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二周目:君が本当に好きな人
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だんだん背中に制服が貼り付いて、ズシリと体重が重くなったような錯覚に陥る季節になってきた。
降り注いでくる日差しは燦々を通り越してジリジリジュウジュウと肌を焼いてくる。いつかは焼き肉の匂いでも漂いはじめるんじゃないかと気が気じゃなかった。
その中で、とうとう今日が終業式だった。
さすがにこれ以上なく暑い日に、運動場で終業式を行ったら、生徒だけでなく校長先生まで倒れてしまうからだろう。終業式は放送室から校長先生が挨拶をして終わった。
通知表を斜め読みしながら、私はダラダラと汗をかいていた。
人間関係がぐしゃぐしゃのまんま一学期を終わらせるつもりはなかったのに、本当にぐしゃぐしゃのまんま一学期は終了してしまったし、夏休みの間菜々子ちゃんが東京に出かけてしまうんだ。
これで大樹くんのことどうするんだよと、私はずっと頭を抱えている。
「どうした亜美? 成績そんなによくなかったのか?」
私が頭を抱えてうずくまっていたせいか、ホームルームが終わってさっさと帰る準備をしていた海斗くんに声をかけられる。
私はぬるい笑みを浮かべた。
「可もなく不可もなく。取り立てていい成績のものはなかったけれど、取り立てて悪い成績のものもなかった。私はいい子です」
「どんなギャグだよ、それは……」
「ああ、亜美ぃー、学校終わりお疲れ様ーっ!」
ガバッと菜々子ちゃんに抱き着かれ、ふたり揃って「暑いー」とすぐに離れる。女子同士のスキンシップも夏の前では敗北するしかない。暑い。
それに海斗くんはケラケラ笑った。
「お疲れ。菜々子はどうだった?」
「無事に赤点は回避しました。おかげで補修を受けることもなく、無事に東京に行くことが決まりました」
「おお?」
どうも菜々子ちゃんは、海斗くんにも東京に行って声優養成所の夏休みカリキュラム体験に出かけることを伝えてなかったようだ。
海斗くんが戸惑っている中、菜々子ちゃんはピースサインをしていた。
「私夏休みは東京行ってきまーす。垢ぬけてるかもよ?」
「夏休みだからって、あんまり羽目外し過ぎるなよ」
「海斗くんはお父さんですか。でもわかった」
そうこう言っている内に、ドアが開く音が聞こえた。さっさと荷物をまとめた大樹くんが、家に帰ろうとしていた。
「ああ、大樹! 大樹は夏休みの予定なにかある?」
「僕? 一応予備校通う予定だけど」
それに私はダラリ……と背中に冷たいものが這いずっていくのを覚えた。
ヤダ……このまま行ったら、なにも変わらなくなる。
大樹くんは「用がないなら行くよ」と言う中。
「まあ、待て、大樹」
海斗くんはどれだけ菜々子ちゃんが嫌がっていても、どれだけ大樹くんが孤立したがっていても、ふたりを諦めない。
私はそんな海斗くんに甘えてばっかりだ。ふたりの話を聞いてはおろおろしてばっかりの私は、海斗くんほど体を張れていない。
私がひとり後ろめたく思って俯いている中、海斗くんはバシバシ大樹くんの肩を叩いて言う。
「ならさ、予備校通う中でも休みの日もあるだろ。夏祭り行かない?」
それに私はドキリとした。
暑い中、焼きそばを食べたりかき氷を食べたり、金魚すくい、飴くじ、パチンコ……。
楽しいし、仲のいいグループで回れたらきっといい。なによりも、大樹くんがうちの学校が廃校になったあとでも連絡を取り合える中を維持できるかもしれない。
私は思わず「い、行きたい!」と声を上げる中、大樹くんは不思議そうな顔で海斗くんを見上げた。
「僕を誘うより亜美を誘ったほうがいいと思うけど」
「うん? そりゃ亜美だって誘うけど」
「僕をだしに使うのやめたほうがいいよ」
それだけ言って、大樹くんはさっさと行ってしまった。
私はそれに「うん?」となった。
菜々子ちゃんは目を半眼にしてぼやく。
「それ大樹くんが言う話なの?」
「……待って。今のよくわかんない。どういう意味だったの?」
「俺にもさっぱり」
海斗くんも大樹くんの言い出した意味がわかってないみたいで、本気で困っていた。
****
家に帰って、クーラーの効いた部屋で机に向かっていた。
クーラー最高、クーラー最強。これからも便利な文明の機器でいてください。
それはさておき、私は十年後について書き連ねたノートを読み返して、考えに耽っていた。
大樹くんと菜々子ちゃんの不和、菜々子ちゃんの早期の東京行き……今回はあくまで夏休み限定のカリキュラムのはずだけれど……、そして海斗くんに対する大樹くんの爆弾発言。
どれもこれも、私が知っている記憶と乖離してしまっている。
考えられるのはふたつ。
ひとつ。私が十年前にタイムリープしたせいで、バタフライエフェクト的になにかが起こって歴史が乖離していっている。
でも私はなるべく歴史に沿った形で未来を変えようとしているから、放置しておいたら私の知っている歴史から完全に別物になりそうなことはしてない。
特に菜々子ちゃんに対しては、あまりに介入が著しい。
もうひとつ。
「……私以外に未来の結末を変えようとして、とっくの昔に介入してない?」
これが一番ありえそうなんだ。
特に菜々子ちゃんの早期からの東京行きなんて、もっと早くに介入がはじまってないと、普通に手出しできない話だ。
そう考えると、私と同じく歴史を変えようとしているのは、私たちのグループの内の誰かになる。
……正直全員怪しいから、判断に困る。
「奈々子ちゃんが十年後、あまりにニッチな声優になってしまう未来を変えようとする気持ちはわかるし……大樹くんが死んでしまうみらいを変えようと海斗くんが関わるのもわかる。そして大樹くんが誰かの未来を変えよとするのもわかる……でも、これってどうしたら」
いきなり「あなたタイムループしてますか?」なんて言ったら、頭がおかしくなったと心配される。
でも知っている歴史からいきなり変わり過ぎたら、バタフライエフェクトでどう作用してくるかがわからないから怖い。
私は大樹くんの未来を変えようとするのと同時に、タイムループしている犯人を探すことで、頭を悩ませてしまうことになったんだ。
降り注いでくる日差しは燦々を通り越してジリジリジュウジュウと肌を焼いてくる。いつかは焼き肉の匂いでも漂いはじめるんじゃないかと気が気じゃなかった。
その中で、とうとう今日が終業式だった。
さすがにこれ以上なく暑い日に、運動場で終業式を行ったら、生徒だけでなく校長先生まで倒れてしまうからだろう。終業式は放送室から校長先生が挨拶をして終わった。
通知表を斜め読みしながら、私はダラダラと汗をかいていた。
人間関係がぐしゃぐしゃのまんま一学期を終わらせるつもりはなかったのに、本当にぐしゃぐしゃのまんま一学期は終了してしまったし、夏休みの間菜々子ちゃんが東京に出かけてしまうんだ。
これで大樹くんのことどうするんだよと、私はずっと頭を抱えている。
「どうした亜美? 成績そんなによくなかったのか?」
私が頭を抱えてうずくまっていたせいか、ホームルームが終わってさっさと帰る準備をしていた海斗くんに声をかけられる。
私はぬるい笑みを浮かべた。
「可もなく不可もなく。取り立てていい成績のものはなかったけれど、取り立てて悪い成績のものもなかった。私はいい子です」
「どんなギャグだよ、それは……」
「ああ、亜美ぃー、学校終わりお疲れ様ーっ!」
ガバッと菜々子ちゃんに抱き着かれ、ふたり揃って「暑いー」とすぐに離れる。女子同士のスキンシップも夏の前では敗北するしかない。暑い。
それに海斗くんはケラケラ笑った。
「お疲れ。菜々子はどうだった?」
「無事に赤点は回避しました。おかげで補修を受けることもなく、無事に東京に行くことが決まりました」
「おお?」
どうも菜々子ちゃんは、海斗くんにも東京に行って声優養成所の夏休みカリキュラム体験に出かけることを伝えてなかったようだ。
海斗くんが戸惑っている中、菜々子ちゃんはピースサインをしていた。
「私夏休みは東京行ってきまーす。垢ぬけてるかもよ?」
「夏休みだからって、あんまり羽目外し過ぎるなよ」
「海斗くんはお父さんですか。でもわかった」
そうこう言っている内に、ドアが開く音が聞こえた。さっさと荷物をまとめた大樹くんが、家に帰ろうとしていた。
「ああ、大樹! 大樹は夏休みの予定なにかある?」
「僕? 一応予備校通う予定だけど」
それに私はダラリ……と背中に冷たいものが這いずっていくのを覚えた。
ヤダ……このまま行ったら、なにも変わらなくなる。
大樹くんは「用がないなら行くよ」と言う中。
「まあ、待て、大樹」
海斗くんはどれだけ菜々子ちゃんが嫌がっていても、どれだけ大樹くんが孤立したがっていても、ふたりを諦めない。
私はそんな海斗くんに甘えてばっかりだ。ふたりの話を聞いてはおろおろしてばっかりの私は、海斗くんほど体を張れていない。
私がひとり後ろめたく思って俯いている中、海斗くんはバシバシ大樹くんの肩を叩いて言う。
「ならさ、予備校通う中でも休みの日もあるだろ。夏祭り行かない?」
それに私はドキリとした。
暑い中、焼きそばを食べたりかき氷を食べたり、金魚すくい、飴くじ、パチンコ……。
楽しいし、仲のいいグループで回れたらきっといい。なによりも、大樹くんがうちの学校が廃校になったあとでも連絡を取り合える中を維持できるかもしれない。
私は思わず「い、行きたい!」と声を上げる中、大樹くんは不思議そうな顔で海斗くんを見上げた。
「僕を誘うより亜美を誘ったほうがいいと思うけど」
「うん? そりゃ亜美だって誘うけど」
「僕をだしに使うのやめたほうがいいよ」
それだけ言って、大樹くんはさっさと行ってしまった。
私はそれに「うん?」となった。
菜々子ちゃんは目を半眼にしてぼやく。
「それ大樹くんが言う話なの?」
「……待って。今のよくわかんない。どういう意味だったの?」
「俺にもさっぱり」
海斗くんも大樹くんの言い出した意味がわかってないみたいで、本気で困っていた。
****
家に帰って、クーラーの効いた部屋で机に向かっていた。
クーラー最高、クーラー最強。これからも便利な文明の機器でいてください。
それはさておき、私は十年後について書き連ねたノートを読み返して、考えに耽っていた。
大樹くんと菜々子ちゃんの不和、菜々子ちゃんの早期の東京行き……今回はあくまで夏休み限定のカリキュラムのはずだけれど……、そして海斗くんに対する大樹くんの爆弾発言。
どれもこれも、私が知っている記憶と乖離してしまっている。
考えられるのはふたつ。
ひとつ。私が十年前にタイムリープしたせいで、バタフライエフェクト的になにかが起こって歴史が乖離していっている。
でも私はなるべく歴史に沿った形で未来を変えようとしているから、放置しておいたら私の知っている歴史から完全に別物になりそうなことはしてない。
特に菜々子ちゃんに対しては、あまりに介入が著しい。
もうひとつ。
「……私以外に未来の結末を変えようとして、とっくの昔に介入してない?」
これが一番ありえそうなんだ。
特に菜々子ちゃんの早期からの東京行きなんて、もっと早くに介入がはじまってないと、普通に手出しできない話だ。
そう考えると、私と同じく歴史を変えようとしているのは、私たちのグループの内の誰かになる。
……正直全員怪しいから、判断に困る。
「奈々子ちゃんが十年後、あまりにニッチな声優になってしまう未来を変えようとする気持ちはわかるし……大樹くんが死んでしまうみらいを変えようと海斗くんが関わるのもわかる。そして大樹くんが誰かの未来を変えよとするのもわかる……でも、これってどうしたら」
いきなり「あなたタイムループしてますか?」なんて言ったら、頭がおかしくなったと心配される。
でも知っている歴史からいきなり変わり過ぎたら、バタフライエフェクトでどう作用してくるかがわからないから怖い。
私は大樹くんの未来を変えようとするのと同時に、タイムループしている犯人を探すことで、頭を悩ませてしまうことになったんだ。
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