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色仕掛け外交(物理)はいかが・4
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階段を走ってにおいを追う。あちこちの部屋からグールが飛び出してきて、そのたびに俺が日傘を突き刺すが、きりがない。
先頭をウラが走り、しんがりをミヒャエラが務めているが、ウラがヒクッと鼻を動かして言う。
「マリオン様、あっちからすっごいにおいがする!」
「おう、ウラ。どんなにおいだ?」
「生臭い! 奴隷市裏のにおい!」
蝋人形か、蝋人形の材料にされかけている子たちか。
どっちみち、俺たちが彼女たちを回収してから屋敷を出ないと、ウィルマに彼女たちごと燃やされかねないからなあ。
俺はヒクッと動かす。ウラが言うようなにおいは俺からはしないけれど……においがきついのだけはたしかだ。もしかすると、ウラのほうがにおいに敏感なのか?
ミヒャエラは油断なくグールが飛んでくるたびにナイフの柄を使って殴り飛ばしつつ言う。
「ご主人様、こちらはウラの判断に任せましょう。わたしたちよりも、ウラのほうが鼻が利きますから」
「そんなものなの? この子、元人間だけど」
「眷属は主人を守るために存在しますから、基本的に魔力や昼日に関してはともかく、夜の五感に関してはウラのほうが強いです」
なるほど……そういえばグールたちは基本的に、明かりなしでも蠢いているから、たしかに吸血鬼や人間よりも鼻が利くのかもしれないな。
俺は少し考えてからウラに尋ねる。
「ウラ、おいしそうなにおいか? ただ、生臭いだけか?」
「うーんと、ちょっとおいしそう。さっきマリオン様が食べてたご飯みたいなにおい!」
「よし。ミヒャエラ。多分ここに蝋人形候補の子たちがいる。この子たち連れて逃げるぞ。道、用意できるか?」
「もーう、本当にメイド使いの荒いご主人様ですねぇ。わかりましたよぅ、やればいいんでしょ!?」
さすがミヒャエラ。基本的に面白メイドだが有能なんだ。
さっさと窓をぶち破って、カーテンを切り裂いて逃げる準備を整えはじめた。俺はこの場を「頼んだ、ミヒャエラ」と言ってから、ウラと一緒ににおいのきつい部屋のドアを蹴り破った。
「うっ……!」
そこのにおいに、俺は鼻を摘まんだ。
奥で震えている女の子たちは、明らかに着せられた感じのゴシックドレスを着て、固まって震えていた。
そしてその奥までに続く道には、俺たちと同じサイズの人形が並べられていた。どれもこれも顔が怖ろしく整った女子供が、綺麗なドレスやドレススーツを着て立ち尽くしている。飴を絡めたように表情が固まっているが……明らかに人間が蝋に漬けられて絶命し、そのまま固まっているようだった。
その顔はどれもこれも絶望で凝り固まっているあたり、マルティンの趣味なんだろう。胸くそ悪いな。
そしてそのドレスは奥で震えている女の子たちの着ているものと同種だ。あの子たちに綺麗な服を着せているのは、コレクションとしてここに並べるつもりだったのか。
「だ、誰……?」
女の子たちのひとりは、こちらを震えながら見た。皆ビクビク震えているのに、俺の日傘の切っ先が血塗れなことに気付き、それをブンブン振るって血を落とした。
「君たちを助けに来た。もうじきこの屋敷は燃える。その前に助けに……」
「あの人たち、全員人間じゃなかった! ううん……この屋敷にいる人たちは全員……太陽の日に当ててようやく殺せるのに……あれと戦えるのに、あなたたちは人間ですらないじゃない!」
あちゃー……。
この辺りは、妹がやっていたゲームでも、血塗れなエクソシストたちを、恐怖のあまりに罵倒するシーンが存在していた。
そっか、助けに来られても、助かるまでは安心できずに罵倒するんだな。助けに来たのが吸血鬼だろうが、エクソシストたちだろうが。
「……俺にも君たちくらいの年頃の妹がいるんだ。妹たちくらいの年の子たちを助けたいと思っちゃ、駄目なのか?」
「マリオン様、妹いるの?」
ウラの場違いに明るい声に、震えている女の子たちは困惑したように、互いに顔を見合わせていた。
そういえば、ウラは知らなかったな。ミヒャエラはあまりにも当然のように知っていたから、言いそびれていた。俺は「おう」と答える。
「今は訳あって離ればなれだけどな。で、ここをこのまんま放置してたら、俺の妹が危ない目に遭うかもしれないんだから、それを阻止したい。だから君たちを助けたい。それじゃ信じられないか? 今、うちのメイドが逃げ道をつくってくれている。それで……」
「……ここに連れてこられるまでに、私たちの村は滅びました」
女の子たちのひとりが、また声を震わせて言った。
「私たち、それぞれ違う場所出身ですけど、皆それぞれ村を滅ぼされたんです。ここの家主が私たちを気に入ったからと……止めようとした人たちは皆ここにいる人たちに噛まれて……グールになってここの屋敷内を徘徊しています。私たちだけ助け出されて、それで……」
「うちに来い。うちで働けばいいから。うちで働いて、人間らしく生活送ればいいから。吸血鬼として生活しろなんて言わない。君たちは別にウラと状況が全然違うだろ」
女の子たちは三度顔を見合わせたあと、ようやく立ち上がった。
「……本当に、ここの家主を始末してくれますか? 敵、取ってくれますか?」
「そうしなきゃ、ここまで来た意味ないだろ」
マルティン、まじでこいつ始末しないと、無理だろ。こんなにあちこちの村に手を出してたんだったら、いつエクソシストが来てもおかしくない。エクソシストたちに連絡されるまでに、決着つけないと。
俺は女の子たちを連れて、そのまま廊下に出ようとする中。
「マリオン様、下がって!」
ウラが獣のように四つん這いになり、跳躍した。
跳躍して思いっきり踏みつけたのはお盆……食卓で見たのと同じものだ。
「ほう、素晴らしい。僕としてよく調教されたものですなあ」
「執事さんかよ……ミヒャエラはどうした?」
「本当にこの人、何度邪魔してもこちらに寄ってきたんですよぅ! 迷惑しちゃう!」
ミヒャエラはプリプリ怒っていたが、彼女の一糸乱れぬ着衣が、若干エプロンが擦り切れ、頬から血を流し、スカートの裾が乱れている……この執事、相当の使い手らしい。
俺は女の子たちを見ると、女の子たちは全員震えて固まっていた……どうもこの子たちの村を襲った吸血鬼っていうのは、マルティンだけでなく、この執事も含まれているらしい。
「大変申し訳ございませんが、いくらお客様であっても、旦那様のコレクションの持ち出しは断じて禁じておりますため、この場で私刑をさせていただきます」
「私刑……ねえ……断ると言ったら?」
「素晴らしい造詣の皆様ですので、最低限しか傷付けたくはございません。きちんと恐怖を植え込んでから蝋をかぶせさせていただきます故、ご容赦のほどを」
この執事かよ。マルティンのコレクションをつくってたのは。
いや、ミヒャエラみたいなもんか。ご主人様命の使用人っつうのは、本当に皆こういう偏執狂なのかね。
俺は日傘を構えつつ「ミヒャエラ」と呼んだ。
「なんですかぁ? この執事倒しちゃいますかぁ?」
「この子たち連れて先に離脱しろ。この子たち、うちのメイドにするから」
「いきなりハーレム展開ですか? ご主人様ヒューヒュー」
「違うわ!? 単純に行くとこないからうちで働いてもらうのと、うちの屋敷にひとりでも味方欲しかったからだわ!? あと、ウィルマに救援要請。頼む」
「もーう、仕方ないですねえ……ウラ、ご主人様をお守りくださいねぇ」
「うんっ!」
ウラはふーふーと唸り声を上げて、構えていた。
ミヒャエラが女の子たちを連れて、カーテンつたって逃げ出そうとする中、執事がカーテンを蹴破ろうとするのを、「ウラ」とふたりがかりで止めに入る。
「ほう……ベルガー夫人。お優しいですなあ。三級コレクションを逃がして、特級コレクションとして残るとは」
「はんっ、真祖が欲しいんじゃなかったのかよ?」
「残念ながら、男性では旦那様の伴侶にはなりようがございませんから」
「いつから気付いてた?」
「女性と男性では、においが違います故」
本当に吸血鬼の使用人っていうのは、どうしようもないな。
変態のミヒャエラのほうが何十倍もマシだとは、初めて思ったけれど。俺は日傘を、執事はお盆を構えた。
互いに様にならない得物だが、なにもないよりはマシだ。
先頭をウラが走り、しんがりをミヒャエラが務めているが、ウラがヒクッと鼻を動かして言う。
「マリオン様、あっちからすっごいにおいがする!」
「おう、ウラ。どんなにおいだ?」
「生臭い! 奴隷市裏のにおい!」
蝋人形か、蝋人形の材料にされかけている子たちか。
どっちみち、俺たちが彼女たちを回収してから屋敷を出ないと、ウィルマに彼女たちごと燃やされかねないからなあ。
俺はヒクッと動かす。ウラが言うようなにおいは俺からはしないけれど……においがきついのだけはたしかだ。もしかすると、ウラのほうがにおいに敏感なのか?
ミヒャエラは油断なくグールが飛んでくるたびにナイフの柄を使って殴り飛ばしつつ言う。
「ご主人様、こちらはウラの判断に任せましょう。わたしたちよりも、ウラのほうが鼻が利きますから」
「そんなものなの? この子、元人間だけど」
「眷属は主人を守るために存在しますから、基本的に魔力や昼日に関してはともかく、夜の五感に関してはウラのほうが強いです」
なるほど……そういえばグールたちは基本的に、明かりなしでも蠢いているから、たしかに吸血鬼や人間よりも鼻が利くのかもしれないな。
俺は少し考えてからウラに尋ねる。
「ウラ、おいしそうなにおいか? ただ、生臭いだけか?」
「うーんと、ちょっとおいしそう。さっきマリオン様が食べてたご飯みたいなにおい!」
「よし。ミヒャエラ。多分ここに蝋人形候補の子たちがいる。この子たち連れて逃げるぞ。道、用意できるか?」
「もーう、本当にメイド使いの荒いご主人様ですねぇ。わかりましたよぅ、やればいいんでしょ!?」
さすがミヒャエラ。基本的に面白メイドだが有能なんだ。
さっさと窓をぶち破って、カーテンを切り裂いて逃げる準備を整えはじめた。俺はこの場を「頼んだ、ミヒャエラ」と言ってから、ウラと一緒ににおいのきつい部屋のドアを蹴り破った。
「うっ……!」
そこのにおいに、俺は鼻を摘まんだ。
奥で震えている女の子たちは、明らかに着せられた感じのゴシックドレスを着て、固まって震えていた。
そしてその奥までに続く道には、俺たちと同じサイズの人形が並べられていた。どれもこれも顔が怖ろしく整った女子供が、綺麗なドレスやドレススーツを着て立ち尽くしている。飴を絡めたように表情が固まっているが……明らかに人間が蝋に漬けられて絶命し、そのまま固まっているようだった。
その顔はどれもこれも絶望で凝り固まっているあたり、マルティンの趣味なんだろう。胸くそ悪いな。
そしてそのドレスは奥で震えている女の子たちの着ているものと同種だ。あの子たちに綺麗な服を着せているのは、コレクションとしてここに並べるつもりだったのか。
「だ、誰……?」
女の子たちのひとりは、こちらを震えながら見た。皆ビクビク震えているのに、俺の日傘の切っ先が血塗れなことに気付き、それをブンブン振るって血を落とした。
「君たちを助けに来た。もうじきこの屋敷は燃える。その前に助けに……」
「あの人たち、全員人間じゃなかった! ううん……この屋敷にいる人たちは全員……太陽の日に当ててようやく殺せるのに……あれと戦えるのに、あなたたちは人間ですらないじゃない!」
あちゃー……。
この辺りは、妹がやっていたゲームでも、血塗れなエクソシストたちを、恐怖のあまりに罵倒するシーンが存在していた。
そっか、助けに来られても、助かるまでは安心できずに罵倒するんだな。助けに来たのが吸血鬼だろうが、エクソシストたちだろうが。
「……俺にも君たちくらいの年頃の妹がいるんだ。妹たちくらいの年の子たちを助けたいと思っちゃ、駄目なのか?」
「マリオン様、妹いるの?」
ウラの場違いに明るい声に、震えている女の子たちは困惑したように、互いに顔を見合わせていた。
そういえば、ウラは知らなかったな。ミヒャエラはあまりにも当然のように知っていたから、言いそびれていた。俺は「おう」と答える。
「今は訳あって離ればなれだけどな。で、ここをこのまんま放置してたら、俺の妹が危ない目に遭うかもしれないんだから、それを阻止したい。だから君たちを助けたい。それじゃ信じられないか? 今、うちのメイドが逃げ道をつくってくれている。それで……」
「……ここに連れてこられるまでに、私たちの村は滅びました」
女の子たちのひとりが、また声を震わせて言った。
「私たち、それぞれ違う場所出身ですけど、皆それぞれ村を滅ぼされたんです。ここの家主が私たちを気に入ったからと……止めようとした人たちは皆ここにいる人たちに噛まれて……グールになってここの屋敷内を徘徊しています。私たちだけ助け出されて、それで……」
「うちに来い。うちで働けばいいから。うちで働いて、人間らしく生活送ればいいから。吸血鬼として生活しろなんて言わない。君たちは別にウラと状況が全然違うだろ」
女の子たちは三度顔を見合わせたあと、ようやく立ち上がった。
「……本当に、ここの家主を始末してくれますか? 敵、取ってくれますか?」
「そうしなきゃ、ここまで来た意味ないだろ」
マルティン、まじでこいつ始末しないと、無理だろ。こんなにあちこちの村に手を出してたんだったら、いつエクソシストが来てもおかしくない。エクソシストたちに連絡されるまでに、決着つけないと。
俺は女の子たちを連れて、そのまま廊下に出ようとする中。
「マリオン様、下がって!」
ウラが獣のように四つん這いになり、跳躍した。
跳躍して思いっきり踏みつけたのはお盆……食卓で見たのと同じものだ。
「ほう、素晴らしい。僕としてよく調教されたものですなあ」
「執事さんかよ……ミヒャエラはどうした?」
「本当にこの人、何度邪魔してもこちらに寄ってきたんですよぅ! 迷惑しちゃう!」
ミヒャエラはプリプリ怒っていたが、彼女の一糸乱れぬ着衣が、若干エプロンが擦り切れ、頬から血を流し、スカートの裾が乱れている……この執事、相当の使い手らしい。
俺は女の子たちを見ると、女の子たちは全員震えて固まっていた……どうもこの子たちの村を襲った吸血鬼っていうのは、マルティンだけでなく、この執事も含まれているらしい。
「大変申し訳ございませんが、いくらお客様であっても、旦那様のコレクションの持ち出しは断じて禁じておりますため、この場で私刑をさせていただきます」
「私刑……ねえ……断ると言ったら?」
「素晴らしい造詣の皆様ですので、最低限しか傷付けたくはございません。きちんと恐怖を植え込んでから蝋をかぶせさせていただきます故、ご容赦のほどを」
この執事かよ。マルティンのコレクションをつくってたのは。
いや、ミヒャエラみたいなもんか。ご主人様命の使用人っつうのは、本当に皆こういう偏執狂なのかね。
俺は日傘を構えつつ「ミヒャエラ」と呼んだ。
「なんですかぁ? この執事倒しちゃいますかぁ?」
「この子たち連れて先に離脱しろ。この子たち、うちのメイドにするから」
「いきなりハーレム展開ですか? ご主人様ヒューヒュー」
「違うわ!? 単純に行くとこないからうちで働いてもらうのと、うちの屋敷にひとりでも味方欲しかったからだわ!? あと、ウィルマに救援要請。頼む」
「もーう、仕方ないですねえ……ウラ、ご主人様をお守りくださいねぇ」
「うんっ!」
ウラはふーふーと唸り声を上げて、構えていた。
ミヒャエラが女の子たちを連れて、カーテンつたって逃げ出そうとする中、執事がカーテンを蹴破ろうとするのを、「ウラ」とふたりがかりで止めに入る。
「ほう……ベルガー夫人。お優しいですなあ。三級コレクションを逃がして、特級コレクションとして残るとは」
「はんっ、真祖が欲しいんじゃなかったのかよ?」
「残念ながら、男性では旦那様の伴侶にはなりようがございませんから」
「いつから気付いてた?」
「女性と男性では、においが違います故」
本当に吸血鬼の使用人っていうのは、どうしようもないな。
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