青のループ

石田空

文字の大きさ
51 / 55
三周目:ラストチャンス

しおりを挟む
 私たちは手紙の内容を読んで、押し黙ってしまった。
 ……おばあちゃんの介護が原因で、私は東京行きを諦めたけれど。東京に行くまでになにがあったんだろう。いや、わかる。前の時も二時間かけて学校に行くのはしんど過ぎて、学校に行くこと自体が目的になってしまって、なにもできてなかった。私はやり直す経験の中で医療系の専門学校に行くって発想が出てきたけれど。自殺したときに通っていた専門学校はどういったものだったのか、そもそも私に合っている場所だったのかすら、理解ができない。
 その中で、大樹くんはぼそりと言った。

「……僕たちがバラバラになったからこそ、この土地のおまじないにすがったんだよ。結果が、僕たちを縛り続けた」

 糸巻きに巻き付く糸のように、ぐるぐるぐるぐる。
 私たちは大人になれないし、大人になったとしても誰かが死んでやり直し。何度でだってやり直して、ずっと楽しい生活を送るって結論だってできるだろうけれど、それはきっといつかはどこかで凪いでしまう。
 私はずっと先送りにしていた大樹くんへの気持ちを思い出した。
 好きで、でもどこかですぐ諦めて、彼が誰か他の人を好きだとしても未練たらしく好きのまんまで、そしてそれでいて海斗くんと婚約してしまう、意気地のない私。
 それでいいなんて思えない。それがいいとも思えない。
 私は、未来に行きたい。

「さっさと糸巻様、焼こう」
「……燃やして大丈夫なのかな。これ。私たちをずっと固定させてしまうほどの力があったんでしょう? 呪われたりは……」
「わからない。ただ神社のお焚き上げを待っていたら、冬になる。そうなったら俺たちも受験勉強で、いよいよもってそれどころじゃなくなる」

 さすがに中卒だったらどうしようもない。
 高校のほうは、まだ朝練の生徒たちが登校してこない。今のうちに焼き払わないと。私たちは公園のコンクリートに固められた場所に来ると、焼き芋の要領で葉っぱを集めて糸巻きにふりかけ、その上からライターの火を投げた。最初はバチン。と音がしたと思ったらぐずついた匂いが放たれ、そのまま燃え尽きていく。それをずっと見守っていた。

「……これで、本当に解決するのかな」
「わからん。そもそも、俺たちはまだ菜々子に会ってないんだから。菜々子に会って、それでやり直せるのかどうか考えないとな」
「……うん」

 もしも本当にイチからやり直せるとき、私たちの未来はどうなるんだろうか。
 私はまた、大樹くんを好きでいられるんだろうか。
 私はまた、菜々子ちゃんや海斗くんと友達でいられるんだろうか。
 心を鬼にして、皆をただ静観するだけで、大きく未来を変えようとしなかった海斗くん。海斗くんからしてみれば、きっと訳がわからなかっただろう。頑張って頑張って生きても、何故か身内が必ずひとり死んでしまう。こんなの嫌だ、こんなの間違ってると思いながら、何度歯がゆい思いをしてきただろうか。
 何度も何度も、皆が死なない未来にしようと、世界に一石投じ続けた大樹くん。大樹くんはずっと私のことが好きだったと海斗くんは教えてくれたけれど。私には未だにそれの実感がない。それはあまりに大樹くんに失礼でも、大樹くんは私が泣かないようにと、私以外の友達のことも必死でなんとかしようと奔走したからなんだろう……結果的に彼が死んでしまったのは、玉突き事故のせいで、自分のことに気を配れなかったせいなんじゃないだろうか。
 そして私。私が一番身勝手だ。
 私はただ、大樹くんが死なない未来が欲しかった。菜々子ちゃんや海斗くんのことを思うと、なんて友達甲斐のない人間なんだって思うかもしれない。私だってそう思う。でも。
 皆が笑っていられる未来が欲しいのは、本当だよ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...