕は君の編集だったんだ。まさか君が記憶喪失だなんて、言える訳にもいかないし、どうしようか」
「……私が小説家だったんですか?」

小説家と言われても、いまいちピンと来ませんでした。
咲人さんが続けます。

「そうだよ、君は有名なベストセラー作家だったんだ。君の作品を待ち望んでいる人も大勢いる。君の才能が記憶喪失なんて形で失われてしまうのは実に惜しいんだ。そこでどうだろうか?」
「どう、とは?」
「君が記憶喪失になったことを、日記として綴ってはくれないだろうか? もしかすると、そこから君の記憶が取り戻せるかもしれないし、君の腕も戻るかもしれない」

そう言われてもと思いましたし、物は試しでした。
でも不思議なことに、私が文字を書き連ねると勝手に文章になっていくのです。それが私の本来の才能だったと言われると納得できます。
でも私の日記なんかを読んで誰が面白がるんでしょうか。それにベストセラー作家だったと言われてもなにを書いていたのかを知りません。
私は私を取り戻すべきなのかも、今はわからないのです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

処理中です...