青のループ

石田空

文字の大きさ
54 / 55
三周目:ラストチャンス

10

しおりを挟む
 受験勉強の最中に小説を書きつつ、取材を受ける。その中で、地元に出版社の取材もポツポツ入ってくるようになった。
 なんとはなしに一緒に集まって勉強するようになった海斗くんは、そんな外から来た人たちの反応を不思議そうに眺めていた。

「最近、外から来る人多いんだよな。うちの地元、正直なんにもないのにな」
「そう? ここ、近所の市と比べても物価安いと思うし、生活する上ではかなり暮らしやすいと思うけど」
「まあ、観光じゃなくって住むんだったら、暮らしやすいとは思うけどなあ」

 大樹くんは大樹くんで、「亜美、なんかやった?」と尋ねる。それに私は少しだけギクリとした。
 性別は変えたし、何度も何度も繰り返しやり直しているという設定以外は、そこまで私たちがモデルだとは想像しにくいとは思う。でもモデルにしたことを知られたら、怒られそうだなあと思って身を竦めたのだ。
 私の変な行動を怪訝な顔で見つつ、「なんとかなるといいな」とだけ言った。
 私はそれに「うん」とだけ答えた。

****

 海斗くんは何度も何度も「大樹が好きなのは亜美」と言われていたけれど、私たちは互いに一緒に過ごした記憶があると知っていてもなお、なんにも変化がなかった。
 私がなにかしたほうがいいんじゃないか。そうは思ったものの、ふたり揃って友達同士のまんま、特になんにも起こらなかった。
 なにかしたほうがいいのかな。そうわかっていても、まだ未来が確定してない中で下手にちょっかいをかけて傷付くのが怖くて、それで手をこまねいている。
 また廃校になってしまった場合、私たちは離れ離れになってしまうから、行動をして後悔をつぶしたほうがいいとはわかっているけれど、それでも行動ができないのは、なにをしても勝手に喜んで、勝手に傷ついている私は、大樹くんに踏み込んでいったらどうなってしまうのか想像ができなくって、結局はその場で足踏みしているままだった。
 私と大樹くんが図書館で勉強している帰り、「あの……困ります」と路地で声を上げている女子の声を聞いた。
 隣の中学の制服を着た菜々子ちゃんが、男子に掴まれていた……どうも菜々子ちゃんが親切にした男子が、またしても彼女は自分のことが好きと勘違いして暴走したらしい。彼女の男嫌いがまた上がってしまう。
 私は慌てて走っていった。

「す、みません! 友達なんですけど、なにかありましたか!?」
「はい?」

 菜々子ちゃんは困った顔をして私を見ていた。まだこの頃は、私たちは知り合ってないから当然だ。
 私が慌てて走っていったのに、大樹くんはゼイゼイと息を切らしながら追いかけてきた。

「ちょっと亜美……全力出し過ぎ……すみません、なにかありましたか?」

 男子は男子とむやみに喧嘩をしたがらない。よっぽどガラの悪い男子だったらともかく、菜々子ちゃんのことを好きになるような男子は、大概は本来はおとなしめの男子だ。そのまんま「い、いえ……」と言って逃げ出してしまった。
 私は「ほう……」と息を吐きながら、彼女に振り返った。

「大丈夫だった?」
「あ、ありがとう……いつも誰も助けてくれなかったから……」
「そんなことないよ。それじゃあね」
「あの、名前聞いてもいい? 私は……剣谷菜々子」

 菜々子ちゃんの言葉に私は目を見開きながらも、口を開いた。

「泉亜美。あっちは神垣大樹くん。それじゃあね」

 未来で、高校で会おう。
 それは口に出すことはなかった。
 私と大樹くんは菜々子ちゃんに会釈をしてから図書館を離れると、大樹くんは少しだけクスクスと笑っていた。

「亜美は相変わらずだね。いざというとき、一番無鉄砲な行動を取る」
「い、いやあ……そんなつもりはなかったんだけれど。菜々子ちゃんにこれ以上男嫌いになってほしくなかったし、人を幻滅してほしくなかったから。本当にささやか過ぎるけれど、未来を変えたかったの」
「うん。海斗みたいに最初から何故か記憶があるのに全部見ているだけってのが普通だと思うから。亜美みたいにささやかな抵抗を重ねることなんて、いくら何度も何度もやり直してるからってそうそうできるもんじゃないよ」
「それは褒め過ぎだよ」
「そう?」

 ふたりで歩いていく。もうちょっとしたら、道が分かれてそこでそれぞれ帰路につく。その中で大樹くんは伝える。

「知っているからと言って、もっと悪くなるかもしれないって思ったら躊躇するものだから。僕も思っているように未来を変えられているとは思わないから」
「……うん」
「僕はそういうところが、いいなあと思うよ」

 その言葉に、私はキュンと来た。
 相変わらず大樹くんはなんにも言ってくれない。未来が変わっても言ってくれるかはわからない。私が彼の一挙一動に振り回されていると抗議しても、きっと彼は笑うだけだろう。
 その抗議を込めて、私は口にしてみた。

「そんな私をいいって言ってくれるのは大樹くんだけだと思うよ?」
「そう? 多分海斗も菜々子も、そういう亜美だからいいと思ってると思うけど」
「うん。そうかもしれないけれど。私にとっては、大樹くんの言葉が一番特別だから」

 一瞬だけ大樹くんの目が丸くなったのを確認したけれど、私はこれ以上口を開かなかった。
 私と同じように、一挙一動で引きずられてくれたらいいのに。そう意地の悪いことを考えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...