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故郷
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閉鎖地区への調査に行くということだけは決まったものの、決行日がなかなか決まらなかったのは、オーパーツ襲撃のアラートが増え続けたせいである。
その日も早朝から三件続けてオーパーツ回収と異形体になった人々を元に戻す作業に行っていた長瀬は、本部に帰ってぐったりとパソコンデスクにもたれかかっていた。
「なんですかね……まるで私たちの行動予測がされてるみたいで、全然辿り着きません」
「お疲れ様。人手が減って、正直困ってるんだけどね」
柏葉もぐったりとしている。彼はパートナーがいないせいで、ほぼほぼオーパーツ襲来の際は民間人の避難誘導が仕事だが、それでもいつ異業体に襲われるかわからない現場なのだから、命懸けだ。
閉鎖地区に調査の許可が下りてから一週間。オーパーツ飛来のせいで被害者が増え、そのせいでエージェントの欠落も増えている。
今朝もひと組病院まで搬送してもらったばかりだ。
怪我で入院くらいならまだいい。オーパーツに浸食されて、なんとか引き抜いたものの入院しないといけなかったり。骨折、打撲は軽いほう。この一週間は切断や死亡がなかったのだけが幸いだった。遺族に頭を下げるのに慣れたい人間はいない。
長瀬は歯がゆく思いながら、ちらちらと自動ドアの向こうを見た。彼は現在メンテナンス中だ。定期的に彼が毒を放ったあと、後遺症はないか、新しい毒素を出してないかと任務が続いたあとは定期検診とメンテナンスが施される。今日はそのメンテナンスが長引いて、本部に帰ってから未だに顔を合わせていない。
真壁の機嫌が一日追うごとに悪くなっているのは、いつまで経っても目的地に辿り着かないからだろう。彼のピリピリとした気配を感じながら、長瀬は常に「ひい……」と喉を詰まらせているのには、いい加減に慣れた。
この一週間、唯一の幸運は、手術が成功した水穂の目が覚めたくらいだ。彼女は深度4だったにもかかわらず、手術の際に異能者としての適正であるオーパーツ由来の力を全て失ったがために、早乙女念願の異能者エージェントの補充という意図は崩れてくれた。
長瀬は正直ほっとしていたが、人手不足に歯止めがかからない現状は変わっていない。
柏葉はなんとか事務処理を終わらせ、クラウドにデータを保存してからパソコンを閉じる。
「でもまあ……水穂さんも無事でよかった。エージェントにならないってのは、まあ……思うところがない訳でもないが」
「柏葉さん、そんなにパートナー欲しかったんですか?」
「違う違う。今は避難民誘導で精一杯で、前線に出ているのにまともに戦えないから」
「まあ……そうですね」
基本的にエージェントは人手が足りず、常にパートナーを失いながら走り回っていた長瀬も、前線に出たら真っ先にしないといけないことが、その地区のシェルターへの避難誘導と、土地の持ち主を探し出しての破壊許可取り、そして怪我人を把握してからの救急車を呼ぶこと、事後処理多数。
オーパーツは回収しないといけないが、宇宙防衛機構はいくら国から任務を受注していたとしても、所詮は民間企業。公共団体ではない以上、一般人からの信頼によって成立している組織だ。ひとつ信頼が揺らげば、活動はできなくなる。SNSのひとつのカキコミは人を簡単に死に追いやるのだから、抜け目なくやるしかない。
話を戻すとして、エージェントは基本はふたりひと組。パートナーがいない者は後方支援以外するなというのが鉄則だ。非戦闘員がしゃしゃり出ても、病院に搬送される人間が増えるだけ。軍や警察から出向に来た人間により、エージェントたちは最低限の身の守り方を覚えているが、つい最近までは軍や警察が来るまでの間、できる限り一般人を死なせないように行動する以外できることがなかった。
警察から出向してきた柏葉からしてみれば、一般人出身でありながら異能者として前線で戦う真壁に、いろいろと思うところがあるのだろう。
「真壁さんだけにいい格好させる訳にはいかないし」
「……真壁さんのオーパーツ回収方法は荒々しくて、あれを柏葉さんが真似する必要はないですけど」
真壁の戦闘を間近で見ている長瀬からしてみれば、彼はやけに戦い慣れているが、それはいわゆる喧嘩殺法というやつだ。警察官である柏葉が真似していいものとは思えない。
真面目に返す長瀬に、柏葉がヘラッと表情を緩めた。
「うん、そうなんだけどね。そうなんだけど……格好いいって思ったんですよ」
「はあ……」
「……恥ずかしい話、自分は特撮に憧れて今の職に就いたところがありますんで。警察だったら本当に守りたくない要人警護も仕事の内ですけど、オーパーツの被害者はたとえどんな性格であっても、どんな人種であっても、皆等しく被害者じゃないですか。そんな人たちを身を挺して守ることができるって、格好いいじゃないですか」
「……柏葉さんは、つまりはヒーローになりたかったと?」
「まあ……はい」
柏葉が少しだけ照れて笑っているのを、長瀬は微妙な顔で、自販機で買ったコーヒーを飲む。今は購買部は水穂の同僚の無愛想な男性が切り盛りしていて、いまいち買い物がしにくく、このところ購買部は利用していない。早く水穂に戻ってきてほしいと長瀬は思っている。
(……柏葉さんが言うほど、真壁さんヒーローに見えないけどな)
人はまあまあ助けている……無茶苦茶怪我しているし、オーパーツの浸食被害も甚大だが。
女子供にはそこまで怖くない……いや、真壁は無愛想なのを長瀬が慣れてしまっただけで、無表情で荒々しい口調で話しかけられたら、大人しい気質の女子供の場合は泣くだろう。
ヒーロー。ヒーローとは。
柏葉が真壁と表立っては険悪ではあるものの、そう称していたことをなんと言えばいいのかわからず反応に困っていたが。
早乙女にメンテナンスをしてもらっていた真壁がやっと戻ってきた。
気のせいか、この数日ずっと気が立っていたにもかかわらず、落ち着いた様子をしていた。
「お帰りなさい、真壁さん……機嫌いいんですか?」
「ええ?」
柏葉が思わず声を裏返したら、途端に真壁はうろんな目で柏葉を見た。
やはり長瀬はもう真壁の無愛想な言動に慣れてしまったらしいと納得する。そして真壁と一緒にやってきた早乙女がパンパンと手を叩く。
「ああ、柏葉くんもいた。ちょうどいいから、今からミーティングはじめようか」
「ミーティング? なんの?」
任務のミーティングにしてはエージェントの数が少ない。
それに柏葉だけでなく、長瀬もおかしいと思って早乙女を見ていたが。早乙女がさらさらと腕に挟んできた百均のスケッチブックを取り出すと、キュッキュと油性ペンを走らせた。
【宇宙防衛機構の情報がハッキングされている。音声データは基本的にサーバーに保存しているから、おそらくそれも抜かれてる】
「はあっ!?」
思わず長瀬が悲鳴を上げたら、途端に柏葉に口を抑えられる。
「……すみません」
「いやいや……最近オーパーツ襲撃が続いたのと、ハッキングされているのは関係あるんですか?」
柏葉の問いに、早乙女が微妙な返答をする。
【わからない】
「わからないんですか……」
【ただこの一週間、オーパーツ襲撃の際に何者かがうちにハッキングしてデータを覗き見しているのは確認した。オーパーツのデータのほとんどはクラウドには繋がず、内部だけで保存していたけれど、本部の監視カメラ情報、音声情報は抜かれていると思って間違いない】
「このどさくさに紛れて、そんなことしてる人がいたんですか……でも、する理由ってなんですか……」
【それなんだけど、ハッキングはいったいどこからなんだと、位置情報を探っていた。大量にフェイクを掴まされたけれど、その位置情報は】
スケッチブックがいっぱいになったから、早乙女が紙を捲り上げながら、次の文面を書き記した。
【閉鎖地区になっている】
「……! それ……いったいどうやって」
「普通に考えたら、あそこは無茶苦茶に破壊されているから、そもそもネットに繋ぐ方法なんて……」
【まあ、外のWi-Fiから無理矢理電波を引っこ抜いたり盗電したりして、ネット回線を通す方法はいくらでもあるんだけどね。で、結論から言うけれど、向こうに住んでいる人間の一部が、今の真壁くんと同じ状態なんだと思う】
「……どういう意味だ?」
真壁は少しだけ目を釣り上げた。それでも声を荒げてない辺り、真壁は閉鎖地区の調査のめどが立ったからか、最近の苛立ち具合を思えば冷静な声色だ。今までの伸ばされるだけ伸ばされたのを思えば、他のことは問題ないらしい。
早乙女がサラサラと続きを書く。
【これはあくまで推測だけれど。さすがに弱い回線でハッキングは無理だ。よそからWi-Fi繋いで盗電したとしても、ハッキングできるほどの強度はない。だとしたら、真壁くんと同じくオーパーツの浸食に人格が耐えきった異能者が、自身の能力を使ってハッキングを仕掛けてきたんだと思われる】
宇宙防衛機構で確認されているだけでも、異能者の能力は人によって異なる。
真壁のように全身の体液が毒になるような人間とか、発火体質になる人間。全員を宇宙防衛機構にスカウトできた訳ではないが、ときおりデータ採集のために定期検診には来てもらっている。
ハッキングするための異能がどんなものかはわからないが、そんな異能者だっていることにはいるのだろうが。
「理屈はわかりましたけど……でも、それだったらどうして、わざわざハッキングを仕掛けてきたんですか? オーパーツのめぼしい情報がないのは一回のハッキングでわかるはずですけど」
長瀬の戸惑った声に、柏葉も頷くが。それに早乙女がさらさらと書き記した。
【おそらく、招待を受けている。向こうの異能者から。欲を言うと異能者をスカウトしてエージェントにできれば万々歳なんだけど、せめて向こうの異能者たちを説得して、閉鎖地区の調査の邪魔をされないように算段を立てたい。これ、君の故郷の人間なんだけど真壁くん説得の方頼める?】
沈黙。
真壁が押し黙るのは今にはじまったことではないが、黙り込んで長考するのは珍しい。長瀬は彼をしばらく見ていたら、やがて真壁は重い口を開いた。
「多分、あいつらだろ。わかった。だが」
「あの……真壁さん?」
「あいつらも頑固だから、そうすぐに説得に応じるとは思えないがな」
その言葉は、独り言のように長瀬には聞こえた。
その日も早朝から三件続けてオーパーツ回収と異形体になった人々を元に戻す作業に行っていた長瀬は、本部に帰ってぐったりとパソコンデスクにもたれかかっていた。
「なんですかね……まるで私たちの行動予測がされてるみたいで、全然辿り着きません」
「お疲れ様。人手が減って、正直困ってるんだけどね」
柏葉もぐったりとしている。彼はパートナーがいないせいで、ほぼほぼオーパーツ襲来の際は民間人の避難誘導が仕事だが、それでもいつ異業体に襲われるかわからない現場なのだから、命懸けだ。
閉鎖地区に調査の許可が下りてから一週間。オーパーツ飛来のせいで被害者が増え、そのせいでエージェントの欠落も増えている。
今朝もひと組病院まで搬送してもらったばかりだ。
怪我で入院くらいならまだいい。オーパーツに浸食されて、なんとか引き抜いたものの入院しないといけなかったり。骨折、打撲は軽いほう。この一週間は切断や死亡がなかったのだけが幸いだった。遺族に頭を下げるのに慣れたい人間はいない。
長瀬は歯がゆく思いながら、ちらちらと自動ドアの向こうを見た。彼は現在メンテナンス中だ。定期的に彼が毒を放ったあと、後遺症はないか、新しい毒素を出してないかと任務が続いたあとは定期検診とメンテナンスが施される。今日はそのメンテナンスが長引いて、本部に帰ってから未だに顔を合わせていない。
真壁の機嫌が一日追うごとに悪くなっているのは、いつまで経っても目的地に辿り着かないからだろう。彼のピリピリとした気配を感じながら、長瀬は常に「ひい……」と喉を詰まらせているのには、いい加減に慣れた。
この一週間、唯一の幸運は、手術が成功した水穂の目が覚めたくらいだ。彼女は深度4だったにもかかわらず、手術の際に異能者としての適正であるオーパーツ由来の力を全て失ったがために、早乙女念願の異能者エージェントの補充という意図は崩れてくれた。
長瀬は正直ほっとしていたが、人手不足に歯止めがかからない現状は変わっていない。
柏葉はなんとか事務処理を終わらせ、クラウドにデータを保存してからパソコンを閉じる。
「でもまあ……水穂さんも無事でよかった。エージェントにならないってのは、まあ……思うところがない訳でもないが」
「柏葉さん、そんなにパートナー欲しかったんですか?」
「違う違う。今は避難民誘導で精一杯で、前線に出ているのにまともに戦えないから」
「まあ……そうですね」
基本的にエージェントは人手が足りず、常にパートナーを失いながら走り回っていた長瀬も、前線に出たら真っ先にしないといけないことが、その地区のシェルターへの避難誘導と、土地の持ち主を探し出しての破壊許可取り、そして怪我人を把握してからの救急車を呼ぶこと、事後処理多数。
オーパーツは回収しないといけないが、宇宙防衛機構はいくら国から任務を受注していたとしても、所詮は民間企業。公共団体ではない以上、一般人からの信頼によって成立している組織だ。ひとつ信頼が揺らげば、活動はできなくなる。SNSのひとつのカキコミは人を簡単に死に追いやるのだから、抜け目なくやるしかない。
話を戻すとして、エージェントは基本はふたりひと組。パートナーがいない者は後方支援以外するなというのが鉄則だ。非戦闘員がしゃしゃり出ても、病院に搬送される人間が増えるだけ。軍や警察から出向に来た人間により、エージェントたちは最低限の身の守り方を覚えているが、つい最近までは軍や警察が来るまでの間、できる限り一般人を死なせないように行動する以外できることがなかった。
警察から出向してきた柏葉からしてみれば、一般人出身でありながら異能者として前線で戦う真壁に、いろいろと思うところがあるのだろう。
「真壁さんだけにいい格好させる訳にはいかないし」
「……真壁さんのオーパーツ回収方法は荒々しくて、あれを柏葉さんが真似する必要はないですけど」
真壁の戦闘を間近で見ている長瀬からしてみれば、彼はやけに戦い慣れているが、それはいわゆる喧嘩殺法というやつだ。警察官である柏葉が真似していいものとは思えない。
真面目に返す長瀬に、柏葉がヘラッと表情を緩めた。
「うん、そうなんだけどね。そうなんだけど……格好いいって思ったんですよ」
「はあ……」
「……恥ずかしい話、自分は特撮に憧れて今の職に就いたところがありますんで。警察だったら本当に守りたくない要人警護も仕事の内ですけど、オーパーツの被害者はたとえどんな性格であっても、どんな人種であっても、皆等しく被害者じゃないですか。そんな人たちを身を挺して守ることができるって、格好いいじゃないですか」
「……柏葉さんは、つまりはヒーローになりたかったと?」
「まあ……はい」
柏葉が少しだけ照れて笑っているのを、長瀬は微妙な顔で、自販機で買ったコーヒーを飲む。今は購買部は水穂の同僚の無愛想な男性が切り盛りしていて、いまいち買い物がしにくく、このところ購買部は利用していない。早く水穂に戻ってきてほしいと長瀬は思っている。
(……柏葉さんが言うほど、真壁さんヒーローに見えないけどな)
人はまあまあ助けている……無茶苦茶怪我しているし、オーパーツの浸食被害も甚大だが。
女子供にはそこまで怖くない……いや、真壁は無愛想なのを長瀬が慣れてしまっただけで、無表情で荒々しい口調で話しかけられたら、大人しい気質の女子供の場合は泣くだろう。
ヒーロー。ヒーローとは。
柏葉が真壁と表立っては険悪ではあるものの、そう称していたことをなんと言えばいいのかわからず反応に困っていたが。
早乙女にメンテナンスをしてもらっていた真壁がやっと戻ってきた。
気のせいか、この数日ずっと気が立っていたにもかかわらず、落ち着いた様子をしていた。
「お帰りなさい、真壁さん……機嫌いいんですか?」
「ええ?」
柏葉が思わず声を裏返したら、途端に真壁はうろんな目で柏葉を見た。
やはり長瀬はもう真壁の無愛想な言動に慣れてしまったらしいと納得する。そして真壁と一緒にやってきた早乙女がパンパンと手を叩く。
「ああ、柏葉くんもいた。ちょうどいいから、今からミーティングはじめようか」
「ミーティング? なんの?」
任務のミーティングにしてはエージェントの数が少ない。
それに柏葉だけでなく、長瀬もおかしいと思って早乙女を見ていたが。早乙女がさらさらと腕に挟んできた百均のスケッチブックを取り出すと、キュッキュと油性ペンを走らせた。
【宇宙防衛機構の情報がハッキングされている。音声データは基本的にサーバーに保存しているから、おそらくそれも抜かれてる】
「はあっ!?」
思わず長瀬が悲鳴を上げたら、途端に柏葉に口を抑えられる。
「……すみません」
「いやいや……最近オーパーツ襲撃が続いたのと、ハッキングされているのは関係あるんですか?」
柏葉の問いに、早乙女が微妙な返答をする。
【わからない】
「わからないんですか……」
【ただこの一週間、オーパーツ襲撃の際に何者かがうちにハッキングしてデータを覗き見しているのは確認した。オーパーツのデータのほとんどはクラウドには繋がず、内部だけで保存していたけれど、本部の監視カメラ情報、音声情報は抜かれていると思って間違いない】
「このどさくさに紛れて、そんなことしてる人がいたんですか……でも、する理由ってなんですか……」
【それなんだけど、ハッキングはいったいどこからなんだと、位置情報を探っていた。大量にフェイクを掴まされたけれど、その位置情報は】
スケッチブックがいっぱいになったから、早乙女が紙を捲り上げながら、次の文面を書き記した。
【閉鎖地区になっている】
「……! それ……いったいどうやって」
「普通に考えたら、あそこは無茶苦茶に破壊されているから、そもそもネットに繋ぐ方法なんて……」
【まあ、外のWi-Fiから無理矢理電波を引っこ抜いたり盗電したりして、ネット回線を通す方法はいくらでもあるんだけどね。で、結論から言うけれど、向こうに住んでいる人間の一部が、今の真壁くんと同じ状態なんだと思う】
「……どういう意味だ?」
真壁は少しだけ目を釣り上げた。それでも声を荒げてない辺り、真壁は閉鎖地区の調査のめどが立ったからか、最近の苛立ち具合を思えば冷静な声色だ。今までの伸ばされるだけ伸ばされたのを思えば、他のことは問題ないらしい。
早乙女がサラサラと続きを書く。
【これはあくまで推測だけれど。さすがに弱い回線でハッキングは無理だ。よそからWi-Fi繋いで盗電したとしても、ハッキングできるほどの強度はない。だとしたら、真壁くんと同じくオーパーツの浸食に人格が耐えきった異能者が、自身の能力を使ってハッキングを仕掛けてきたんだと思われる】
宇宙防衛機構で確認されているだけでも、異能者の能力は人によって異なる。
真壁のように全身の体液が毒になるような人間とか、発火体質になる人間。全員を宇宙防衛機構にスカウトできた訳ではないが、ときおりデータ採集のために定期検診には来てもらっている。
ハッキングするための異能がどんなものかはわからないが、そんな異能者だっていることにはいるのだろうが。
「理屈はわかりましたけど……でも、それだったらどうして、わざわざハッキングを仕掛けてきたんですか? オーパーツのめぼしい情報がないのは一回のハッキングでわかるはずですけど」
長瀬の戸惑った声に、柏葉も頷くが。それに早乙女がさらさらと書き記した。
【おそらく、招待を受けている。向こうの異能者から。欲を言うと異能者をスカウトしてエージェントにできれば万々歳なんだけど、せめて向こうの異能者たちを説得して、閉鎖地区の調査の邪魔をされないように算段を立てたい。これ、君の故郷の人間なんだけど真壁くん説得の方頼める?】
沈黙。
真壁が押し黙るのは今にはじまったことではないが、黙り込んで長考するのは珍しい。長瀬は彼をしばらく見ていたら、やがて真壁は重い口を開いた。
「多分、あいつらだろ。わかった。だが」
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