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臨時時刻表に切り替わることがあるため、あらかじめご了承ください─大事なものの拾い方─
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俺は急いで家に戻ると、素早くシャツとデニムの出で立ちで戻り、みなほと一緒に自転車を押して歩きはじめた。
「自転車に乗らなくっていいの?」
「乗ってもいいけど、みなほを見失いそうだから」
「そんなに行きづらい場所だったの……」
そうみなほは考え込んでしまったのが心苦しい。
こいつの場合、俺と違って変えてしまいたいなかったことにしてしまいたい過去なんてないから、どう考えてもパラレルラインに入ることはできない。前にも一度行こうとしても辿り着けなかったのが、いい証拠だろう。
だからこそ、自転車を押しながらパラレルラインに向かったところで、多分行けないだろうなと思い至る。
俺が切符を持って、もしも父さんと母さんの死なない世界に辿り着けた場合、みなほは俺のことを忘れるんだろうなあ。
そうぼんやりと考える。
誰も繋ぎ止める人がいない場合、パラレルラインに引き寄せられることがない。これもまた、晴さんが言っていたことだけれど。その通りなのかもしれないと、俺は思いながら自転車を押していく。
だんだん、すっかりと見慣れてしまった派手な色彩の駅前が近付いてきた。
「ほら、あそこ」
「あそこって……壁、よねえ?」
みなほに言われて、俺は目を細めてみる。
俺が近付いている場所は、たしかに壁に見えるんだ。電車の走る路線を持ち上げる太い柱が連なっている壁。でももう一度目を見開くと、その壁がどこかに消えて、いつも通りのパラレルラインの駅前が見える。
「多分、みなほは行けないかも」
「行けないってどういうこと……」
「俺には見えてるから」
「ちょっと、トク。どういう意味!? トク!?」
だんだんみなほの声が甲高く大きくなるけれど、俺は無視して歩いて行った。
いつも通り自転車を端に寄せ、人気のない駅前を見渡した。
振り返ったらみなほの姿は、どこにも見えなくなっていた。
どれだけ心配かけても、あいつと俺には一本の線が引かれて、みなほはそこから先に進めない。俺は進めてしまうのに。羨ましいとも憎たらしいとも思う。そういうのは、本当に優しいみなほに向けていい感情じゃないはずなのに。
「おはようございまーす」
晴さんに挨拶をしても、珍しく人がいない。駅長室にも、晴さんがいない。
「あ、あれ……? 今日って、休みではなかった……ですよね?」
たしかに今日はバイトの時間より早く辿り着いてしまったけれど、三十分だから、少しの誤差だ。仕方がなく、俺はひとりで売店に入って、エプロンを着て商品の整理をする。相変わらずここの商品は、俺が発注も品出しもしていないのに、勝手に増えているし勝手に減っている。どういう理屈なのかは、俺にもよくわからない。
ひとりで悶々としながら店内の掃除をしているとき。
カーテンのはためく音を耳にした。
「えっ……カーテンって……ここ、駅なのにカーテンなんてあったかな」
シャランシャランと風に混ざるのは、カーテンレーンの音。俺は耳をそばだてて、その音の方向へと向かっていった。普段はあんまり行かない駅の裏側。せいぜいゴミ捨てのときにしか行かないその裏側を歩いていた。
この辺りは、駅長室の裏側に当たる。カーテンの音は、この辺りからした。
「ええっと……」
そこで嗅いだ覚えのあるにおいがすることに気付いた。薬品。アルコール。いろいろ混ざり合っているのに無機質なにおい。
真っ白なレースで縁取られたカーテンは、パラレルラインの近未来的なたたずまいにそぐわないような、生活感の漂う雰囲気だった。そしてその奥。
「……ベッド?」
髪の長い真っ白なパジャマを着た女の人が、ベッドで眠っていたのだ。
俺はびっくりして、駅長室に入った。未だに晴さんの姿が見えない。俺は「失礼します」とだけ駅長室に挨拶をしてから、駅長室の奥の暗い廊下を突き進んでいった。
やっぱり。前に晴さんがいた部屋だ。その部屋のドアノブを回してみる。そこの鍵は、開いていた。
キィ。本当に近未来的な駅にそぐわないような、昔ながらの音を立てて、ドアは開いた。
そこには、先程見かけた女性が眠っていた。よくよく見たらベッドの周りには写真立てやら、花やら、果物やらが並んでいる。そしてベッドの奥にはソファーが並んでいた。そのソファーの脇には制服がかけられていて、更に奥には簡易的なシャワーにキッチンが並んでいる。
病院の一室。入院室と患者の家族用控え室が一緒くたになったような、不可思議な空間が佇んでいて、この光景に目眩を覚えたところで。
「見てしまいましたか」
ビクンと肩を跳ねさせる。振り返ると、いつもかっちりと駅長服を着込んでいる晴さんが、本当にラフなシャツとスラックスという出で立ちで、花束を持って立っていた。まるでこれからデートにでも行くような気軽な格好をする晴さんと、今ベッドで眠っている女性が噛み合わずに、俺は上手いことしゃべることができなかった。
ただ、大きく頭を下げる。
「すんませんでしたっ…………!!」
「……謝るところ、ありましたっけ?」
「ひ、人の立ち入るべき場所じゃない場所に、入り込みましたから……」
「いいえ。えりな」
晴さんは、ひどく優しい声色を上げた。
えりなと呼ばれた女性は、睫毛を揺らすことも、返事をすることもなく、ただ眠っていた。
「彼女は?」
「僕の恋人です。お客さんは久し振りだったね? 挨拶は僕が済ませておくから」
えりなさんは、本当に大切にしているんだろうことは、見ていてもわかった。
眠っている人のいるベッドのシーツを替えるのは大変なはずなのに、えりなさんのベッドには汚れがなく、皺ひとつない真っ白なシーツだ。毎日替えているに違いない。それにえりなさんも。眠ったままにしては、彼女の肌はひどく綺麗だ。毎日拭かなかったら、綺麗なままの訳がない。
でも、男ふたりをテリトリーに入れていても、彼女は全く起きる気配がなかった。
「あの……えりなさんは、どうして起きないんでしょうか……?」
「事故ですね。パラレルラインで本当にごく稀に起こる事故なんだそうです」
「え? パラレルラインの事故……?」
話が読めずに、俺は目をパチリとさせると、晴さんは笑みを浮かべながら答えた。
「僕はえりなの自殺を止めるために、パラレルラインに乗りました。その際に、パラレルライン側でも予測していなかった事故に遭ったんです。だから僕はここで駅長をしていますし、彼女をここで回復するまで寝かせることができるんですが」
「え……晴さんがパラレルラインに……」
「はい。僕はパラレルラインに乗って、並行世界からやってきた人間なんですよ」
そう言って、いつもよりもラフな格好で、いつものように駅長らしいポーズでお辞儀をした。
「聞きますか?」
「ええっと……」
俺が言葉に詰まっている間に「すみませーん!」と声が響いた。
今日はいつもよりも早く、乗客がやってきたらしい。
「はい、少々お待ちください。すみませんね、フクくん。お客様の接客お願いできますか?」
「俺ができることなんて、売店員ができることくらいですよ?」
「それでかまいません、すぐに着替えますから」
そう言って晴さんはシャツに手をかけた。
なんだか見ていられなくて、俺は晴さんに背を向けて急いで売店へと向かっていった。
アルコールのにおい、薬のにおい、その無愛想極まりないにおいの中に、ふわりと花の匂いがした。えりなさんへの花の匂いが、今は心苦しかった。
****
その日のお客さんは、相変わらず駅長室でコーヒーを飲みながら、しくしくしくと泣いていた。大事な家族と死に別れてしまい、もう一度会いたいという願いだった。
「大切にされていたんですね」
「はい……今は大学で研究が進んでいるそうなんですけど、それでも間に合わなかったみたいなんです。チャッピー」
家族の犬に会いたいという願いは、普段だったら「行ってらっしゃい」と素直に送り出せるというものなのに、晴さんの話を聞いたあとだと、いまいちそう簡単に送り出すことができなかった。
晴さんがえりなさんを助けようとして起こった事故って、なんなんだろう……。そのせいでえりなさんは今も眠り続けていると言うし。
俺がひとり悶々としている中でも、晴さんはいつも通りにお客さんに接している。
「行くことができるのは、一度だけです。切符は片道切符ですから、並行世界に行って、なんか違うと思ってもやり直しは利きません。それでも向かいますか?」
「……向かいます。やっぱり、納得ができないんです。寿命でもないのに死ぬなんて。もっと早くに正しい治療が受けられたら……助けられたのに」
彼女の願いは強固なのだろう。
並行世界に移動してしまったら、自分自身のことは忘れられてしまう。辻褄合わせとして、いなかったことにされてしまうというのに、それでも願いを追ってこの世界からいなくなろうとしている。
俺が今の世界に未練たらたら過ぎて結論を下せないままだというのに、そういうところだけは羨ましいと思った。
晴さんも彼女の強固な意志は覆せないと思ったのか「わかりました」と静かに行った。
「それでは、ホームにご案内します。どうぞ」
「ありがとうございます!」
駅に切符を入れて入った彼女は、晴さんのアナウンスと同時にやってきたパラレルラインの電車に乗り込んでいった。
風がブォォォォォォと巻き起こり、エプロンが風でめくれる。晴さんの礼儀正しい礼をしばらく眺めていたら、靡いたエプロンが定位置に直った。
「さて、先程の話ですが、本当に聞きますか?」
「うーんと、俺が聞いても大丈夫なのなら。あんまり恋愛の話は得意じゃないんですけど」
「そんな、さすがに大学生に話せる程度に抑えますよ」
「それでお願いします。あと。パラレルラインの事故ってなんですか? そうイレギュラーの話って、頻発するもんなんでしょうか……?」
そう尋ねると、晴さんはふっと笑いながら、俺を手招いて駅長室まで案内してくれた。
いつもの調子でコーヒーメーカーでコーヒーを淹れながら口を開く。
「イレギュラーなことは、そう何度も起こらないからイレギュラーなんですよ」
「自転車に乗らなくっていいの?」
「乗ってもいいけど、みなほを見失いそうだから」
「そんなに行きづらい場所だったの……」
そうみなほは考え込んでしまったのが心苦しい。
こいつの場合、俺と違って変えてしまいたいなかったことにしてしまいたい過去なんてないから、どう考えてもパラレルラインに入ることはできない。前にも一度行こうとしても辿り着けなかったのが、いい証拠だろう。
だからこそ、自転車を押しながらパラレルラインに向かったところで、多分行けないだろうなと思い至る。
俺が切符を持って、もしも父さんと母さんの死なない世界に辿り着けた場合、みなほは俺のことを忘れるんだろうなあ。
そうぼんやりと考える。
誰も繋ぎ止める人がいない場合、パラレルラインに引き寄せられることがない。これもまた、晴さんが言っていたことだけれど。その通りなのかもしれないと、俺は思いながら自転車を押していく。
だんだん、すっかりと見慣れてしまった派手な色彩の駅前が近付いてきた。
「ほら、あそこ」
「あそこって……壁、よねえ?」
みなほに言われて、俺は目を細めてみる。
俺が近付いている場所は、たしかに壁に見えるんだ。電車の走る路線を持ち上げる太い柱が連なっている壁。でももう一度目を見開くと、その壁がどこかに消えて、いつも通りのパラレルラインの駅前が見える。
「多分、みなほは行けないかも」
「行けないってどういうこと……」
「俺には見えてるから」
「ちょっと、トク。どういう意味!? トク!?」
だんだんみなほの声が甲高く大きくなるけれど、俺は無視して歩いて行った。
いつも通り自転車を端に寄せ、人気のない駅前を見渡した。
振り返ったらみなほの姿は、どこにも見えなくなっていた。
どれだけ心配かけても、あいつと俺には一本の線が引かれて、みなほはそこから先に進めない。俺は進めてしまうのに。羨ましいとも憎たらしいとも思う。そういうのは、本当に優しいみなほに向けていい感情じゃないはずなのに。
「おはようございまーす」
晴さんに挨拶をしても、珍しく人がいない。駅長室にも、晴さんがいない。
「あ、あれ……? 今日って、休みではなかった……ですよね?」
たしかに今日はバイトの時間より早く辿り着いてしまったけれど、三十分だから、少しの誤差だ。仕方がなく、俺はひとりで売店に入って、エプロンを着て商品の整理をする。相変わらずここの商品は、俺が発注も品出しもしていないのに、勝手に増えているし勝手に減っている。どういう理屈なのかは、俺にもよくわからない。
ひとりで悶々としながら店内の掃除をしているとき。
カーテンのはためく音を耳にした。
「えっ……カーテンって……ここ、駅なのにカーテンなんてあったかな」
シャランシャランと風に混ざるのは、カーテンレーンの音。俺は耳をそばだてて、その音の方向へと向かっていった。普段はあんまり行かない駅の裏側。せいぜいゴミ捨てのときにしか行かないその裏側を歩いていた。
この辺りは、駅長室の裏側に当たる。カーテンの音は、この辺りからした。
「ええっと……」
そこで嗅いだ覚えのあるにおいがすることに気付いた。薬品。アルコール。いろいろ混ざり合っているのに無機質なにおい。
真っ白なレースで縁取られたカーテンは、パラレルラインの近未来的なたたずまいにそぐわないような、生活感の漂う雰囲気だった。そしてその奥。
「……ベッド?」
髪の長い真っ白なパジャマを着た女の人が、ベッドで眠っていたのだ。
俺はびっくりして、駅長室に入った。未だに晴さんの姿が見えない。俺は「失礼します」とだけ駅長室に挨拶をしてから、駅長室の奥の暗い廊下を突き進んでいった。
やっぱり。前に晴さんがいた部屋だ。その部屋のドアノブを回してみる。そこの鍵は、開いていた。
キィ。本当に近未来的な駅にそぐわないような、昔ながらの音を立てて、ドアは開いた。
そこには、先程見かけた女性が眠っていた。よくよく見たらベッドの周りには写真立てやら、花やら、果物やらが並んでいる。そしてベッドの奥にはソファーが並んでいた。そのソファーの脇には制服がかけられていて、更に奥には簡易的なシャワーにキッチンが並んでいる。
病院の一室。入院室と患者の家族用控え室が一緒くたになったような、不可思議な空間が佇んでいて、この光景に目眩を覚えたところで。
「見てしまいましたか」
ビクンと肩を跳ねさせる。振り返ると、いつもかっちりと駅長服を着込んでいる晴さんが、本当にラフなシャツとスラックスという出で立ちで、花束を持って立っていた。まるでこれからデートにでも行くような気軽な格好をする晴さんと、今ベッドで眠っている女性が噛み合わずに、俺は上手いことしゃべることができなかった。
ただ、大きく頭を下げる。
「すんませんでしたっ…………!!」
「……謝るところ、ありましたっけ?」
「ひ、人の立ち入るべき場所じゃない場所に、入り込みましたから……」
「いいえ。えりな」
晴さんは、ひどく優しい声色を上げた。
えりなと呼ばれた女性は、睫毛を揺らすことも、返事をすることもなく、ただ眠っていた。
「彼女は?」
「僕の恋人です。お客さんは久し振りだったね? 挨拶は僕が済ませておくから」
えりなさんは、本当に大切にしているんだろうことは、見ていてもわかった。
眠っている人のいるベッドのシーツを替えるのは大変なはずなのに、えりなさんのベッドには汚れがなく、皺ひとつない真っ白なシーツだ。毎日替えているに違いない。それにえりなさんも。眠ったままにしては、彼女の肌はひどく綺麗だ。毎日拭かなかったら、綺麗なままの訳がない。
でも、男ふたりをテリトリーに入れていても、彼女は全く起きる気配がなかった。
「あの……えりなさんは、どうして起きないんでしょうか……?」
「事故ですね。パラレルラインで本当にごく稀に起こる事故なんだそうです」
「え? パラレルラインの事故……?」
話が読めずに、俺は目をパチリとさせると、晴さんは笑みを浮かべながら答えた。
「僕はえりなの自殺を止めるために、パラレルラインに乗りました。その際に、パラレルライン側でも予測していなかった事故に遭ったんです。だから僕はここで駅長をしていますし、彼女をここで回復するまで寝かせることができるんですが」
「え……晴さんがパラレルラインに……」
「はい。僕はパラレルラインに乗って、並行世界からやってきた人間なんですよ」
そう言って、いつもよりもラフな格好で、いつものように駅長らしいポーズでお辞儀をした。
「聞きますか?」
「ええっと……」
俺が言葉に詰まっている間に「すみませーん!」と声が響いた。
今日はいつもよりも早く、乗客がやってきたらしい。
「はい、少々お待ちください。すみませんね、フクくん。お客様の接客お願いできますか?」
「俺ができることなんて、売店員ができることくらいですよ?」
「それでかまいません、すぐに着替えますから」
そう言って晴さんはシャツに手をかけた。
なんだか見ていられなくて、俺は晴さんに背を向けて急いで売店へと向かっていった。
アルコールのにおい、薬のにおい、その無愛想極まりないにおいの中に、ふわりと花の匂いがした。えりなさんへの花の匂いが、今は心苦しかった。
****
その日のお客さんは、相変わらず駅長室でコーヒーを飲みながら、しくしくしくと泣いていた。大事な家族と死に別れてしまい、もう一度会いたいという願いだった。
「大切にされていたんですね」
「はい……今は大学で研究が進んでいるそうなんですけど、それでも間に合わなかったみたいなんです。チャッピー」
家族の犬に会いたいという願いは、普段だったら「行ってらっしゃい」と素直に送り出せるというものなのに、晴さんの話を聞いたあとだと、いまいちそう簡単に送り出すことができなかった。
晴さんがえりなさんを助けようとして起こった事故って、なんなんだろう……。そのせいでえりなさんは今も眠り続けていると言うし。
俺がひとり悶々としている中でも、晴さんはいつも通りにお客さんに接している。
「行くことができるのは、一度だけです。切符は片道切符ですから、並行世界に行って、なんか違うと思ってもやり直しは利きません。それでも向かいますか?」
「……向かいます。やっぱり、納得ができないんです。寿命でもないのに死ぬなんて。もっと早くに正しい治療が受けられたら……助けられたのに」
彼女の願いは強固なのだろう。
並行世界に移動してしまったら、自分自身のことは忘れられてしまう。辻褄合わせとして、いなかったことにされてしまうというのに、それでも願いを追ってこの世界からいなくなろうとしている。
俺が今の世界に未練たらたら過ぎて結論を下せないままだというのに、そういうところだけは羨ましいと思った。
晴さんも彼女の強固な意志は覆せないと思ったのか「わかりました」と静かに行った。
「それでは、ホームにご案内します。どうぞ」
「ありがとうございます!」
駅に切符を入れて入った彼女は、晴さんのアナウンスと同時にやってきたパラレルラインの電車に乗り込んでいった。
風がブォォォォォォと巻き起こり、エプロンが風でめくれる。晴さんの礼儀正しい礼をしばらく眺めていたら、靡いたエプロンが定位置に直った。
「さて、先程の話ですが、本当に聞きますか?」
「うーんと、俺が聞いても大丈夫なのなら。あんまり恋愛の話は得意じゃないんですけど」
「そんな、さすがに大学生に話せる程度に抑えますよ」
「それでお願いします。あと。パラレルラインの事故ってなんですか? そうイレギュラーの話って、頻発するもんなんでしょうか……?」
そう尋ねると、晴さんはふっと笑いながら、俺を手招いて駅長室まで案内してくれた。
いつもの調子でコーヒーメーカーでコーヒーを淹れながら口を開く。
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