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三周目:ラストチャンス
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私たちは手紙の内容を読んで、押し黙ってしまった。
……おばあちゃんの介護が原因で、私は東京行きを諦めたけれど。東京に行くまでになにがあったんだろう。いや、わかる。前の時も二時間かけて学校に行くのはしんど過ぎて、学校に行くこと自体が目的になってしまって、なにもできてなかった。私はやり直す経験の中で医療系の専門学校に行くって発想が出てきたけれど。自殺したときに通っていた専門学校はどういったものだったのか、そもそも私に合っている場所だったのかすら、理解ができない。
その中で、大樹くんはぼそりと言った。
「……僕たちがバラバラになったからこそ、この土地のおまじないにすがったんだよ。結果が、僕たちを縛り続けた」
糸巻きに巻き付く糸のように、ぐるぐるぐるぐる。
私たちは大人になれないし、大人になったとしても誰かが死んでやり直し。何度でだってやり直して、ずっと楽しい生活を送るって結論だってできるだろうけれど、それはきっといつかはどこかで凪いでしまう。
私はずっと先送りにしていた大樹くんへの気持ちを思い出した。
好きで、でもどこかですぐ諦めて、彼が誰か他の人を好きだとしても未練たらしく好きのまんまで、そしてそれでいて海斗くんと婚約してしまう、意気地のない私。
それでいいなんて思えない。それがいいとも思えない。
私は、未来に行きたい。
「さっさと糸巻様、焼こう」
「……燃やして大丈夫なのかな。これ。私たちをずっと固定させてしまうほどの力があったんでしょう? 呪われたりは……」
「わからない。ただ神社のお焚き上げを待っていたら、冬になる。そうなったら俺たちも受験勉強で、いよいよもってそれどころじゃなくなる」
さすがに中卒だったらどうしようもない。
高校のほうは、まだ朝練の生徒たちが登校してこない。今のうちに焼き払わないと。私たちは公園のコンクリートに固められた場所に来ると、焼き芋の要領で葉っぱを集めて糸巻きにふりかけ、その上からライターの火を投げた。最初はバチン。と音がしたと思ったらぐずついた匂いが放たれ、そのまま燃え尽きていく。それをずっと見守っていた。
「……これで、本当に解決するのかな」
「わからん。そもそも、俺たちはまだ菜々子に会ってないんだから。菜々子に会って、それでやり直せるのかどうか考えないとな」
「……うん」
もしも本当にイチからやり直せるとき、私たちの未来はどうなるんだろうか。
私はまた、大樹くんを好きでいられるんだろうか。
私はまた、菜々子ちゃんや海斗くんと友達でいられるんだろうか。
心を鬼にして、皆をただ静観するだけで、大きく未来を変えようとしなかった海斗くん。海斗くんからしてみれば、きっと訳がわからなかっただろう。頑張って頑張って生きても、何故か身内が必ずひとり死んでしまう。こんなの嫌だ、こんなの間違ってると思いながら、何度歯がゆい思いをしてきただろうか。
何度も何度も、皆が死なない未来にしようと、世界に一石投じ続けた大樹くん。大樹くんはずっと私のことが好きだったと海斗くんは教えてくれたけれど。私には未だにそれの実感がない。それはあまりに大樹くんに失礼でも、大樹くんは私が泣かないようにと、私以外の友達のことも必死でなんとかしようと奔走したからなんだろう……結果的に彼が死んでしまったのは、玉突き事故のせいで、自分のことに気を配れなかったせいなんじゃないだろうか。
そして私。私が一番身勝手だ。
私はただ、大樹くんが死なない未来が欲しかった。菜々子ちゃんや海斗くんのことを思うと、なんて友達甲斐のない人間なんだって思うかもしれない。私だってそう思う。でも。
皆が笑っていられる未来が欲しいのは、本当だよ。
……おばあちゃんの介護が原因で、私は東京行きを諦めたけれど。東京に行くまでになにがあったんだろう。いや、わかる。前の時も二時間かけて学校に行くのはしんど過ぎて、学校に行くこと自体が目的になってしまって、なにもできてなかった。私はやり直す経験の中で医療系の専門学校に行くって発想が出てきたけれど。自殺したときに通っていた専門学校はどういったものだったのか、そもそも私に合っている場所だったのかすら、理解ができない。
その中で、大樹くんはぼそりと言った。
「……僕たちがバラバラになったからこそ、この土地のおまじないにすがったんだよ。結果が、僕たちを縛り続けた」
糸巻きに巻き付く糸のように、ぐるぐるぐるぐる。
私たちは大人になれないし、大人になったとしても誰かが死んでやり直し。何度でだってやり直して、ずっと楽しい生活を送るって結論だってできるだろうけれど、それはきっといつかはどこかで凪いでしまう。
私はずっと先送りにしていた大樹くんへの気持ちを思い出した。
好きで、でもどこかですぐ諦めて、彼が誰か他の人を好きだとしても未練たらしく好きのまんまで、そしてそれでいて海斗くんと婚約してしまう、意気地のない私。
それでいいなんて思えない。それがいいとも思えない。
私は、未来に行きたい。
「さっさと糸巻様、焼こう」
「……燃やして大丈夫なのかな。これ。私たちをずっと固定させてしまうほどの力があったんでしょう? 呪われたりは……」
「わからない。ただ神社のお焚き上げを待っていたら、冬になる。そうなったら俺たちも受験勉強で、いよいよもってそれどころじゃなくなる」
さすがに中卒だったらどうしようもない。
高校のほうは、まだ朝練の生徒たちが登校してこない。今のうちに焼き払わないと。私たちは公園のコンクリートに固められた場所に来ると、焼き芋の要領で葉っぱを集めて糸巻きにふりかけ、その上からライターの火を投げた。最初はバチン。と音がしたと思ったらぐずついた匂いが放たれ、そのまま燃え尽きていく。それをずっと見守っていた。
「……これで、本当に解決するのかな」
「わからん。そもそも、俺たちはまだ菜々子に会ってないんだから。菜々子に会って、それでやり直せるのかどうか考えないとな」
「……うん」
もしも本当にイチからやり直せるとき、私たちの未来はどうなるんだろうか。
私はまた、大樹くんを好きでいられるんだろうか。
私はまた、菜々子ちゃんや海斗くんと友達でいられるんだろうか。
心を鬼にして、皆をただ静観するだけで、大きく未来を変えようとしなかった海斗くん。海斗くんからしてみれば、きっと訳がわからなかっただろう。頑張って頑張って生きても、何故か身内が必ずひとり死んでしまう。こんなの嫌だ、こんなの間違ってると思いながら、何度歯がゆい思いをしてきただろうか。
何度も何度も、皆が死なない未来にしようと、世界に一石投じ続けた大樹くん。大樹くんはずっと私のことが好きだったと海斗くんは教えてくれたけれど。私には未だにそれの実感がない。それはあまりに大樹くんに失礼でも、大樹くんは私が泣かないようにと、私以外の友達のことも必死でなんとかしようと奔走したからなんだろう……結果的に彼が死んでしまったのは、玉突き事故のせいで、自分のことに気を配れなかったせいなんじゃないだろうか。
そして私。私が一番身勝手だ。
私はただ、大樹くんが死なない未来が欲しかった。菜々子ちゃんや海斗くんのことを思うと、なんて友達甲斐のない人間なんだって思うかもしれない。私だってそう思う。でも。
皆が笑っていられる未来が欲しいのは、本当だよ。
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