オーパーツ・ディストラクション─君が背負うもの─

石田空

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原点

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 真壁が封鎖地区……と呼ばれる前のこの町……で暮らしていたのは、今から三年ほど前になる。
 20世紀の面影を残した町、と言えば聞こえはいいが、単純に年寄りの地主が多過ぎたせいで、都市開発が全く進まないまま取り残されただけである。
 それでも少し大通りに出れば、希少価値の高い商店街が並び、魚屋、八百屋、豆腐屋……物価高騰の荒波にも負けずに賢明に残って商売をしている場所に到着し、生活するにはちょうどよかった。
 この手の場所は物価の関係で年寄りやシングルマザーばかりが住み、真壁のような御用聞きが仕事するにはちょうどよかった。
 なんでも屋ほどなんでもできる訳ではないが、年寄りの電球交換、高いところの掃除にはじまって、屋根の修理、植木の手入れ、町内会の屋台、シングルマザーや年寄りが市役所に書類を取りに行くときの同行など、とにかく小銭稼ぎできることはなんでもやり、薄利多売のこの商売が、意外に上手く行っていた。
 無愛想に無口。しかし与えられた仕事はきっちりとこなす。
 おかげで年寄りと女子供からはひっきりなしに依頼が来ていたために、彼が安アパートに転がってひとりで生活するには充分過ぎる儲けがあった。
 真壁は元々ここの地主の妾の子だったがために、存在としてかなり中途半端な存在だったが。彼の素性を知っている年寄りはひとりまたひとりと死んでいるため、いずれは皆いなくなるだろうと思っていた。
 ……まさか、本当にあっという間にいなくなるとは、彼だって思っていなかった。

****

 頭が割れるように痛い。

【ナンデオ前ハ意識ヲ明ケ渡サナイ?】
「はあ?」

 幻聴かと思った。
 体が鉛のように重くて動かない。指先ひとつ動かせないことで、「そういえば」と真壁は察した。
 その日、最近一緒に仕事をするようになった連中と屋台の準備をしていた。
 氏子が年々減少して経営悪化で悩む神社の依頼を受けて、屋台の準備をしていたのだ。屋台だけやっている業者もいるらしいが、それを頼むことすらできないほど経営が逼迫しているからと、御用聞きに泣きついてきたのだ。
 仕方なく仲間たちとやっていたが。

「あれ?」

 その中で最年少の少年が小首を傾げた。

「なに? さっさとやんねえと巧怒るよ?」
「そうなんだけどさあ……あれなに?」
「……なにあれ」

 オーパーツは未だに天文台も観測も予測もできていない。
 そのことは新聞やニュースを読んでいたら誰もが知っている話だが、この辺りに住んでいる人々は新聞もテレビもないのが当たり前の生活を送っているため、そんなことすら知らなかった。
 ただ、アラートがそのとき、鳴らなかった。
 大量のオーパーツが、郷愁を感じさせる街並みを粉々にしていく。悲鳴が上がる。家が潰れたと声が響く。
 おばあちゃんが。孫が。
 娘が。子供が。
 下敷きになった。オーパーツが刺さった。血が、止まらない。
 助けて……助けて……!!
 なんとか免れた人々は、公民館やら地元の公立校やらに避難誘導されていく。
 真壁は神社の境内で、潰れた拝殿の下敷きになって、血がどんどん抜け落ちていたはずなのだ。死にたくないとは思わなかった。自分の母親もぽっくりと死んだ。父親には高い香典をもらって、それで母を焼き場で焼いて共同墓地に納めた。
 自分もまた、共同墓地に埋められるんだろう。
 そこまで考えて、真壁は今、自分の中でペラペラしゃべっている声に苛ついた。

【何故消エナイ?】
「うるせえ。てめえが勝手に俺の中でペラペラしゃべってんだろうが」
【アリエナイ。コノ星ノ人間ハ、ソコマデ強クナ】
「うるせえ、もう黙れ」
【────……………!! ──……! ──……!】

 なにかしゃべっていたはずだが、真壁は無視した。ただ、自分の手の感覚が妙にベタついているのが気になった。
 貧血の感覚がない。汗やペンキ、鉄板に敷くはずだった油でもない。だとしたら、このベタベタした感触はなんだ?
 真壁はベタベタしたものがなんなのかわからないまま、目が覚めた。

****

「これすごいねえ……君を救助に行った救急隊員が軒並み毒でやられちゃったからさあ……」

 目が覚めたとき、彼は全身が固定されて身動き取れないことに気付いた。そして彼に話しかけている男。
 あからさまに服が防毒対策施された服を着ている。

「あんたは?」
「あー、ごめんね。申し遅れた。僕ぁ、早乙女。宇宙防衛機構の天才科学者……なんだけど、君あそこの地区出身だったら知らないかもね。あそこ、オールドメディア全然入ってない場所だしさ」
「……宇宙ぼうえ……なんだ?」
「宇宙防衛機構。早い話、たった一日オーパーツが降り注いだせいで、君の地区滅んじゃっただろう? そのオーパーツに対抗する組織なんだよねえ」
「……っ!?」
「あー、ごめんね。今の君、代替品準備しているところだとはいえ、このまんまだと君も死ぬし人も大量に死ぬから、今特殊樹脂で拘束させてもらってるんだ。ごめんねえ?」

 真壁は意識を集中させれb、明らかに包帯とは違う素材で首も腕も固定されている上に、皿にその上にベルトでベッドから脱出できないように五体全て留められていることに気付いた。

「おい、あそこはいったいどうなった!? 人は!?」
「ごめんねえ……僕たちも状況把握できてないんだよ」
「はあっ!? 何人死んだかも……何人どこの病院に行ったのかも、かよ……」
「うん。何故か情報規制されて、僕たちも調査に行けてないし、生き残った人たちから事情聴取もできてない」
「……あそこには、顔見知りがいた」
「らしいね」
「そいつらも……死んだのか?」
「ごめんね、わからないんだ。何人亡くなって、何人無事なのか。あと、君にはいくつも残酷な話をしないといけない」

 早乙女は、淡々と真壁の現状を語った。
 ひとつ。彼はオーパーツに浸食され、既に普通の人間からは外れてしまっていること。
 ひとつ。オーパーツの欠片ひとつひとつには人格が存在し、一度浸食されてしまった人間は、人格が乗っ取られてしまう危険があるということ。
 ひとつ。真壁は特殊なのか、何故かオーパーツに浸食されてもなお、人格が残っていること。
 彼の特殊な状態は、全員から毒を出し、その毒は地球人では防毒処理の施された樹脂でなかったら対処することができないものの、その毒はオーパーツにも効いている。

「だからね、君とは取引がしたいと思ってるんだよ」
「……なにする気だ」
「残念ながら、僕たち宇宙防衛機構は民間組織であり、オーパーツの対処を国から受注しているけど、国から塞き止められた情報を抜くことは困難だ。でも君には必ず故郷に行く手段を用意しよう。その代わり、君の体、君の能力、その全てを宇宙防衛機構に貸してほしい。君のその体質は、今までできなかったオーパーツを人間から無傷で引き離す方法を構築できるかもしれないんだ」
「……どうやって、国相手にどうこうする気だよ」
「あちらもね、面子ってものがあるから。僕たちは結果を出し続けて、もしかして警察も軍もいらなくない? 宇宙防衛機構さえいれば大丈夫じゃない? そう思わせるくらいに活躍すれば、さすがに国も上から目線を辞めるしかなくなると思うんだ。だって今のところ、警察も軍も、オーパーツの対処法はせいぜいオーパーツに浸食された人を銃殺する以外にできないんだからね。でも真壁くんの毒は、何故かオーパーツにも効いている。その毒さえ研究分析すれば、僕たちは警察にも軍にもできなかった、浸食された人たちを元に戻しながらオーパーツを回収する術だって会得できる。君の住んでいた地区は、君と同じくオーパーツに浸食された人々がたくさん出ているはずだ。そんな人たちを元に戻す方法、欲しくはないかい?」

 早乙女の言っていることは身勝手極まりなかった。
 要はたまたま浸食された人間の中で、意識を奪われずに宇宙人の力を獲得することができた人間が現れたから、体のいいモルモットになれと命令しているのだ。
 だが。
 真壁は帰りたかった。
 20世紀の面影とかどうでもよかった。地主がどれだけ死のうが関係なかった。古臭いしカビ臭いし、便利で楽とは程遠い生活。
 それでも、こんな清潔を通り過ぎて無機質な場所にずっといるよりはよっぽどマシだった。

「なにをすればいい?」
「まずは傷を治そうか。一応ここも本来は宇宙開発のための機関だからね。樹脂はいくらでもあるから、君の体液の毒に反応しない服もこちらで用意できるだろうさ。そのあと、君にパートナーを紹介しよう。よく働くいい子だよ。その子と一緒に、オーパーツを回収してくれればいい。君が手柄を立て、救える人を救い、人がネットに書き込みたくなるような活躍をするたびに、国には強い揺すぶりになる……こちらの要求である、あの地区への調査要請だって、飲まずにはいられなくなる」
「……わかった」

 かくして、真壁は傷を治し、彼専用のライダースーツが完成したところで、宇宙防衛機構のエージェントとして登録された。
 パートナーになった女は不運ではあるが、たしかに早乙女の言った通り、仕事はできるほうであった。特に事務仕事や保険の申請なんて、真壁にはなにを言っているのかがわからない。
 浸食された人間の中には、男もいた。女もいた。中にはオーパーツに浸食されたショックでそのまんま死んでしまう子供や年寄りもいた。
 それでもオーパーツをかき集め、やっとこじ開けることができたのだ。

 故郷の調査要請が。
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